第40話
扉の向こう側からは男の怒声が聞こえてくる。ムゲンにはその声の持ち主が誰かはすぐに想像がついた。
「ここにいるな……」
そう、ターゲットであるリザルトは恐らくこの部屋にいる。そう推察したムゲンは部屋の扉を開けるのだった。
ゆっくりと開かれる扉。その向こう側からは罵声が飛んでくる。
「何やっている! さっさと周囲にいる化け物どもを片付けろ!」
怒鳴り散らすのは、部屋の中にいる一人の男だ。男は高級そうな椅子に座っており、その手にはワイングラスがある。
机の上には書類が何枚か置かれており、その内容をムゲンは斜め読みであるが見てしまった。
そこに書かれている内容はどれもムゲンにとって許せない内容だった。
「悪いな、その化け物が来たんだ」
「なにィ!?」
ムゲンの言葉を聞いたリザルトは、怒りの形相で睨みつける。
「ええい、なぜ此処に化け物がいるんだ! あいつはどうした、高い金を払っているんだぞ」
「きっとあんたが言っているそいつなら死んだよ。俺が殺した」
あっさりとそう言ったムゲンに対して、リザルトの表情は一気に青ざめる。そして手に持っていたワイングラスを落とすのと同時に、勢いよく立ち上がりその場から逃げようとする。
だが逃げようとするリザルトの足を、ムゲンはヘビーピストルで撃ち抜く。
右足をヘビーピストルの銃弾で撃ち抜かれたリザルトは、無様にも床に転がっていった。
「痛い……誰か助けてくれ……殺されてしまう」
不恰好に命乞いするリザルトの姿を見たムゲンの胸中に、どす黒い炎が湧き上がっていく。それは目の前の男に対する憎悪だ。
リザルトは自分がやった事を棚上げにして被害者面をしている。そんなリザルトの姿を見て、ムゲンの怒りはさらに増していく。
「お前が殺していったデミヒューマンも同じこと言ったはずだ。それにお前はなんて答えた?」
「それは……」
「お前はきっとこう返したんじゃないのか? 化け物が、と」
その言葉を聞いてリザルトは黙ってしまう。そしてムゲンの言葉が事実であることを肯定しているように、リザルトの顔色はどんどん悪くなっていく。
リザルトの反応を見たムゲンは、何も言わずに照準をリザルトの頭部に合わせ、ヘビーピストルの引き金を引くのだった。
銃声と共にリザルトの頭部は粉々になり、そこから大量の血が流れ出す。
「ふぅ……終わった」
リザルトが絶命した事を確認したムゲンは、ポケットトロンでリザルトの遺体を撮影する。そしてアイシアにそれを送信した。
画像を送信した直後、アイシアから通信が入ってくる。ムゲンはすぐに通信に出るのだった。
「お疲れ様ムゲン。早くその悪趣味な建物から撤退しなさい」
「分かったよアイシア」
「ええそれじゃあ今日はパーティーね」
そう言ってアイシアは通信を切る。すぐにムゲンはポケットトロンをしまうと、すぐに建物から脱出を開始した。
部屋を出たムゲンの耳に怒号が聞こえる。それは建物を包囲していたデミヒューマンのデモ隊たちの声であった。
このままではデミヒューマンのデモ隊に巻き込まれる。そう考えたムゲンは、すぐさま近くの窓を覗き込み人が居ないことを確認すると、窓を突き破って飛び降りた。
「よっと」
窓を粉々に破壊してリザルトの建物から脱出したムゲンは、すぐさま周囲に人が居ないか入念に確認する。そして誰もいないことを確認すると、すぐに移動を開始するのだった。
この場を立ち去るムゲンの背後からは、デミヒューマンのデモ隊たちによる叫び声が響き渡っていた。
「はーい❤ ムゲン君、お疲れ様です」
「お疲れ様ムゲン。さっさと撤収しましょ」
建物から逃走していたムゲンの背後から、クラクション音が聞こえる。
振り返ったムゲンが見たのは、笑顔で手を振るサクラの姿。そして後部座席から顔を出すアイシア。
「乗りましたね? それじゃあアジトに出発進行ー!」
ムゲンがバンに乗り込んだことを確認したサクラは、勢いよくアクセルを踏みバンを出発させた。
ムゲンたちが去った後、いつまでもデミヒューマンのデモ隊と警察との戦いは続いていくのだった。
**********
三時間後、ムゲンたちはアジトに戻ってだらけきっていた。三人共先程までの仕事で疲れているのだ。それでも仕事の成功祝として、ピザの注文だけは済ませていた。
電源がついているテレビからは、先程までムゲンたちがいたリザルト邸で起きた抗議活動の被害が発表されている。
死傷者は三百人以上と発表されており、その中には資産家のリザルトの名前もあった。
「疲れたわねー」
「疲れましたねームゲン君はどうですか~?」
「……ぶっちゃけ全身が痛みます」
ソファーに寝転んだアイシアとサクラ、そして床に布団を敷いて横になったムゲンは、全身を襲う疲労感を癒そうとしていた。
そうしてぼんやりしているムゲンたちであったが、突如部屋のインターホンが押されるたのかチャイム音が鳴り響く。
「こんにちはー! 宅配ピザのお届けに参りましたー!」
「はーい!」
すぐに起き上がって扉へ走っていくサクラ。戻ってきたサクラの両手には、五枚のピザが入った箱と飲み物とサイドメニューの入った袋があった。
サクラの手にある物を見てすぐにテーブルを片付け始めるムゲンとアイシア。そしてテーブルの上には五種類のピザと、ドリンクにサイドメニューが並ぶ。
「二人共飲み物は行き渡りましたね。それじゃあカンパーイ!」
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
ムゲンとアイシアの手に飲み物がある事を確認したサクラは、いの一番に乾杯の音頭を取る。そしてグラス同士が心地よくキンっと、ぶつかる音が鳴り響くのだった。
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