第7話

 湯船に浸かりながらムゲンとリリィの二人は、軽く接触する程度のキスをし続けていた。


「ん……ちゅ……もっと……ください」


 熱のこもったトロンとした目つきで、リリィはムゲンの首筋や頬に向けて催促するようキスをする。

 それを受けてムゲンもリリィの鼻や頬、首筋、さらには胸元へ甘いキスをしていく。


「やぁ……もっと下にキスをして……」


 ムゲンのキスを受けるたびにリリィの口からは、甘い声が漏れ出す。

 リリィの艶声は徐々に大きくなっていき、浴室内ではリリィの艶声が響き渡り、モーテルの薄い壁では外に漏れそうであった。

 たがムゲンは気にも止めずに軽いキスを続けていく。

 そうしてキスを続けていると、モーテルの廊下側の壁からドタドタと騒音が響き渡る。


「あら、お外に響いてしまいましたか?」


「じゃあリリィ少しは声を抑えないと」


 次の瞬間、ムゲンたちがいる部屋の扉が無理矢理破壊される。

 破壊音を聞いたムゲンとリリィは、即座に浴室を出てヘビーピストルを手に取り、先程まで扉があった方角に銃口を向ける。

 二人の銃口の先には、部屋に押し入ってきたチンピラたちの姿があった。


(一人、二人……八人か?)


 部屋に無理矢理入ってきた者の数を数えるムゲン。対照的チンピラたちは全裸のリリィの姿を見て、だらしのない顔をしていた。


「へっ! こんな時間まで起きてやがったか! だが関係ねぇ、男は殺せ女は生け捕りだ!」


「ひゅー最高だぜ!」

 

 リーダー格と思わしき男がそう叫ぶと、他のチンピラたちは嬉しそうに声を上げた。

 そんなチンピラたちの様子を見て、ムゲンとリリィは呆れた表情を見せながらも無言でヘビーピストルのトリガーを引くのだった。

 連続して響き渡る銃声。

 ムゲンが放った弾丸は先頭にいた男の頭を撃ち抜き即死させる。続けてリリィが撃った弾も同様に一人の男の頭を撃ち抜き射殺する。

 仲間二人が殺されたにも関わらず、残りの男たちは何事も無かったかのように武器を構え、ムゲンとリリィに対して攻撃を開始した。


「撃て! 撃て!」

 

