第22話
バンを出たムゲンとアイシアは目的の建物へ、二人の警備員から隠れつつ近づいていく。
そして距離にして残り十メートル程まで二人の警備員に近づいたムゲンとアイシアは、サプレッサーを付けたヘビーピストルを取り出す。
二人は警備員に見つからないように素早く、慎重に照準を警備員の頭部を狙いトリガーを引く。
サプレッサーによって音が抑えられた銃声と共に、銃弾が放たれていく。同時にムゲンとアイシアが放った銃弾は、狙い通りに警備員の頭部を撃ち抜いた。
死角から射撃された事に気づかなかった二人の警備員は、そのまま事切れると膝から崩れ落ちるのだった。
「……やったわね」
小さく呟くアイシア。それにムゲンは小さく頷くと、倒れた二人の警備員に近づいていく。
警備員の装備はサブマシンガンに、拳銃の銃弾を受け止める防弾ベストであった。
これらの装備は企業の警備員や警察などでは当たり前の装備だが、明らかに普通の悪魔崇拝者が持つ装備ではない。そう思ったムゲンは、心の中では冷や汗をかくのだった。
「クリア」
「分かったわ、ムゲンここからはスピード勝負よ」
アイシアの言葉にコクリと頷いたムゲンは、素早く事切れた警備員の通信機を破壊すると、建物内に入っていく。
建物の中はまさに地獄であった。視界一面に血によって魔法陣が描かれた壁、床には血だらけの死体が幾つも転がっていた。
建物内の凄惨な現場にムゲンとアイシアは、思わず顔をしかめてしまう。それでも二人は仕事を成功させるために、奥へと歩みを進めていく。
「これはひどいな……」
「確かにね。こんな事しといて平気でいられる連中、遠慮なく撃てそうね」
吐き捨てるように言うアイシア。それにムゲンも同意するのであった。
そのままゆっくりと進んでいった二人は、建物内を循環している二人組の警備員を確認する。それを見たムゲンはアサルトライフルを、アイシアはショットガンを構える。そして後方支援としてサクラが、付近の監視カメラをハッキングして電源を落としていく。
『こちらサクラ、監視カメラを落としましたよ』
ムゲンとアイシアの耳に付けられたイヤホンから、小さく喋るサクラの声が聞こえる。
サクラの報告を聞いたムゲンとアイシアは、即座に警備員へと照準を向け迷うことなくトリガーを引く。
単発で放たれるアサルトライフルの銃弾は、歩いている警備員の喉に向けて飛んでいき、そのまま命中する。
相方の警備員が倒れたのを見た警備員は、すぐに周囲を見回す。その直後、アイシアが一気に近づくと警備員に向かってショットガンで発砲を行う。
スラッグ弾を受けた警備員の頭部は、まるで潰れたザクロのように飛び散っていく。
『二人ともこの先の通路が、私が最後に確認した場所です』
そうサクラの言葉をきいた次の瞬間、建物内の雰囲気が一変したのをムゲンは感じ取った。
『気づかれました! 気をつけてください!』
サクラの報告を聞いたムゲンとアイシアはすぐに走り出す。そして廊下を曲がった先には、防弾ベストを着込んだ男たちが待ち構えていた。
その数は十人、全員がその手にサブマシンガンを持っていた。男たちの中にはヒューマンだけではなく、エルフやオークにドワーフ、さらにはトロールまでもいた。
「っ……!」
即座に男たちの姿を見たムゲンとアイシアは、反射的にアサルトライフルとショットガンをフルオートモードにしてトリガーを引く。
大量にばら撒かれた銃弾の雨は、防弾ベストを貫通して男たちの身体を喰らっていく。しかし男たち全員を殺せたわけではなかった。
ヒューマンやエルフの警備員たちは死亡したが、肉体的に頑丈なドワーフにオーク、そしてトロールの警備員は負傷した程度に留まっていた。
「そこにいるぞ! 撃て撃て!」
警備員の誰かそう叫ぶと、即座に警備員たちは手に持ったサブマシンガンで反撃を開始する。
即座にムゲンとアイシアは曲がり角にその身を隠して遮蔽を取ると、アサルトライフルとショットガンをリロードする。
ムゲンたちがリロードをしている間、サブマシンガンの銃弾は止まずに撃ち続けられ、徐々に壁を破壊していく。
だが手に持った銃器のリロードを終えたムゲンとアイシアは、壁越しにアサルトライフルとショットガンを出すとそのまま銃撃をする。
火力面ではムゲンたちの方が有利なためか、すぐに警備員側の射撃は収まる。
射撃が止んだことを確認したムゲンとアイシアは、スマートガンに搭載されたガンカメラを自身の光学機器にリンクさせ相手の様子を伺う。
「隠れているわね」
すぐにムゲンとアイシアの視界に、ガンカメラで収められた映像が映し出される。そこには遮蔽を取っている警備員たちの姿があった。
遮蔽を取っている警備員の姿を確認したムゲンとアイシアは、アイコンタクトで互いにタイミングを伺うと、即座に曲がり角からその身を乗り出すと銃撃を開始しながら前進する。
銃弾を放ちながら距離を詰めてくるムゲンとアイシアに、警備員たちは為す術もなく隠れることしかできなかった。
「ムゲン!」
そう叫んだアイシアは素早く腰に携帯している閃光手榴弾のピンを抜くと、警備員たちに向けて投擲する。
弧を描いて飛んでいった手榴弾を見たムゲンの視界には、閃光を引き起こすまでの秒数が映し出される。
爆発するまでの数秒間アサルトライフルを撃ち続けるムゲン。そして閃光手榴弾の発動が残り一秒になると、即座にムゲンは目を閉じた。
次の瞬間、閃光手榴弾から目を焼き尽くす程の閃光が発せられる。
閃光手榴弾を投擲したアイシア本人も、タイミングを合わせて目を閉じていたために目を焼かれることはなかった。
「アイシア!」
「ええ!」
ムゲンの呼びかけにアイシアは答えると、目を焼かれた警備員たちに向けてショットガンを構え、照準を合わせてトリガーを引く。
重く強烈な銃声と共に放たれたスラッグ弾は、頑丈なトロールやオークの警備員の頭部を破壊するには十分な威力を持っていた。
アイシアが警備員を撃っている間にも、ムゲンも目を焼かれたオークの警備員にアサルトライフルの照準を合わせると、迷うことなく引き金を引く。
放たれたアサルトライフルの銃弾は、倒れているオークの警備員の頭部を見事に撃ち抜き血の華を咲かせる。
そのままムゲンとアイシアは残りの警備員を冷静に処理していくのであった。
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