第47話 花嫁修行中に曲者です!
◇◇◇
同時刻――。
飯田芽以は翔が現実の中二病ワールドに巻き込まれている頃――。
「おばさま! これでどう!? 結構うまくできてると思わない!?」
芽衣は大きな東村家の厨房で大量の大根を前にしてかつらむきをしていた。華麗なる包丁さばきでうっぺらい大根を量産していく。
その様子をあかりの母親の『月子(つきこ)』は満足そうにうなずく
「ああ! ばっちりじゃないか! なんだい、なんだい、普段から料理をしてるのかい!? あんたぐらいの歳じゃ珍しいんじゃなのかい?」
「ふん! 毎日伊達に練習してるわけじゃないわよ。混沌の暗黒戦士の覚悟はやがて神龍さえも凌駕するのよ! それで、おば様、次は何をすればいいのかしら? 私は翔さんの大好物、血の女神と加護の和食を極めたいの!」
「うんうん、向上心があって一途で可愛い子じゃないか! かっかか、言ってることはちっともわからないけどね」
豪快で組を支えて来た肝っ玉母さんの月子と、好きな人のためなら向上心が際限なく上がり、体育会系の家で育った芽以との相性はよく、短い時間ではあるが互いに互いのことを気に入っていた。
「はぁぁ、私の娘もこのぐらい可愛げがあればね……」
「えっ? あかりさん、可愛いじゃない。少なくとも月の女神と比べても遜色のないと思うわよ……私としては黄昏の栄華のような感情を抱かざる得ないけど」
「確かに顔やスタイルはいいんだけどね……私に似て」
ちゃっかり自慢を入れる月子。
だが、すぐに疲れたような顔になり、大きくため息を吐く。
「はぁぁぁぁ、あの子は頑固揃いの家の中でもとびっきり頑固だからね……一度そうと決めたら、絶対に自分を曲げない人間さ。かっかか、10年前にお見合いさせようとしたら「好きな人と以外は絶対にしない!」って言って家を飛び出して……かっかか、それからまだ処女なんじゃないかね……」
「………………」
(それがなんで翔さんの姉に……って聞きたいけど……聞ける雰囲気じゃないわね……えっ、て、てか、あんな美女が処女なの!? 世の中の男は節穴ね……)
「まあ、あたしゃ、それでもよかったのよ。東村家はどうせ没落する……時代がうちの家業を許さないさ。だから、あの子が家を出たのも、いいと思った。喧嘩別れをしたけど、絶縁したわけじゃないから、定期的に連絡は取ってたしね……だけど」
月子は懐から、タバコを取り出して加えるが……そこで思いとどまる。
「ああ……あの子が帰ってきたから、タバコはやめるんだった……かっかか、バカ娘が『決意』して帰ってくるなんて思いもしなかったから……忘れてたよ。まったく……」
悪態をつきながらもタバコを握りつぶす月子はどこか嬉しそうだった。
(なんか、嬉しそうね……はっ、これが家族愛! 美しいわ!)
と、芽以が感動をしていると……。
その時は突然やってきた――。
「……………」
「おば様……?」
月野は台所の入り口の方を見る。その顔には先ほどまでの笑顔はなくなっており、警戒の色が深く刻まれている。
同時に芽衣の脳裏には背筋が凍るような嫌な予感がよぎる。
やがて大勢の足音が聞こえる――。
「やれやれ……今日は千客万来だね」
台所に入ってきたのは明らかにその筋の黒人の筋骨隆々の外国人が4人と……初老の白い髭を携えた小柄な老人が1人……。
「な、何よ、あんたたちは!」
「悪いが失礼するよ……」
月野は突然の乱入者に怯える芽以をかばうように前に出る。
「なんだい、なんだい、家の組にカチコミとはいい度胸だね。というか、ここに来るまでに家の若いのと、如月さんの護衛の来た数持ち『グレイヒューマン』がいた筈じゃないかい?」
「ふん、『数持ち』には『数持ち』を当てるに限るわい。高くついたが、傭兵という連中はどんな時も金次第というのは、こういう時にはわかりやすくてありがたい」
「…………」
「ど、どういうこと……!?」
(な、何を言ってるの、この人たち……そ、そう言えば外から、銃撃音みたいな音が聞こえるようなえっ、な、なに? ど、どういうこと?)
混乱している芽以をよそに老人は鋭い視線を送る。
「静かにせい。わしは『雪城雷蔵(ゆきしろらいぞう)』。わしは取られたものを取り返しに来ただけじゃわい……『雪城翔』はどこにおる」
老人は静かに言い放つ。
翔の知らないところで事態は最悪な方向に動き始めた。
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