第23話

 その場にいた警備員たちを倒したムゲンとアイシアは、クリアリングを済ませると奥へ奥へと進んでいく。

 道中も悪魔崇拝者の警備員と思わしき者たちがいたが、ムゲンとアイシアは難なく処理していく。


「しっかしこの建物、警備員の数もそうだけど警備タレットの数も多いわね」


 既にサクラの手によって十を超える警備タレットが無力化されている。しかしその度にムゲンとアイシアの足は止まることを余儀なくされていた。


「そうですね……この建物やけに警備が厳重すぎる」


 ムゲンの言葉通り、この建物に入ってから二人はいくつもの監視カメラや警報装置を目にしていた。念のために外部に応援を呼ばれないように、サクラが警報装置を一つ一つ落としていったが、その数は十を超えていた。

 もはや唯の悪魔崇拝者の拠点とは思えないほどの警備に、ムゲンは頭を捻らせる。しかし疑問を浮かべたムゲンを静止するように、アイシアが手を上げた。


「待ってムゲン」


 指を立てて静かにするようにジェスチャーをして、隠れるように手で指示をするアイシア。その視線の先にはボディーアーマーを装備して手にアサルトライフルを持ったヒューマンの男二人に、アーマージャケットを着て杖を持った魔法使いと思わしきエルフの男であった。

 三人の男の姿を見たムゲンとアイシアは、即座に発見されないように距離を取り身を隠す。そして素早く自身が持っている武器をリロードする。

 少し離れた所にいる三人の男たちは周囲を見回りながらだが、ゆっくりとムゲンとアイシアがいる方向に近づいてくる。


「しかし侵入者は一体何者だ? こんなところにわざわざ侵入するなんて」


「さあな。だが何かしらの目的があるはずだ」


「目的はともかく、今重要なことはここを守ることだ。いいか、召喚の儀式を必ず成功させないといけないんだ」


 杖を持った男はまるで言い聞かせるように言うと、アサルトライフルを持っている二人の男がそれに同意するかのように首を縦に振る。

 その言葉を聞いたムゲンとアイシアは、思わず顔を合わせてしまう。先程の会話の内容から察するに三人の警備員は、この建物で行われている儀式のことを知っているのだ。

 そして儀式を阻止もしくは召喚された悪魔の撃破を考えているムゲンたちとは、三人の警備員とは相容れないことも理解できた。


「ムゲン、合図をしたら攻撃するわよ」


 警備員たちに聞こえないように、アイシアが小さく呟くとムゲンは無言で首肯をする。

 そして三人の警備員の視線が、ムゲンとアイシアがいる方向から離れた直後、アイシアは指で合図をした。

 合図を確認したムゲンは即座に走り出すと、アサルトライフルを構えて三人の警備員に照準を合わせる。


「っ散開しろ!」


 アサルトライフルを持ったムゲンの姿を見た警備員の一人が叫ぶ。

 だが警備員たちが動くより早くムゲンは、アサルトライフルの引き金を引いた。けたたましい銃声と共に放たれたアサルトライフルの銃弾は、三人の警備員に向かって飛んでいく。

 ばら撒かれた銃弾の雨は警備員たちに命中するが、警備員たちの命を狩るには至らなかった。


「ぐあっ!」


「侵入者か!」


 悲鳴を上げながらも即座に遮蔽物へ身を隠した警備員たちは、すぐさま手に持っていたアサルトライフルで反撃に移ろうとする。

 だが直後、アイシアの持っているショットガンが火を吹いた。

 耳をつんざくような銃声と共に放たれたショットガンの銃弾は、ボディアーマーを装備した警備員の頭部に命中し跡形もなく破壊する。

 

「な!?」


 仲間が殺害されたことに驚いたボディアーマーを着た警備員は、動揺して動きが遅れてしまう。


「何をやっている! 雷……閃光……稲妻……」


 次の瞬間、杖を持った魔法使いと思わしき男――否、魔法使いの男の周囲に魔力が充満し雷へと変換されていく。

 

「ライトニング!」


 魔法使いのエルフの男がそう叫ぶと、ムゲンに向かって強烈な熱を持った雷撃が放たれる。

 光の速さで放たれた雷撃に、ムゲンは反応できずにまともに食らってしまう。それと同時にムゲンの肩に乗っていたバグズも、ライトニングによって破壊されてしまうのだった。


「があああぁぁぁ!」


 凄まじい衝撃と痛みに襲われながら、ムゲンの身体は凄まじい熱量によって焼き尽くされる。痛みで倒れそうになるムゲンであったが、なんとか踏ん張ってバランスを保つ事に成功する。

 だがその隙にエルフの魔法使いはムゲンの背後を取ると、手に持った杖でムゲンの首を締め付ける。

 手の持ったアサルトライフルを手放して、反射的に首を締め付ける杖を掴むムゲン。


「ぐうぅ……!」


 ギリギリと首を絞めつける力がムゲンの首を襲っていく。即座にムゲンは必死に抵抗しようともがくが、首を絞め上げる杖は簡単には離れない。


「ムゲン! このっ!」


 苦戦をしているムゲンを見てアイシアは加勢しようとするが、もう一人のボディアーマーを着た警備員がそれを阻止するようにアサルトライフルで牽制する。

 アイシアが足を止めている間にも、ムゲンはエルフの魔法使いに背後から杖で首を絞められていく。


「ぐ……離せ!」


 ムゲンは背中を壁に向けると、そのまま勢いよく後に下がっていく。そしてそのままエルフの魔法使いを壁に叩きつけた。


「ぬぅ!?」


 背後から襲いかかってくる衝撃に、思わず驚いてしまうエルフの魔法使い。驚いた代償にムゲンの首を絞めている拘束も緩んでしまう。

 拘束が緩んだことを確認したムゲンは、即座に身体を回転させエルフの魔法使いを振りほどく。

 そしてすぐさま腰に携帯していたヘビーピストルを抜くと、地面に倒れたエルフの魔法使いの頭に向かって躊躇なく発砲する。

 連続して撃ち込まれたヘビーピストルの弾丸は容赦なくエルフの魔法使いの頭を貫くと、その度に血飛沫が飛び散り壁と床を汚していく。


「雷……閃光……稲妻……ライト……ニン」


 だがエルフの魔法使いは最後の力を振り絞り、再度魔法を詠唱しようとする。しかし詠唱より先に、ムゲンがヘビーピストルのトリガーを引く方が速かった。

 銃声と共に放たれた一発の弾丸は、エルフの魔法使いの口内を蹂躙していきそのまま命を奪っていく。

 詠唱が中断されたことにより、エルフの魔法使いの周囲に漂っていた魔力は空中に霧散していく。

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