第19話

「それでは依頼を確認するわ、ミッションは悪魔崇拝者のサバトを阻止、又は召喚された悪魔の撃破。一応聞くけどASAP可及的速やかによね?」


 アイシアの確認にドワーフの男は首を縦に振る。そして懐からポケットトロンを取り出し、地図を表示させる。

 地図には金剛会の勢力図ともう一つのヤクザの勢力図、そして赤い点が表示される。どうやらこの二つの勢力の間に、件の悪魔崇拝者たちがサバトを行うようだ。


「フィクサーからお前たちの実力については太鼓判を貰っている。例え女子供で構成されたコントラクターであってもな」


 ドワーフの男はそう言いながら鼻を鳴らす。どうやら重要な仕事を受けるのが、ムゲンたち三人だったのが気に入らなかったようだ。

 確かにムゲンの容姿は一見すると少女と見間違うような容姿した少年であり、アイシアとサクラは見た目通りの華奢な女性だ。

 しかしこの西暦二千七十年の世界ではサイバーウェアを入れているのは常識的であり、見た目だけでは全てを判断できない。

 それでもドワーフの男は不機嫌そうな様子を隠そうとはしなかった。


「それで報酬の話をしたいけど」


「ああ……報酬は成功で一人あたり六千ニュー円だ。それで問題ないな?」


 報酬の話を始めるアイシアとドワーフの男。幾つかの交渉の末、アイシアは弾薬費を報酬に含めない経費として払ってもらう事を取り付ける。

 しかし報酬についての交渉が終わった時、ドワーフの男は小さく「浅ましい野良犬め……」と呟くのだった。

 少なくともアイシアには聞こえる距離であったが、アイシアは表情を変えることはなかった。


「ふん、それじゃあ頼んだぞ。いいか速やかにだ」


 ドワーフの男は最後に念を押すように言うと、そのまま部屋から出て行くのだった。

 数分後、ドワーフの男が出ていった事を確認したムゲンは緊張が解けたのか、大きく息をつく。

 そして今回受けた仕事についての作戦会議を始めるのだった。


「さてそれじゃあ今後の方針を決めましょうか」


 緊張がほぐれて思わずネクタイを緩めてしまったムゲンの様子を見て微笑んでいたアイシアであったが、すぐに冷徹なコントラクターとしてのアイシアに切り替えていく。


「現場近くまで行ってからの、カメラ等のハッキングは私にお任せください」


「ええ任せるわサクラ。ムゲンは霊視できるわよね?」


「あ、はい!」


 キビキビと打ち合わせしていくアイシアとサクラ、そんな二人の様子にムゲンは完全に置いてけぼりであった。

 しかし仕事について真剣なのは変わりなく、ムゲンは慌てて二人についていくように努める。


「なら現場でサバトが行われているか魔法方面から見て。私は知り合いの警察の魔法課に裏を当たってみる」


 魔法課――西暦二千七十年では魔法を使った犯罪が絶えないため、専門部署である魔法課が設立された。

 しかし魔法に適正がある者は百人に一人という割合でしか存在しない。そのため魔法関係の犯罪は未だ絶えず、民間の魔法探偵なども生まれた。


「さあ、やることも決まったし悪魔崇拝者共のサバトを潰しに行くわよ!」


「はい!」


「ごー!」


 ムゲンとサクラの返事を聞いたアイシアは小さく笑みを浮かべると、個室から出ていくのであった。

 個室を出て乗ってきたバンへと戻っていくムゲンたち三人。

 しかしバー『バベル』を出て駐車上に向かうと、バンの周囲には三人のストリートギャングがいた。

 ストリートギャングの腕には皆、Wanagashiと書かれた入れ墨が刻まれており、彼らがギャング、ワナガシのメンバーであることは間違いない。

 ワナガシ――ネオ東京に拠点を置くストリートギャングの一つで、麻薬密輸や武器の密造などを手掛けていて、ネオ東京の治安を悪化させている組織の一つだ。

 そんなワナガシの構成員であるギャングたちは、バンに乗り込もうとするムゲンたちを睨みつける。


「おいおい、中々の上玉じゃないかどうするさらうかぁ?」


「いいねぇ~」


 ギャハハと笑いながらワナガシのメンバーはムゲンたちに下卑た視線を向ける。そんな視線を受けたアイシアとサクラは、心底不快そうに眉をひそめる。


「悪いけどどいてくれない? 私たち用事があるの」


「用事ぃ? なら俺たちも付いていくぜぇ。なんならその後も……」


 その続きをワナガシの構成員の一人は、言うことはできなかった。

 なぜならその直後アイシアは腰に携帯していたヘビーピストルを抜くと、ワナガシの構成員の頭部に銃弾を撃ち込んだからだ。

 頭を撃たれて膝から崩れ落ちるワナガシの構成員。仲間を撃たれたことで、一気に混乱する残りのワナガシの構成員たち。

 ワナガシの構成員とは対象的にムゲンとサクラは、アイシアがヘビーピストルを抜いた瞬間に自分の得物を抜いていた。

 ヘビーピストルを抜いたムゲンは即座に走り出すと、あっけにとられているワナガシの構成員のみぞおちを殴る。


「が……」


 殴られた衝撃でくの字に倒れ込んでしまうワナガシの構成員、そしてすぐさまムゲンはトリガーを引く。

 軽い銃声と同時にくの字に倒れたワナガシの構成員は、頭に銃弾を打ち込まれそのまま絶命した。

 生きているワナガシの構成員は残り一人。

 ムゲンが殴りかかったのと同時に、サクラは腰に携帯しているマシンピストルを抜くと、銃弾をばら撒いていく。

 フルオートであれば一分間に九百五十発もの銃弾を発射できるマシンピストルは、数秒で銃弾を撃ち尽くしてしまう。

 しかしサクラは素早く弾倉を交換すると、続けて弾幕を張り続ける。

 その間にアイシアが他のワナガシの構成員との距離を詰め、相手が持っていたダガーを奪い取るとそのまま喉を貫く。

 ダガーで喉を刺されたワナガシの構成員からは、おびただしいの量の血が流れていく。

 アイシアによってダガーで刺殺されたワナガシの構成員は、脱力して血を吹き出しながら倒れていった。


「はぁ……時間を取らせるんじゃないわよ」


 返り血で汚れたジャケットを指で拭って綺麗にしていたアイシアは、小さくため息をつくと死体となったワナガシの構成員たちを見下ろしていた。

 その間にもムゲンとサクラは、使用したヘビーピストルとマシンピストルのリロードをして腰に携帯し直す。


「さあ行きましょうムゲン、サクラ」


 先程までの冷たい表情が嘘のように笑顔を見せるアイシアに、ムゲンとサクラはコクリと頷く。

 そのままムゲンたち三人は、何事もなかったかのようにバンの中へと乗り込みバー『バベル』を後にする。

 ムゲンたちの乗ったバンが去った後に残されたのは、三人のワナガシの構成員の死体だけであった。

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