第20話
バー『バベル』を後にしたムゲンたちは、悪魔崇拝者がサバトを行っていると思わしき場所に向かっていた。
バンの操縦席に座っているサクラを除いたムゲンとアイシアは、すぐにでも戦えるように後部座席で武器の準備をする。
ムゲンはアサルトライフルのマガジンを、タクティカルベルトに装着させ更に、自分が使うアサルトライフルの最終調整を行っていた。
そして最終調整が終わったアサルトライフルを、隠蔽用のバッグに入れたムゲンの視界に入ってきたのは、ショットガンの調整しているアイシアの姿であった。
「アイシアそれ何?」
アイシアはドラム型のマガジンを隠蔽用のバックに仕舞っており、その横には無骨なショットガンがあった。
しかしそれだけであればムゲンもアイシアに質問することはない。なぜならアイシアが隠蔽用のバックに仕舞っているマガジンは、一つにつき三十二発の銃弾が込められているからだ。
つまりは三十二発もの銃弾を、簡単に使い切るショットガンということになる。
「ああこれ? フルオートショットガン。建物内なら私これが一番好みだから」
そう言いながら笑顔でショットガンを見せつけるアイシア。そんなアイシアの笑顔を見たムゲンは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
ムゲンとアイシアが準備をしている内、走っていたバンが停車する。
どうやら目的地に到着したらしく、ムゲンとアイシアは運転席へと視線を向ける。
「周囲の様子はどうサクラ?」
「うーん一見した感じ普通の建物に見えますけど、詳細は分からないですね」
サクラの報告を聞いたムゲンとアイシアは、バンの外にある建物へ視線を向ける。
ムゲンたちの視線の先には、大きな倉庫のような無骨な建物が建っていた。目的のサバトが行われる建物の周囲には、ビジネスマンやコントラクターなどの人々が歩いている。
「見た感じ普通の建物に見えるけどサクラ、偵察をお願い」
「あいあいさー!」
アイシアの指示を聞いたサクラは、懐から極小の虫型のドローン――バクズを取り出すと、そのまま意識をバグズに飛ばす。そしてサクラによって操られたバグズは、目的の建物へ侵入を開始する。
サクラがバグズを使って偵察をしている間、アイシアは知り合いの警察の魔法課に聞き込みをしていた。
もっとも苦虫を噛み潰しているアイシアの表情を見るに、あまり良い収穫を得ることはできなかったのだろう。
その間にムゲンはヘビーピストルを構えながら、目的の建物に向けて霊視を行おうとしていた。
ムゲンは目に魔力を込めると、まるで透視をするかのように視点を目的の建物に合わせる。
すると徐々にムゲンの視界には魔術的に建物の様子が浮かび上がってゆく。
(これはひどいな……)
ムゲンの視界に映ったのは、薄暗い血の色のオーラが漂う建物の姿であった。凄惨な血の色をしたオーラは、周囲の人々の生気に悪影響を及ぼす程に禍々しい。
さらに目的の建物の影響を受けているのか、建物の周囲を歩いている人々の顔色は皆優れない。
そんな状態にも関わらず、建物の周囲で歩いている人々は自分の体調に気づいた様子も見せずに歩いている。大方、目的に建物で行われているサバトの影響であろう。
凄惨な血の色をしたオーラが建物の周囲に漂っている原因は恐らく、建物内で何人もの人々が殺害され、その時発生した負の感情が原因であるはずだ。
そうしてムゲンが霊視による偵察を終えようとした瞬間、ムゲンのポケットトロンが震えだす。
――誰だろうか。
ムゲンがすぐに自身のポケットトロンに視線を向けると、そこにはリリィの電話番号が表示されていた。
ポケットトロンにかかってきた電話に出ようとしたムゲンであったが、応答ボタンを押そうとしたところで気づく。周囲にはドローンを操作中のサクラと電話をしているアイシアがいる。
会話内容を聞かれないようにムゲンはイヤホンとスロートマイクが繋がれた機械――サイレントマイクを取り出すと、ポケットトロンへ接続しリリィからの電話に出る。
「もしもし?」
「はぁいムゲンお元気ですか?」
イヤホンから聞こえてきたのは、ムゲンがよく知るリリィの声であった。しかしリリィの声色は普段のものとは違い、何か急いでいるように感じられる。
リリィの様子を感じ取ったムゲンは、一瞬だけ疑問浮かべながらもすぐに小さく口を開く。
「何かあったんですか?」
「ええ、結構急ぎの用件ですわ。昨日の襲撃者から襲撃理由を聞き出したのでご報告に」
リリイの説明を聞いたムゲンは、思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。それを聞いたリリィはポケットトロン越しに小さく笑っていた。
「それで何かわかったんですか?」
「ええ知り合いの尋問部の方に聞いてもらったところ、昨日の襲撃者はムゲンの首を狙っていたと言っておりまして。あなた恨みでも買いましたの?」
「あー実はそれについて心当たりがありまして……」
リリィの知り合いの尋問部という単語を無視して、ムゲンはリザルトというヒューマン至上主義者に賞金首をかけられた事を、アイシアとサクラに聞こえないように小さな声で説明する。
「それは……ご愁傷さまとしか言いようがありませんわね。解決策はお有りで?」
「一応……あるかな」
「それなら良いんですけど、もし本当に駄目だったら頼ってくださいね? 私、一人ぐらい養う経済力はありますので」
リリィの言葉にムゲンは思わず苦笑をしてしまう。
だがリザルトの暗殺が上手くいかなかったら、リリィに飼われるのもありかなと思ってしまうムゲンであった。
「それではムゲン、お仕事頑張ってくださいね。後、またお時間を購入できることを祈っていますわ」
そう言うとリリィは通話を切るのであった。通話が切れたことを確認したムゲンは、サイレントマイクを外して懐に仕舞おうとすると、こちらを見ていたアイシアと視線が合う。
「なかなか楽しそうに電話をしてたじゃない。何、彼女?」
魔法課との通話が終わったらしいアイシアは、ムゲンをからかうようにニコッと笑う。
「違いますよ。彼女との関係はそんな、簡単に語れるような関係じゃありません」
「ふ~ん。まあいいわ、それで霊視の結果は?」
アイシアは興味が無くなったのか、話題を霊視の結果に変える。それを聞いたムゲンは無言のまま両手で丸を作る。
ムゲンのジェスチャーを見たアイシアは、疲れたようにため息をつくのだった。
「霊視が使えるムゲンがいて良かったわ。私の方はそっちの方面全然ダメだったもの。それじゃあサクラの帰還を待ちましょうか」
アイシアは建物を偵察中のサクラへ一瞥すると、フルオートショットガン抱きまくらのように抱きしめるのだった。
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