第53話

 投擲した手裏剣を防がれた事に激怒した吸血鬼忍者は、サキュバスの客引きへ見ただけで人を殺せそうな視線を向ける。


「お客様ー。ここでは暴力沙汰は禁止となっておりまーす」


「ここでは暴力行為は駄目ですよー」


「それともお客様、溜まってらっしゃるのですかー?」


 歓楽街の店からサキュバスのたちがゾロゾロと出てくる。中には先程まで行為をしていたのか、裸のサキュバスも出てくる。

 集まってくるサキュバスの数は、三十人を容易く超えるのだった。集まってくるサキュバスの数に思わず圧倒される吸血鬼忍者。

 その間にもサキュバスは集まってきて、さらに人数を増やしていく。


「ええい、集まってくるな淫魔ども! 私はそこの二人に用があるのだ!」


「ええー? でもそちらの二人が、うちの店のお客様かもしれないじゃないですかー」


「そうですよー、お客様ーご要件はなんですかー?」


 口々にサキュバスたちは吸血鬼忍者に詰め寄っていき、吸血鬼忍者は思わず後ずさる。

 そしてムゲンたち二人の近くに立っていたサキュバスが、蠱惑的笑みを浮かべながらムゲンたちに質問を投げかける。

 ――ここで選択を間違えたら二人共強制的に叩き出される。

 ムゲンは質問してくるサキュバスを前にそう考える。そして意を決して叫ぶのだった。


「彼女と二人でホテルを利用しに来ました!」


「な!?」


「きゃあああぁぁぁー!!!」


 ムゲンの叫びを聞いて吸血鬼忍者は驚いた様子を見せ、サキュバスたちは楽しそうに黄色い声を上げる。

 サキュバスは性に奔放であり、同時に快楽主義者でもある。そんなサキュバスにとってムゲンの叫びは、ちょうどいいオカズなのだ。


「貴様……!」


 吸血鬼忍者は怒り心頭の様子で、拳を震わせるがすぐに場の雰囲気が変わったことに気づいた。

 なぜなら周囲にいる三十を超えるサキュバスから、殺気の籠もった視線を向けられているからだ。

 サキュバスたちにとってムゲンとカーミラはお客様で、吸血鬼忍者は力ずくで二人の仲を裂こうとする不届き者なのだ。


「く……覚えていろ。絶対にそこの半端者ダンピールは主の元に届けてやる!」


 そう捨て台詞を吐き捨てた吸血鬼忍者は、懐からけむり玉を取り出すと地面に叩きつける。

 ボフっという音と共に白い煙が周囲に立ち込める。そして煙が消えた頃には、吸血鬼忍者の姿は無かった。


「一昨日来てくださいねー」


 一人のサキュバスがそう言うと、周囲のサキュバスたちも同意するように舌を出したり、親指を下に向けるジェスチャーをするのだった。

 吸血鬼忍者が去ったことを確認したムゲンは、安心したように一息つく。しかしムゲンの苦難は終わっていなかった。

 サキュバスたちはムゲンとカーミラの身体を持ち上げると、そのまま一斉に運び出す。


「え? ちょっと一体どこに!」


「えええ!?」


「勿論お店ですわお客様ー。当サキュバスホテルをご利用ですものねー」


 そう言ってサキュバスたちに持ち上げられたムゲンとカーミラは、サキュバスたちの経営している歓楽街の中で、最も豪華なホテルに連れていかれるのだった。


 **********


 ムゲンたちが連れてこられたホテル――ラブホテルは、まるで宮廷のような豪奢な造りをしていた。

 そしてサキュバスたちはムゲンたちをラブホテルの床に立たせると、「後はごゆっくりー」と言って全員去っていった。

 残されたムゲンとカーミラは呆然とした様子で、無意識に相手の顔を眺めてしまう。


「あの……どうしましょうカーミラさん」


「やっぱり血と精気を頂けたら……いいかなと」


「その……まだ出会って一日も経っていない男とするんですよ。いいんですか?」


「はい、ムゲンさんとなら夜を共にしてもいいかなと……」


 恥ずかしそうに最後は小さく呟くように話すカーミラ。その姿はまるで男を惑わす、ファム・ファタールのようであった。

 ムゲンはそんなカーミラの表情と肉感的な身体を見て、思わず興奮が湧き上がってくる。

 しかしすぐに湧き上がった獣欲を振り払うと、カーミラの手を優しく握る。そしてラブホテルの受付に向かう。


「いらっしゃいませお客様。お話は聞いておりますので、こちらがお部屋になります」


 ラブホテルの受付嬢はムゲンたちの顔を見ると、スムーズにカードキームゲンにを手渡し、優雅に一礼する。

 そのままムゲンたちは案内役のサキュバスに連れられて、部屋に向かうのだった。

 案内された部屋は豪華な装飾と家具が置かれており、部屋の中心には大きな天蓋付きのキングサイズのベッドが置かれている。

 まさに王族の寝室と言ってもよい部屋である。


「あの……シャワーを浴びてきますね」


「ん? ああ、分かりました」


 カーミラは恥ずかしそうにムゲンにそう言うと、そそくさとシャワー室に入っていった。

 こういう事に慣れているムゲンは、カーミラがシャワーを浴びに行ったのは、汗や体臭のが気になるからであろうと推測する。

 一人残されたムゲンは、キングサイズのベッドに腰掛けて、カーミラのシャワーを待つのだった。

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