第24話
ムゲンがエルフの魔法使いと戦っている間、アイシアはヒューマンの警備員と激戦を繰り広げていた。
ヒューマンの警備員は手に持ったアサルトライフルを連射し続けるが、放たれた銃弾の雨をアイシアは走って回避し続ける。
アサルトライフルの銃撃を回避し続けるアイシアであったが、回避に専念し続けて攻撃に転じることはできなかった。
「あー鬱陶しいわね!」
回避ができないと考えたアイシアは、近くにあった壁にへ飛び込むと遮蔽物としてアサルトライフルの銃弾を防ぐ。
しかし埒が明かないと考えたのか、アイシアは壁に隠れながらもショットガンを発砲する。だが壁に隠れて撃ったショットガンの銃弾は、ヒューマンの警備員に命中することはなかった。
アイシアがショットガンのリロードをしていると、お返しと言わんばかりにヒューマンの警備員はアサルトライフルを斉射する。
埒が明かない。そう判断したアイシアは、すぐさま自身の脊髄にある神経加速装置を起動させる。
次の瞬間、アイシアの意識は加速し、周囲の時間は緩やかなものとなっていく。そしてアイシアは時の流れが遅くなった世界へ侵入する。
意識が加速した世界の中、アイシアは遮蔽物であった壁から飛び出すと、ヒューマンの警備員に向かって走り出す。
「せいっ!」
加速した世界の中でアイシアは一気に距離を詰めると、ヒューマンの警備員の頭部に向けて蹴りを放つ。だがヒューマンの警備員もサイバーアップしていたのか、神経加速装置を起動させ、加速した世界に侵入する。
「っ……!」
こちらに視線を向けるヒューマンの警備員に、一瞬驚いてしまうアイシア。しかし彼女はそのまま蹴りを続行する。
しかしアイシアのしなやかな脚による一撃は、ヒューマンの警備員の腕によって防がれてしまう。
「サムライか!」
「そう言うあんたもね!」
サムライ――西暦二千七十年において、全身にサイバーウェアを埋め込んだ人間のことを指すスラングである。
銃弾の嵐が飛び交う戦場において最前線で戦い、そして敵対者に死を振りまく戦士、それがサムライなのだ。
「はあああぁぁぁ!」
「舐めるな!」
ヒューマンの警備員はスリングの付いたアサルトライフルを手放すと、装備していたコンバットナイフを抜く。そしてアイシアに向かって斬りかかった。
無論、アイシアも素早くヒューマンの警備員のコンバットナイフを難なく回避していく。そうしてアイシアもスリングの付いたショットガンを手放すと、腰に装備していたコンバットナイフを抜くのだった。
二人のコンバットナイフの刀身が時にぶつかり合い、時に相手の一撃をはたき落としていく。
加速した世界の中、二人はどれ程の時間コンバットナイフで戦ったのだろう。十秒? 一分? 恐らくそれ以上の時間が二人の中で過ぎていく。
そしてアイシアとヒューマンの警備員の、神経加速の限界が訪れる。
「っち!」
「クソ!」
限界まで神経加速による身体を酷使した反動で、アイシアとヒューマンの警備員の体にダメージが襲いかかる。
しかしそれでも二人は素早く肩にかけた武器を手に取ると、相手に向け迷うことなく引き金を引く。
連続して響き渡る銃声。それと共に放たれたアサルトライフルとショットガンの銃弾は、アイシアとヒューマンの警備員の体にそれぞれ命中した。
互いに銃弾が命中した箇所から血を流す両者。
「がぁぁぁ!」
「ぐぅ……」
銃弾が命中したことで地面を転がり苦悶の声を上げるアイシアとヒューマンの警備員。だが二人はすぐに起き上がると、己の武器を相手に向ける。
先に引き金を引いたのはアイシアであった。凄まじい銃声と共に発射されたショットガンの銃弾は、ヒューマンの警備員の胴体に命中する。そのまま続けてショットガンの引き金を引くアイシア。
アイシアの持つショットガンが放った銃弾は、ヒューマンの警備員の身体をズタズタにしていく。
そして何発もの銃弾を受けたヒューマンの警備員は、地面に倒れ込み動かなくなってしまう。
「はぁ……はぁ……ちょっと休憩」
ヒューマンの警備員が息絶えたことを確認したアイシアは、そのまま地面に座り込んでしまう。
アイシアが息を整えていると、エルフの魔法使いとの戦いを終わったムゲンが近寄ってくる。
「アイシア! 大丈夫ですか!?」
「まぁね……痛っ、ちょっと大丈夫じゃないかも」
ムゲンの前で強がりを言うアイシアであったが、傷口に激痛が走り整った顔を歪ませるのだった。
痛みに顔を歪ませたアイシアは懐から治療薬を取り出すと、銃弾が命中した箇所の服をめくる。
服の下にはシミ一つないきれいな肌が見えるが、そこにはにじんだ血と銃弾が埋まっていた。
「ムゲン、ごめん両足を押さえていて」
「わかりました」
アイシアの指示を聞いたムゲンは、疑問に思うことなく両足を抑える。
次の瞬間、アイシアは躊躇することなく傷口に手を突っ込み、銃弾を摘出しようとする。
「あああっ!」
痛みに悶える声を出すアイシア。
アイシアの足はビクンと跳ね上がるが、ムゲンは暴れないように彼女の足を抑えつける。
アイシアは歯を食いしばって我慢をし続け、なんとか銃弾を摘出した。
「はぁ……はぁ……」
艶めかしい声を漏らすアイシアであったが、すぐに次の作業として治療薬を傷口に挿す。
ぐちゃりと、傷口に治療薬が突き刺さる音と共に、アイシアは苦悶の声を上げる。
だがすぐに使用した治療薬が効いたのか、アイシアの顔色はすぐに良いものになっていき、そして出血していた箇所も止血されていく。
「ふぅ……ありがとムゲン。さあ奥へ行きましょうか!」
「はい!」
傷がふさがったアイシアは床に落ちているショットガンを手に取ると、ゆっくりと立ち上がり建物の奥――悪魔召喚が行われていると思わしき場所に向かって歩み始める。
ムゲンもアイシアの後方を援護するように位置取りながらも、付いていくのであった。
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