第69話
トントンとムゲンは足でリズムを取りながらファイティングポーズを取ると、ヴァンペラーを睨みつける。
だがヴァンペラーはムゲンの視線を受けても、何の動揺も見せることなく悠然と構えていた。
「なんだ? まだやるのか?」
「ああやるとも、そのために俺は立ち上がったんだ!」
そう言うとムゲンは腰に携帯しているヘビーピストルを抜く。そして素早く照準をヴァンペラーに合わせると、連続して引き金を引いた。
続けて響き渡る銃声。それと同時に発射されたヘビーピストルの銃弾は、ヴァンペラーに向かって飛翔していく。
だがヴァンペラーは音の壁を超え、高速で飛来する弾丸たちをあっさりと掴んでしまう。
「やっぱり駄目か……」
調子の良い時のムゲンであれば、単発のヘビーピストルの銃弾を掴むことは可能である。
だが目の前のヴァンペラーは、複数発のヘビーピストルの銃弾を片手で容易く受け止めている。
――さてどうするか。
一瞬、ムゲンは熟考すると次の攻撃手段を考える。そして頭に浮かんだ戦術に、ムゲンは縋るのであった。
「まだだ!」
ムゲンは素早くヘビーピストルをリロードすると、続けてヘビーピストルを弾倉内の銃弾が無くなるまで連射をする。
連続して十発以上の銃声が響き渡り、ヘビーピストルの銃弾がヴァンペラーへと襲いかかる。
ヤケを起こしたように見えるムゲンの姿を見たヴァンペラーは鼻で笑うと、両手を蟷螂のように構え銃弾を掴もうとした。
「甘いんだよ!」
そう言うとムゲンは即座にヴァンペラーの顔面に向けて、残弾のないヘビーピストルを投げつけ、そのまま距離を詰めるために走り出した。
「何!?」
ムゲンのセオリーを無視した攻撃に、思わず驚きの声を上げてしまうヴァンペラー。だが彼に驚いているヒマは無い。なぜなら既に彼の目の前には、ヘビーピストルの銃弾があったからだ。
悲鳴を上げる身体を無視してヴァンペラーはヘビーピストルの銃弾を掴んでいくが、飛んできたヘビーピストルの銃弾の内、二発を取りこぼしてしまう。
二発の銃弾がヴァンペラーの肩を抉ると、そこから勢いよく血が吹き出ていく。
「貴さ……」
苛ついた様子のヴァンペラーは、続きを言うことはできなかった。なぜならムゲンの繰り出した拳が、ヴァンペラーの顔面に直撃したからである。
ドラゴンの血を引くムゲンに殴られたヴァンペラーの身体は宙を舞い、そのまま勢いよく壁に激突していった。
ヴァンペラーに攻撃が命中したことを確認したムゲンは、すぐさま走り出すと壁に倒れているヴァンペラーとの距離を詰めていく。
「せぃ!」
壁から起き上がろうとするヴァンペラーに対して、ムゲンは雄叫びと共に助走をつけたドロップキックを放つ。
反射的にヴァンペラーは両腕をクロスさせて、ムゲンの蹴りを防御するがそれでも威力は殺せない。そのままムゲンの蹴りを受けたヴァンペラーは、壁に再び叩きつけられていしまう。
「このまま!」
ムゲンは倒れているヴァンペラーの首を両腕で締め上げると、そのまま力を込めて絞め上げていく。
呼吸が出来なくなり苦しむヴァンペラー。
だがムゲンは躊躇することなくヴァンペラーの気道を、より一層強く圧迫していく。
――油断はしない、迷いもしない!
ヴァンペラーの身体能力を理解しているムゲンは、ヴァンペラーの身体を持ち上げると、自身の身体を回転させヴァンペラーの意識を奪おうとする。
「は、離せ!」
「嫌だね!」
抵抗しようとするヴァンペラーであったが、ムゲンの腕が首を捉えているために逃れることができない。
ヴァンペラーの表情は徐々に青ざめていき、脳に残っていた酸素も少しずつ失われていく。
そして遂にヴァンペラーの瞳から光が消え失せると、腕の力は完全に抜け落ちてダラリと垂れ下がる。
ヴァンペラーの意識が失われたことを確認したムゲンは、すぐさま腰に携帯していたコンバットナイフを抜くと、ヴァンペラーの胸に突き刺そうとする。
「なに!?」
だがムゲンが突き刺したコンバットナイフは、ヴァンペラーの胸を傷つけることには成功したが、刀身は心臓を貫くことは無かった。
目の前の状況に思わず困惑してしまうムゲン。
仕方なくヴァンペラーの身体からコンバットナイフを抜いたムゲンは、コンバットナイフをヴァンペラーの口に向けて突き出そうとする。
「待ってもらえないかね?」
だが次の瞬間、ムゲンの耳に聞き覚えのない低い声域の声が、どこからともなく聞こえてくる。
すぐさまムゲンは声のした方向に視線を向けると、そこには黒いスーツを着て髭を伸ばしたヒューマンの男が窓際に立っていた。
初老を迎えたような顔つきをしたヒューマンの男は、まるで指揮者のように両手を動かしながらゆっくりとムゲンに近づいてくる。
「誰だあんたは……」
「誰だと聞かれれば通りすがりのおじさんとでも言えば信じるかね?」
「あんたふざけているのか」
ヒューマンの男の言葉を聞いたムゲンは、思わず顔をしかめて怒ったように口調を荒らげる。
そんなムゲンの様子を見たヒューマンの男は「くっくっく」と笑うと、ネクタイを緩めてそのまま外していく。
「失礼した。ではとりあえずブラム・ストーカーと呼んでくれ」
そう言ってヒューマンの男――ブラム・ストーカーは恭しく一礼するのだった。
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