第25話
互いに相手をカバーしながらムゲンとアイシアは、建物の奥へ奥へと進んでいく。しかし先程倒した警備員の造園が来ないことに違和感を覚える二人。
仕方なくアイシアは、サクラに連絡しょうとポケットトロンを取り出す。だがすぐにアイシアはポケットトロンをしまうのだった。
「ねえムゲン、サクラとの連絡が取れない。と言うよりはこの建物全体に通信妨害が貼られている可能性があるわ」
「!?」
アイシアの報告に驚くムゲン。アイシアの言葉が本当であれば、今この建物はマトリクス上においては密室と言ってもいい。
なにより唯の悪魔崇拝者が通信妨害を行えるのが、ムゲンにとっては驚きであった。
「サクラの無事も確認したいけど、先に仕事の完了が重要事項よ」
まるで自分に言い聞かせるようアイシアはつぶやく。それを聞いたムゲンは何も言わずに頷く。そうして二人は建物の最奥へ向かって再び歩みを進める。
奥へ進んでいくムゲンとアイシアであったが、奥へ進んでいくに連れ背筋に悪寒が走っていく。
「悪魔を召喚する場所に近づいているわね」
悪寒が走り続ける首筋を手に当てつつアイシアはポツリとつぶやく。ムゲンとアイシアが歩いている通路には、赤黒いシミが多く残されていた。恐らく悪魔召喚の際に犠牲となった者たちの血液であろう。
ムゲンたちが奥へ進むに連れ、血の量は多くなっていく。そのせいか鼻につくほどの異臭が漂うのであった。
「ここね……」
ムゲンとアイシアは厳重な扉の前にたどり着く。その扉の前に立つだけで、重々しいプレッシャーが二人の身体に襲いかかってくる。
持っている武器の残弾を確認した二人は、無言で合図をすると扉を蹴破る。
二人が入った部屋の中は、何度もサバトが行われていたようで全裸の男女の死体がまるでオブジェのように置かれていた。
男女の死体は腹をかっさばかれて中身の臓器は肉体になく、さらに男女の死体を冒涜するように周囲には臓器と血液で紋章が描かれている。
「う……」
「これはひどいわね……」
荒ごとになれているムゲンとアイシアも目の前の光景に、目をそらしたくなってしまう。しかし自分たちが請け負っている依頼を思い出し、部屋を探索しようとする。
その時であった、ムゲンとアイシアのポケットトロンに連絡が入る。すぐにポケットトロンを取り出すムゲンとアイシア。
ポケットトロンの液晶画面にはサクラからの連絡と表示されている。ポケットトロンの液晶画面を見たムゲンとアイシアは互いに見合う。
「ムゲン周辺の警戒をお願い」
「分かりました」
アイシアを守るように警戒をするムゲン、そしてアイシアはサクラからの通話をスピーカーにして出るのであった。
「もしもし?」
『アイシアですか! 今すぐにその建物から逃げてください!』
サクラのその言葉と同時に、ムゲンたちが部屋に入ってきた扉に大量の銃撃が降り注いでいく。そのまま扉は破壊されていき、破壊された扉の向こう側から複数の人影が現れる。
『騙して悪いが、です。金剛会の依頼人の奴がトロールとかを連れてこの建物に入っていきました!』
それと同時に部屋に金剛会のドワーフにマシンガンを持ったトロール、そしてアサルトライフルを持った三人のエルフが入ってくる。
「悪いなあの依頼は嘘だ。お前たちは俺が召喚する悪魔の贄となってもらう」
そう言いながら金剛会のドワーフは、あくどい笑みを浮かべてムゲンたちに告げ、そしてそのまま悪魔召喚の詠唱を始める。
「EL、ELOHIM、ELOHO、ELOHIM、SEBAOTH」
金剛会のドワーフが冒とく的で不気味な呪文を唱える始めると、部屋に巨大な魔法陣が浮かび上がってくる。それはまるで儀式の開始のようであった。
「ELION、EIECH、ADIER、EIECH、ADONAI」
唱え続けられる詠唱を止めようとムゲンとアイシアは、手に持った銃を金剛会のドワーフに向けようとする。しかしそうはさせまいとマシンガンを持ったトロールが引き金を引く。
まるでチェーンソーの排気音のような銃声が鳴り響くと、マシンガンの銃口から銃弾の雨が放たれムゲンとアイシアに向かって襲いかかる。
「くっ……!」
トロールがマシンガンの引き金を引くのを見て、即座にその場を離れるムゲンとアイシア。ほんの一瞬までムゲンとアイシアがいた場所は、マシンガンの銃弾で蜂の巣のように穴だらけになる。
「JAH、SADAI、TETRAGRAMMATON、SADAI」
ムゲンとアイシアが逃げている間にも、金剛会のドワーフは気にせず詠唱を続けていく。
巨大な魔法陣は光り輝き、周囲に充満する魔力は徐々に色濃くなっていく。
この状況に危機感を覚えたアイシアは、走りながらもショットガンを構えると金剛会のドワーフに向けて引き金を引く。
連続して響き渡る発砲音。
しかし放たれたショットガンの銃弾は、金剛会ドワーフに命中することなく直前で停止する。
「魔力による装甲!?」
「そうだ今行われている儀式の魔力の一部を使えば、これぐらい容易いものだ。AGIOS、O、THEOS、ISCHIROS、ATHANATON」
眼の前でショットガンの銃弾が飛んできたにも関わらず、金剛会のドワーフは表情一つ変えることなく詠唱を続けていく。
そうはさせまいとマシンガンの銃弾から逃げていたムゲンは、アサルトライフルを構えると金剛会のドワーフに向けてトリガーを引いた。
轟音を響かせて発射されたアサルトライフルの弾丸は、一直線に金剛会のドワーフへと向かっていく。だがそれも魔力による装甲に阻まれてしまう。
「くそ!」
「どんなに抵抗しようともう遅い! AGLA、AMEN。来たれ!」
金剛会のドワーフの宣言と共に、部屋中に魔力光が満たされていく。その光の強さにムゲンとアイシアは思わず目を閉じてしまう。
一瞬で光は収まると、目を開けたムゲンとアイシアの前には五メートル程の高さをした巨大な悪魔が立っていた。
悪魔の姿は山羊の頭をした人形の姿をしており、背中に翼、そして股ぐらに蛇を生やしている。
「ガアアアァァァ!」
叫んだだけで鼓膜が破れそうなほどの轟音を放つ悪魔。その強烈な音にムゲンとアイシアは、思わず耳を塞いでしまう。
悪魔の雄叫びの凄まじさは、召喚主である金剛会のドワーフ、さらにトロールやエルフさえも反射的に耳を塞ぐものだった。
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