第39話

 全身義体の男は倒れたままのムゲンの髪を鷲掴むと、強引に顔を持ち上げる。

 顔を持ち上げられた事で、苦痛に歪んだムゲンの顔が見える。そんなムゲンの顔を見た全身義体の男は、楽しげに嗤うのだった。

 全身義体の男が拳を振り上げようとしたその時、ムゲンの口が小さく動く。


「何笑ってんだよ。変態クソヤク中」


 ムゲンの言葉を聞いた全身義体の男は、一瞬動きを止めてしまうがすぐにムゲンに向かって殴りかかろうとする。

 しかし銃声とともに建物の外から飛んできた一発の銃弾が、全身義体の男の拳を撃ち抜くのだった。


「何……!?」


 突然の出来事に驚愕する全身義体の男。その隙を突くようにムゲンは残った力を振るい、全身義体の男の腕を振り払う。そして自由になった瞬間、ムゲンは懐からスタングレネードを取り出しピンを外すと、そのまま床に投げつけた。

 閃光が室内を満たし、同時に爆発音が広がる。

 視界と聴覚を奪われて身動きが取れなくなった全身義体の男は、反射的に目を閉じてしまう。その瞬間をムゲンは逃さずにアサルトライフルを拾うと、そのまま全身義体の男との距離を取るのだった。


(とにかく動け、止まったら負ける)


 即座にアサルトライフルの照準を全身義体の男に向けると、そのままフルオート射撃をするムゲン。撃ち出された弾丸の雨は真っ直ぐに飛んでいき、そして全身義体の男の顔面へと直撃した。

 だがアサルトライフルの銃弾は、その全てが全身義体の男の身体に弾かれてしまう。

 人狼薬によって強化された全身義体の男の肉体は、サイバー化と合わせてさらなる強靭な肉体へと作り上げたのだ。

 ムゲンは再びアサルトライフルを撃つが、やはりその全ては防がれてしまう。

 それでもムゲンは諦めずに何度もトリガーを引き続ける。だが遂にアサルトライフルに入っていた弾薬が尽きてしまうのだった。


「ははっ、何だもう終わりか?」


 全身義体の男はムゲンをあざ笑うかのように口角を上げる。そして音もなくムゲンに近づくと、軽く小突くようにムゲンを蹴るのだった。

 軽く小突くと言っても全身義体の男から見ての話で、蹴られたムゲンは勢いよくその身体を壁に叩きつけられる。


「がはっ!」


 鈍い打撲音を響かせ、そのまま崩れ落ちるムゲン。

 全身義体の男は崩れ落ちたムゲンの姿を見て嘲笑すると、わざとゆっくり近づいていく。

 その間にも横たわったムゲンは、この状況を打破するための手段を必死になって考える。

 ムゲンが策を考える時間は短い、その時間でムゲンが思いつく策はどれも不出来なものばかりであった。


(一つだけ手段がある……)


 そしてムゲンがひねり出した策は、大凡策とは言えないものだ。しかし今この状況を打破するには、ムゲンの頭ではこれ以上のことは考えつかなかった。

 痛みできしむ身体に鞭打ちながらムゲンはゆっくりと起き上がり。腰に携帯しているヘビーピストルを抜くと、そのまま全身義体の男に背中を向ける。


「何ぃ?」


 ムゲンの取った行動を見た全身義体の男は、思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。

 まさか自害するのか? そう考えてしまう全身義体の男。だが次の瞬間、銃声と共に一発の銃弾が、全身義体の男の口内に侵入する。


「がっ!」


 口内に侵入した銃弾は、全身義体の男の硬い身体の中を暴れまわっていく。

 予想外すぎる攻撃に対して防御態勢をとる事が出来なかった全身義体の男は、口から血を流しながらもムゲンに視線を向ける。

 全身義体の男の視線の先には、喉から血を流したムゲンの姿があった。


「何……!?」


 全身義体の男が驚くのも無理はない、ムゲンの喉には小さくない穴が空いており。そこからヘビーピストルの銃口が見えていたのだから。

 ヒューマン至上主義者ではあるがプロのコントラクターである全身義体の男は、すぐにムゲンが何をやったのかを理解する。しかしそれを全身義体の男の常識が邪魔するのだった。


「ありえん……自分の喉をヘビーピストルで撃ったのか……? そんな事をすれば命に関わるんだぞ……?」


「それは普通のヒューマンの話だろ。俺は……所詮デミヒューマンだからな……」


 ヒューヒューと喉から空気の漏れる音が響く中、ムゲンは苦痛に耐えつつもニヤリと笑う。

 ゆっくりと振り向いたムゲンは、口から血を流す全身義体の男に向けてヘビーピストルの引き金を引く。放たれた弾丸は真っ直ぐ飛んでいき、全身義体の男の瞳を撃ち抜くのだっだ。

 眼球を撃ち抜かれた全身義体の男は、声を上げること無く絶命する。

 ヘビーピストルの引き金を引いたムゲンは、さらにもう一発の銃弾を全身義体の男に撃ち込む。

 再び銃弾を叩き込まれた全身義体の男の身体は、もう動くことはなかった。


「はぁ……終わったか……」


 ムゲンは大きく息をつくと、そのまま脱力して休もうかと考えてしまう。だがすぐにリザルトの暗殺のことを思い出し、何とかバランスを保つ。

 そしてムゲンはゆっくりとだが、リザルトのいる部屋に向かって歩きだすのだった。


 **********


『ムゲン、そっちは大丈夫?』


 無人の廊下を歩くムゲンのポケットトロンに、アイシアからの通信が入る。

 すぐにムゲンはポケットトロンへ入った通信に、ムゲンは出ようとするが全身を襲う痛みのせいで、上手く話すことが出来ない。


『ちょっとムゲン、大丈夫!?』


「ああ大丈夫だよアイシア。それよりそっちは?」


『こっちはスナイパーを探していた奴が何人か来たけど、全員返り討ちにしてやったわ。ごめんね援護できなくて』


 申し訳無さそうにアイシアはムゲンに謝罪する。それに対してムゲンは気にしてないと、軽く答えるのだった。

 そうして建物内をゆらゆらと歩いて行ったムゲンは。この建物の中で一番豪華な扉の前に立つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る