第21話

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 時間はサクラがバグズを操り目的の建物へ偵察を始めた頃。

 サクラが操っているバグズは、建物の入り口に固めている男たちの前を通り過ぎていく。

 建物の入り口に固めている男たちは、目の前を通るバグズに気づかず周囲を見回りを続ける。なぜならバグズは極めて小さな虫形のドローンのため、目を凝らして見なければ気が付かない。

 男たちに気づかれることなくバグズは、そのままゆうゆうと建物の中へと侵入していく。


「ふふーん楽勝ですね」


 マトリクス空間の中でサクラは得意げに豊満な胸を張る。それもそうだ、自分たちは厳重な警備をしていると思っている奴らの前をゆうゆうと通り過ぎていくのは、誰だって気持ちがいい。

 そうしてバグズのカメラ越しに、サクラは建物内の偵察を続けていく。

 サクラによって徹底的にカスタマイズされたバグズは、既製品の物と比べてカメラ機能等が格段と良いものとなっている。代わりに破壊されれば、修理費は馬鹿にならない。

 そのためにサクラはバグズを発見され破壊されることを恐れて、慎重に偵察を行うのだった。


「妙ですね……」


 偵察を開始して数分、サクラは建物内に仕掛けられたカメラや警備を記録して一纏めにしていた。

 その結果サクラは一つの事実にたどり着く。それは警備が厳重すぎるのだ。悪魔を召喚する直前で警備を重視するのはサクラでも理解できる、それにしても監視カメラや警備タレットの数が多いのだ。それこそまるで要人が滞在しているかのように。

 建物の警備に違和感を覚えたサクラは、すぐにバグズの操作に集中する。

 一体何がこの建物で起きているのかを調べるために。


「あんまり気乗りはしませんが、行くとしますか」


 バグズのマトリクス内でサクラはため息をつくと、建物でもっとも警備が厳重な箇所に向かってバグズを飛ばしていく。

 監視カメラや警備タレットをかい潜っていき、サクラの操るバグズは二人の重装備の男が警備をしている扉の前にたどり着く。

 

(ここですかね?)


 扉を警備している男二人の装備は、悪魔崇拝者の物にしては物々しい程に重装備であった。ライフル弾を容易く受け止めるボディーアーマーに、アサルトライフルという組み合わせだ。

 これではもはや唯の悪魔崇拝者と言うよりはテロリストやマフィアに近い。


(これは……マズイすぐにアイシアとムゲン君に知らせないと!)


 警備している二人の男の格好を見たサクラの判断は撤退であった。即座に撤退を判断したサクラの行動は称賛されるべきであったであろう。

 バグズの背後から飛んできた雷撃に気づく事ができればの話であったが。

 強烈な雷撃音と共にショートするバグズ。マトリクスとのリンクが途切れる最後の瞬間にサクラが見たのは、アーマージャケットを着て杖を持った男であった。


 *********


「痛ったぁぁぁ!」


 バグズとのリンクが途切れたサクラは、いの一番に大声で叫んだ。理由は自身の身体に襲いかかってきたフィードバックダメージに耐えきれなかったからだ。

 すぐさま注射形の鎮痛剤を取り出すと、腕に突き刺して中身を注入し痛みを緩和させる。


「あれは……マズイですね」


 全身を襲う激しい痛みと頭痛に悩ませながらも、サクラは先程見た光景を思い返す。最後に見た杖を持った男は、魔法使いの可能性がある。

 魔法使いの数は少ない、それが西暦二千七十年の常識である。

 それなのに唯の悪魔崇拝者たちに与する魔法使いがいるとは、サクラは思いもしなかった。その結果、虎の子のバグズを破壊された。

 悔しい。どす黒い感情がサクラを支配しようとするが、それよりも優先すべき事がサクラにはあった。


「アイシア、ムゲンの君、急ぎの要件です!」


 切羽詰まったサクラの表情を見たアイシアとムゲンは、すぐさまサクラに視線を向ける。


「どうしたのそんなに慌てて?」


「何か分かったんですか?」


「例の建物の警備が尋常じゃないんですよ!」


 サクラは矢継ぎ早に先程建物の中で見た事を話し出す。尋常ではない数の監視カメラと警備タレット、フルボディーアーマーとアサルトライフルを装備した重装備の警備する男たち、そして魔法使いと思わしき最後に見た男。

 それらをサクラの口から聞いたアイシアとムゲンの表情は厳しいものとなる。

 それもそのはずだ、ムゲンたちが想定したのは悪魔を召喚しようとする悪魔崇拝者であった。それなのに相手が戦力を揃えたテロリストなのは想定外である。


「確かにキツイわね……それでも私たちは仕事を成功させないといけない、だって私たちはコントラクターだもの。失敗したら後ろ指刺されるか死ぬだけ」


 サクラの報告を聞いたアイシアは、一瞬頭を抱えるがすぐに持ち直し今後の方針をムゲンとサクラに告げる。

 非合法な裏の世界に生きる以上、面子とは命の次に大事なものだ。例え仕事の難易度が格段に上がったとしても成功しなければ意味がない。

 そんなアイシアの言葉にサクラとムゲンは黙って肯定すると、作戦の練り上げに入る。


「作戦は単純、サクラはバンの中でハッキングの準備と撤退時の道の確保。私とムゲンは強行突破、何か異論は?」


 アイシアの指示は単純明快なものであったが、同時にシンプルであるが故に強力である。

 敵の戦力が判明し、練度が高いと判明した今となっては、下手作戦を練っても失敗する可能性が高い。

 何よりこれ以上時間をかければ、悪魔の召喚が行われる可能性もある。

 それを危惧したムゲンとサクラは、何も言わずに首を縦に振った。


「OK、なら三分で準備を終えなさい。さあ仕事を始めるわよ!」


 アイシアの宣言を聞いたムゲンとサクラは、すぐさま目的の建物を攻め込む準備を開始した。

 ムゲンは銃弾の入ったタクティカルベルトを装着し、アサルトライフルを背負う。サクラは予備のバグズを起動させ、遠隔ハッキングができるようにする。

 そして三分後、アサルトライフルを背負ったムゲンとアイシアは、バンから降りて目的の建物に向かう。

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