第8話

 ムゲンが去ったモーテルの一室では、リリィが襲撃者のリーダー格の男を椅子に縛り上げていた。

 その間にもリーダー格の男は起きず気絶したままであった。

 気絶した状態のリーダー格の男を見て、リリィは呆れた様子でため息を吐く。

 なんと拙い襲撃者たちだろうか。そう思いながらリリィは、このような連中に仕事を任せるのは絶対にしないと心に決める。


「さて、尋問タイムといきましょうか」


 誰にも聞こえないような小さい声で、リリィはサディスチックに呟く。

 だがその瞳には先ほどまでの優しさは無く、冷酷な冷たい眼差しをしていた。

 そしてリリィは懐からスタンガンを取り出すと、リーダー格の男に軽く押し当てる。

 バチッという音と共に電撃が走り、男は再び目を覚ます。

 しかし電流による痺れのせいで口を動かすこともままならず、言葉を発することが出来ない。

 その様子を見てリリィは満足げに微笑むと、再びリーダー格の男に話しかけた。


「はぁい、おはようございます。気分は如何ですわ?」


「……っ!」


 リーダー格の男は必死に何かを伝えようとするが、やはり声を出すことは出来ない。

 それどころか身体を動かそうとする度に、全身に強い痛みが走る始末だ。

 そんな彼の様子を見てリリィはくすりと笑うと、そのまま話を続ける。


「彼に殴られて無事で済んでいるとは思っていないので、勝手に喋らせていただきますわね。こちらとしても私を狙ったのか、それとも彼を狙ったのか知りたいので」


 リリィの様子を見たリーダー格の男は、恐怖で震え上がる。

 リリィの表情は笑顔のままなのだが、その目は全く笑っていなかったのだ。彼女の瞳からは明確な殺意を感じ取ることが出来、それがより一層リーダー格の男を怯えさせる。

 リーダー格の男の様子を見て少しは気が晴れたのか、リリィはヘビーピストルを取り出し、リーダー格の男の足に突きつける。


「まず貴方たちは誰の命令で動いたのです? そして何の為に私たちを襲ったんですか?」


「…………」


「黙秘ですか、別に構いませんよ。どうせすぐに喋ることになるでしょうし」


 そう言ってリリィはヘビーピストルのトリガーを引く。銃声と共に放たれた銃弾が、リーダー格の男の足を貫いていく。

 足の甲を貫き貫通した弾丸はそのまま地面へとめり込み、激痛によってリーダー格の男は悲鳴を上げる。

 しかしそれでも彼は口を開こうとはせず、ただ歯を食い縛って耐えているだけだ。

 その姿を見るとリリィは呆れてため息を吐く。


「はぁ……わたしの質問に答えなくても別にいいですわ」


 呆れた様子のリリィはそう言うと、懐からポケットトロンを取り出す。そして迷うことなく番号を入力していく。


『はいこちらオリュンポスコーポレーション人事部でございます』


 ポケットトロンの向こう側から響いてきた、オリュンポスコーポレーションと言う単語を聞いた、リーダー格の男の様子は一瞬で一変する。

 オリュンポスコーポレーション――それは西暦二千七十年において、国家よりも権力持つ企業ビックセブンの一つで、ギリシャ神話系の神々が経営する高名な企業だ。

 ゼウスやヘラなどの有名な神を始めとして、多くの神がこの会社の社長や役員などを務めている。

 そんな超が付くほどの大企業の人間が目の前にいるという事実に、リーダー格の男の顔色は青ざめる。


「申し訳ありませんが、尋問部の方々を用意できますか? 少々襲撃されたのでお話を聞きたいですの」


『了解しました。五分で尋問部チームを到着させます』


「よろしくお願いしますわ」


 リリィは電話を切ると、改めてリーダー格の男に向き直る。

 すると先程まで余裕のあったリーダー格の男も流石に慌てふためき始め、何とかして逃げ出そうと暴れ始める。

 しかし身体を縛られているリーダー格の男は、立ち上がることはできなかった。


「あらあら、随分とお元気なことですわね。でも残念、生きているのはあなただけ、それに私も逃がす気は一切ありませんわ」


 そのままリリィはリーダー格の男の足を、再びヘビーピストルで撃つ。

 足の甲を撃ち抜かれたことでリーダー格の男はまた悲鳴を上げ、その様子にリリィは満足げに微笑む。


「ふふ、何処に逃げようというのです? 襲撃相手の情報を調べるのも、コントラクターの立派な仕事ですよね?」


「違うんだ、俺たちは知らなかったんだ。オリュンポスコーポレーションの人間がいるなんて!」


「言うだけならタダですの。それに私はムゲンとの一夜を楽しんでいたのに、あなたは邪魔したでしょう? ですから言い訳は尋問部の方々に仰ってください」


 そのままリリィは男の服を破ると、舌を噛まれて自殺されないように口に押し込み猿轡のようにする。


「む゛ー! む゛ー!」


 なんとか弁明しようとするリーダー格の男であったが、猿轡をされまともに喋ることはできなかった。


「さて……残り四分弱なにで暇つぶししましょう。仕事はプライベートだから駄目ですし、やはり彼(ムゲン)との動画でも見ていましょうか」


 リリィはそう言ってポケットトロンを取り出すと、ムゲンが録画していた動画を見始める。

 そこにはコスプレをしたリリィがムゲンとキスをしている写真や、酒を飲んでいる動画が映し出されていた。

 動画を見ているリリィの表情は、エルフの種族的な美しさも相まって美の女神に見えるが、リーダー格の男を見る目はまさに不和と争いの女神であった。

 その証拠にリリィの口元は笑ってはいたが、目は全く笑っておらずにまるでゴミクズを見るような冷たい目で男のことを見ていたからだ。


「む ぐぅ……」


 その視線に気づいたのか、リーダー格の男は恨みを込めた視線をぶつける。

 

「あ、今私のこと睨みましたよね? そんな目をしても無駄ですわよだってもう尋問部の方々は来ましたもの」


 リリィはクスクスと笑いながら、リーダー格の男にそう告げた。

 それと同時にモーテルの部屋に、黒いスーツを着た男たちが入ってくる。

 男たちは薄汚いモーテルを見ても眉をひそめることなく、リリィに頭を下げる。


「お疲れ様です。尋問対象はコレでしょうか?」


 そう言ってリーダー格の男を指差す、黒いスーツを着た男。


「ええ、それではきっちりお願いしますわ」


「了解です。おら、さっさと歩け!」

 

 リリィの命令を受けた黒スーツの男は、リーダー格の男を無理やり立たせると部屋の外へと連れ出す。


「む ぐう う ん ん!!」


 必死に何かを訴えようとするリーダー格の男だが、猿ぐつわをされているせいで何を言っているのか分からない。

 そんなリーダー格の男を無視して、黒スーツの男はオリュンポスコーポレーションの尋問室に連れていくために、車へリーダー格の男を乗せる。

 車の扉が閉まると同時に、リーダー格の男は泣き叫ぶ。

 しかしその声は誰の耳に届くこともなく、リーダー格の男は地獄の苦しみを味わうことになるのだった。


「ふぅ……もうムゲンもいないですし家に帰りますか」


 モーテルの部屋に残されたリリィは、一人そう呟くと荷物をまとめて部屋を出る。

 そして部屋を出た直後、リリィのショーツからクチュリと小さく水音が聞こえてきた。

 

「あら、どうやらムゲンとの夜は激しかったようですわね」


 少し恥ずかしそうな顔をしながらも、リリィはそのまま自宅へと向かうのであった。

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