 チンピラの一人がそう叫ぶと、他のチンピラたちは付随するように射撃する。

 とはいえチンピラたちの装備もあまり良くなく、リーダー格の男以外はヘビーピストルのみ。リーダー格の男の武器はサブマシンガンであった。

 しかし数の理はチンピラたちにあるためか、ムゲンとリリィは反撃することも出来ずに一方的に撃たれるだけだった。

 一方的な銃撃を受けているムゲンとリリィだったが、その表情には焦りの色は無く冷静に状況を判断していた。


「コントラクターとしてどう判断しますのムゲン?」


「正直なところ……場末のチンピラと判断しますね。銃撃も長くは続かないはずですし」


「あら奇遇、同じこと考えていましたわ」


 ムゲンとリリィは同じことを考えていたのか、お互いに笑みを浮かべながら会話を続ける。

 そうしている内にチンピラたちの銃撃は止まる。銃の残弾がなくなったためにリロードしているのだ。

 それを見たムゲンとリリィはヘビーピストルを構えて牽制しながら、そのまま他の武器が置いてある寝室に飛び込む。

 寝室に入ったムゲンはベッドを持ち上げると、それを盾のように構える。リリィは脱いでいた服の中から指輪型の魔法具を取り出す。

 魔法具――それは現代の魔法使いが使う杖のようなものであり、様々な効果を持ったものが市販されている。

 リリィの場合は、魔法の能力を著しく強化するハイエンドモデルの高級品であった。


「炎……増幅……投石……」


 リリィの手の平に火球が生み出されると、それは徐々に大きくなっていく。そして火球の大きさはリリィの身長より大きい物となった。


「ファイアーボール!」


 リリィの魔法の詠唱が完了すると同時に、ムゲンは即座にベッドを盾にしてファイアーボールに巻き込まれないように屈み込む。

 放たれた火球は勢いよくチンピラたちに向かって飛翔すると、ちょうど彼らの中心地点に着弾する。

 火球によって爆発した瞬間、爆風と爆音が室内に響き渡り、チンピラたちを容赦なく吹き飛ばす。

 ファイアーボールの威力は、直撃を受けたチンピラたちは全身が焼け焦げたり、骨が折れたり内臓が破裂したりと、悲惨な状態になっていた。


「あら、やりすぎましたか?」


「いや……リーダー格の奴が残っている!」


 ムゲンの言葉通り襲ってきたチンピラの中で唯一、リーダー格の男だけは無事であった。

 恐らく盾にしたのだろうリーダー格の男の足元には、無惨な三人のチンピラの遺体が倒れていた。


「ちっ……まさか魔法使いが混じってるなんて聞いてねえぞ!」


「逃がすか!」


 リーダー格の男はそう吐き捨てると、ムゲンとリリィから逃げ出そうと背を向ける。

 しかしムゲンは素早く立ち上がると、全身に魔力を回して肉体を強化することでリーダー格の男を追う。

 強化された脚力でムゲンは一気に距離を詰めると、そのままリーダー格の男の後頭部を殴りつける。


「がっ……!」


 リーダー格の男は顔面が陥没するほどの一撃を受け、その場で気絶してしまう。

 しかしムゲンはそのままリーダー格の男の胸ぐらを掴むと、壁に向けて思いっきり投げつけた。

 モーテルの壁に叩きつけられたリーダー格の男は、そのまま意識を失い床へと崩れ落ちる。


「ムゲン、そちらは終わりましたか?」


「ああこっちは終わりましたよリリィさん、そっちはどうでしたか?」


 リーダー格の男を引きずりながらムゲンが部屋に戻ると、そこには黒いスーツを着たリリィがチンピラたちの遺体を見分していた。

 リリィはチンピラたちの皮膚を削ると、遺伝子を採取して襲ってきたチンピラの種族を確認していた。


「襲ってきた連中、全員の種族がヒューマンでしたわ」


「へぇ、珍しいですね。今どきヒューマンオンリーのチームなんて、ヒューマン至上主義者ぐらいじゃないですか」


 ヒューマン至上主義――いわゆる過去にあった白人至上主義と同様に、ヒューマン以外の異種族を徹底的にバッシングする主義者たちのことを指す。

 ヒューマン至上主義の思想は簡単だ。ヒューマン以外の種族は化け物だと言っているのだから。

 特に過激な者になるとテロを起こす者もいるほどだ。


「そうですのよね、まあそれは後々彼から聞きますわ」


 そう言うとリリィは流し目で気絶しているリーダー格の男を見据える。その目はまるで養豚場に送られる豚を見るような目であった。


「ああそれと……これは本日の報酬ですわ」


 ポケットトロンを取り出したリリィは、そう言うとポケットトロンを操作する。するとムゲンのポケットトロンには、電信マネーで三千ニュー円が振り込まれていた。


「え、いいんですか?」


「もちろん後は、コレは貴方への迷惑料込みの代金ですわ。お気になさらず受け取ってくださいまし。ただし後処理はお任せください」


 そう言うと財布からキャッシュのニュー円を取り出したリリィは、そのままキャッシュのニュー円をムゲンのズボンのウエストに挟み込む。

 リリィの大胆な行動にムゲンは顔を赤く染めるが、リリィは全く気にも留めずに微笑む。そしてムゲンの顔に自分の顔を近づけると、軽くキスをした。


「それではまた時間があればお呼びしますわムゲン」


「はい、リリィさんもまたご贔屓に」


 服を着直したムゲンはリリィにそう告げると、モーテルを後にするのであった。

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