第44話

 バックミラーに写った影、それはバイクに乗ったワナガシのメンバーたちであり、彼らはムゲンたちが乗っているバンを追っていた。

 ワナガシのメンバーたちの手には上質な物はサブマシンガン、劣悪な物では鉄パイプが握られており、中には腕をサイバーアームに改造して、ブレードを装着している者もいる。

 そして追ってくるワナガシのメンバーは、様々な種族で構成されている。エルフ、オーク、獣人、トカゲ人など様々な種族がいた。


「コロスッぞオラー!」


「見つけたぞー!」


 バイクに乗ったワナガシのメンバーたちは、わざとらしくクラクションを鳴らしたり、大きな声を上げながら、後ろからムゲンたちが乗ったバンを煽ってくる。

 だがサクラはそれに動揺することなく、冷静にハンドルを操作し、ワナガシたちが乗ったバイクを振り切ろうとする。

 しかしワナガシのメンバーたちも、ムゲンたちが乗るバンの後方をぴったりと走っており、中々振り切ることが出来ない。


「ええい、うっとしいですね! あなた達のような粗チンなんて興味ないんですよ!」


 執拗に追ってくるワナガシのメンバーに苛ついたサクラは、思わず毒を吐いてしまう。

 そんなサクラの罵りを聞いても、ワナガシのメンバーは怯むどころか、むしろ面白がって煽り続ける。その様子はまるで動物園のチンパンジーか、治安の悪いゲームセンターにいるゲーマーのようであった。


「ひゃははは! 聞いたかよあの姉ちゃん俺に粗チン、って言ってくれたぜ!」


「ちげぇよ、俺だ!」


「馬鹿か俺様だ!」


 バイクに乗ったワナガシのメンバーたちは、サクラの罵倒を自分たちのものだと言い合い始める。そして遂には少数ながらも同士討ちまでする始末だ。

 それを見ていたアイシアは、呆れたようにため息をつく。ムゲンの首に掛けられた賞金を狙って、どこかしらの勢力から追っ手が来るものだとは考えてはいたが、これほどまでに低俗だとは思っていなかったからだ。


「ムゲン、起きなさい。敵襲よ」


「え……敵襲!?」


 アイシアの言葉を聞いたムゲンは、勢いよく上体を起こす。そして素早く携帯しているヘビーピストルを抜くと、窓の外に視線を向けて様子を伺う。

 そしてアイシアも後部座席に置いてあったサブマシンガンを手に取り、いつでも外に走っているワナガシのメンバーを撃てる体勢を取る。


「男は殺せ! 女は好きにしていいんだってよ!」


「ひゃあマジかよ!」


 後部座席に座っているアイシアとムゲンを見て、バイクに乗る男たちは下卑た笑みを浮かべる。そして挑発するように手に持ったサブマシンガンを、当てないように撃ったり、鉄パイプを地面に擦らせるのだった。

 それを見たアイシアは苛ついた表情を見せると、無言でサブマシンガンを後方で走っているワナガシのメンバーへ連射する。

 タタタッと軽い銃声音が鳴り響くと、サブマシンガンの銃弾は走行しているワナガシのメンバーの命を一つ奪う。


「チクショー! スズキが殺られたぞ!」


「馬鹿、あんな盲撃ちに当たるほうが悪い!」


「そうだなギャハハ!」


 ワナガシのメンバーは仲間の死にも動揺せず、相変わらずふざけた態度を取り続けていた。

 ネオ大阪へ通じる道路を走るムゲンたちが乗るバンと、ワナガシのメンバーの乗るバイクの集団は互いに一定の距離を保ちながら走っていた。


「マズイですねこれは……」


 このままではネオ大阪へ到着する前に追いつかれてしまう。そう判断したサクラは、即座にハンドルを大きく切った。

 そのままサクラはアクセルを強く踏み込むと、舗装された道路の外へバンを走らせていく。

 バンを追うようにバイクの集団も、道路を外れて砂利道を走っていく。


「はっ! 私のテクニックに敵うと思っているんですか!」


 サクラはそう叫ぶとハンドルを巧みに操作し、バイクの集団を引き離そうとする。だがバイクの集団も負けじと速度を上げていく。

 しかしサクラも負けてはいない。タイヤが悲鳴を上げるほど強くハンドルを切りつつ、アクセルを踏み込んでいく。

 そしてネオ大阪に向かていたバンは、徐々に道を外れて行くのであった。


 **********


「くそ、しつこいな」


「それだけムゲンの首に掛けられた賞金が魅力的ってことよ」


 ムゲンとアイシアは手に持ったヘビーピストルとサブマシンガンの照準を、バンの後方を走るワナガシのメンバーへ合わせると引き金を引く。

 小気味良い音と共に弾丸が放たれるが、銃弾はワナガシのメンバーに致命傷を与えることはできなかった。

 前方からの銃撃にワナガシのメンバーたちは怯むことなく、バイクに乗ってムゲンたちを追ってきている。

 既にカーチェイスが始まって一時間が経過しようとしていた。


「ああもう、しつこいですねぇ。遅漏すぎても女性には嫌われるんですよ!」


 苛ついた様子のサクラは、舌打ちをするとアクセルを深く踏み、さらにバンの速度を加速させる。そしてハンドルを一気に切ると、バンの車体を半回転させ後方を走るワナガシのメンバーたちと向き合う。

 そのままサクラはバンをバックさせながら窓から身体を乗り出すと、腰に下げていたマシンピストルを抜き、引き金を引いて掃射していく。

 銃声が周囲に響き渡り放たれる銃弾。しかしワナガシのメンバーはバイクを巧みに操り、車体を左右に動かして銃弾を回避していく。

 ワナガシのメンバーたちは撃たれてもなお、倒れることもなく走り続けている。


「ん……?」


 バックしながらも巧みにバンを運転しているサクラは、サイドミラーに写ったものを見て、思わず眉根をひそめてしまう。

 バックミラーに写ったもの、それは巨大な湖――琵琶湖であった。


「予定ではネオ大阪にまっすぐ向かうはずなのに、あんな低俗なチンピラに追われるがためにネオ滋賀周辺まで来ちゃいましたぁ!」


 予定外の事態で涙目になりながらもサクラは、現状をムゲンとアイシアに伝える。

 それを聞いたムゲンとアイシアは、すぐに窓の外を眺めるのだった。

 ムゲンたちの視界に広がるのは日本一大きな湖である琵琶湖。西暦二千年には広大な自然が広がっていた琵琶湖であったが、西暦二千七十年の今では再開発が進み、高層ビルや工場、発電所などが立ち並ぶ場所となっていた。

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