おれはドラゴン、淫魔、吸血鬼、人間のクォーターですが、なんとか男娼になってこのサイバーパンク世界を生き抜きます
高田アスモ
Season1
第1話
西暦二千年、世界は覚醒した。そして人類は三つの脅威に襲われるのだった。
一つ目、別世界からドラゴン、悪魔、天使、妖精等の存在が数々に現れたのだ。
そのまま人類はさらなる局面に差し掛かる。
二つ目、人類の変貌――後にデミヒューマン化と言われる現象が襲いかかる。そのまま西暦二千十年には総人口の三割がエルフ、ドワーフ、オーク、トロール、獣人等のデミヒューマンが占めていく。
そして最後に人類へと襲いかかってきた驚異――それは魔法であった。それまで空想上でしか無かったはずの魔法の存在に戸惑うも、人類は魔法をテクノロジーとして組み込んでいく。
西暦二千七十年、日本皇国のネオ東京。
薄暗い曇りの天候の中、ネオ東京の世田谷区の一角では人々が歩いている。
そんな歩く人々の中には二メートル近い高さを持った人種――オークや、耳が長く尖った顔立ちの整った人種――エルフも歩いていた。
それだけではない、歩いている人々の中には身体の各所を機械に置き換えてサイバー化させている者も多数いる。
人々の中には肉体を、人の形を外れた全身義体に置き換えた人間もいる。
この光景こそが、現在における日本皇国の日常である。
多種多様な人種が歩いている中、グレーのポンチョを羽織り、腰にはヘビーピストルとドスを携帯した、少女と見間違うような幼い顔立ちの少年――ムゲン・アーミテッジがいた。
ネオ東京の道路を歩いているムゲンは、ボロボロになって擦り切れた本、「世界の覚醒について」とタイトルに書かれた書籍を大事そうに読んでいる。
すでに百回は読んだだろうか、それでもムゲンにとっては飽きることなく、子供の頃からの娯楽だった。
迷うことなくページをめくるムゲンであったが、本を読み進めているうちに眉間にしわを寄せる。
ヴー、ヴーと、ムゲンが懐にしまっていた携帯端末――ポケットトロンが振動していたのだ。
ポケットトロンを取り出して画面を見ると、そこには名前は無く電話番号のみが表示されていた。
表示された電話番号に心当たりがあったムゲンは、電話番号のみが表示された電話に素早く出る。
「もしもし」
「ハロー、もしもしムゲンですわね?」
電話に出てきた声は、まるで世界のすべてを嘲笑するかのように生意気な声だった。
もちろんムゲンは、電話の声の主を知っている。
彼女の名前はリリィ・ハーロット。通称リリィであり、ムゲンとは腐れ縁のような関係だ。
無論、リリィの名前が本名かはムゲンは知らない。知る必要も無いし、知る気もないからだ。
「リリィさんどうしたんですか?」
「ええちょっと嫌な事があって……今夜の八時からお時間を購入できませんか?」
時間を購入する。それはムゲンの仕事である男娼を買うという意味だ。
ムゲンには嫌悪感は無いし、拒否権もない。だからムゲンは笑って仕事を受ける。
それにリリィとは男娼としての仕事で、何度も夜を共にした関係でもある。甘い恋人のような夜を過ごしたことも、激しい夜を過ごしたこともあるのだ。
「分かりました。場所はどこで?」
「千代田区にあるモーテル、『アヴァロン』という所に来て下さい。楽しみにして待っていますわ」
そう言うとブツリとリリィは電話切った。
電話を切られたことを確認したムゲンは、ポケットトロンに予定を書き込んでいく。
「八時に千代田区のモーテル『アヴァロン』っと」
ポケットトロンに予定を書き込んだムゲンは、そのままその場で本の続きを読もうとする。
しかし本の続きを読もうとするムゲンの楽しみを邪魔するように、ポンポンと後ろから肩を叩かれる。
最初はムスっとした表情で後ろを向くムゲンであったが、肩を叩いてきた者の姿を見てすぐに表情を笑顔に変える。
ムゲンの肩を叩いたのは、身長三メートル近い高さを持ち、角の生えたトロールの大男であった。
眼の前のトロールの肉体は筋骨隆々としており、全身を覆う筋肉は鎧のように分厚い皮膚で覆われている。
そしてトロールが最も恐ろしいのは、その圧倒的な身体能力だ。
裸のトロールにピストルで銃弾を撃っても、ピストルの銃弾をいとも容易く弾き返し。無改造の身体でも車を容易く持ち上げる筋力を持った人種、それがトロールという種族なのだ。
眼の前の間合いまでトロールに近づかれたムゲンは、命の危機を実感しながらも笑顔を絶やさない。
「他の人の邪魔になるから道中で本を読むな」
そう言ってトロールは、人の居ない歩道の端を指差す。
ムゲンは喧嘩を売られた訳ではないことを理解すると、本を懐に仕舞うと即座に頭を下げる。
「すいません、これから気をつけます」
「わかればいいんだよ。わかれば」
そのままトロールはムゲンに何も言わずに立ち去っていった。
トロールの後ろ姿が見えなくなったことを確認したムゲンは、ホッと一息をつく。
死ぬかと思った。そう思いながらもムゲンは歩道の端に移動すると、かがみ込んで再び本を開き読み始める。
ペラリペラリとムゲンは夢中になって本を読んでいると、次の瞬間、銃撃音が周囲に響き渡る。
銃撃音を聞いたムゲンはすぐに立ち上がり周囲を見渡す。
続けて銃撃音がする方向にムゲンが視線を向けると、そこにはマシンガンを持って銃弾をばら撒く、かつては人類の比率が百パーセントであった種族――ヒューマンの男の姿があった。
しかしヒューマンの腕は通常の腕ではなく、アンバランスなサイバーアームを装備しており、更には目も機械仕掛けのサイバーアイに置き換えていた。
「ひひひははは!」
両手でマシンガンを持ったヒューマンは、狂ったかのように高笑いをしながら次々と周囲の人間を撃ち殺していく。
エルフが、オークが、トロールが、ドワーフが、獣人が、悪魔が、天使が非情な弾丸の雨によって殺されていく。
その場から逃げていく人々に、悲鳴を上げてその場に隠れる人々。
「ちっ!」
ムゲンも銃声を聞いた瞬間に、素早く車の影に身体を隠す。
歩道の一角はマシンガンを持ったヒューマンによって阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
一人、また一人と、その場に居た人間がマシンガンを持ったヒューマンによって射殺されていく。
しかし誰かが通報したのか、武装した警察がサイレンを鳴らしながらその場に駆けつけてくる。
だが狂人となったヒューマンは逃げることなどせず、マシンガンの照準をパトカーに向け引き金を引く。
「死ね! このクズどもがぁあああ!」
ばら撒かれた銃弾はパトカーに命中し、一瞬にしてパトカーは蜂の巣となっていく。
パトカーに乗っていた警官たちは、断末魔を残すことなく即死していく。
それでもマシンガンを持ったヒューマンは飽き足らず、パトカーから降りた警察官たちに向けてマシンガンを撃ち続ける。
撃ち出された弾丸は容赦なく警察官たちの肉体を貫き、血飛沫と共に肉片が飛び散っていく。
こりゃあまずいな。そう思ったムゲンは、急いでその場から逃げようとする。
このままヒューマンが暴れ続ければ、SWATチームが出動することになるだろう。
そうなればこの場は、更なる地獄絵図になる。
そう確信したムゲンはすぐその場から逃げようと行動に移すそうとする。
しかし次の瞬間、ムゲンの目の前に影が現れる。
その影は先程まで暴れていたヒューマンであった。
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