第55話

 四時間後、日の出を迎え朝日が部屋に入り込む。

 吸血鬼の血を引いているムゲンとカーミラであるが、純粋な吸血鬼ではないために、陽の光を浴びても痛みの差はあれど、頭痛がする程度ある。


「んん……」


 先にベッドから起き上がったのは、一日中通しで情事に耽っても、体力に余裕のあるムゲンであった。

 ムゲンは両手を伸ばして背伸びする。ポキポキと骨の鳴る音が、ムゲンの寝起きの耳には心地よい音であった。

 背伸びをするムゲンの首元には、一対の血を吸われた痕が残っており、さらにはキスマークが大量にできていた。


「カーミラさんはまだ寝ているのかな……っと」


 まだ若干寝ぼけた様子のムゲンは、ベッドに寝ているはずのカーミラに視線を向ける。

 するとムゲンの視界に入ってきたのは、純潔を散らした証である赤い血と、白濁液、汗などの水分が混じり合ったシーツであった。

 それを見てムゲンは昨日の情事の内容について、鮮明に思い出してしまい頭を抱えるのであった。

 一方のカーミラは、水たまりができているほど濡れているシーツの中で、幸せそうに眠っていた。

 

「幸せそうだなぁ……」


 眠っているカーミラの寝顔を見て、ムゲンは思わずほっこりとする。だがそんなムゲンを蹴落とすかのように、ポケットトロンには大量の着信履歴が入っていた。

 ポケットトロンに届いた着信履歴を見てムゲンは、思わず何もかも捨ててその場から逃げたくなったが、アイシアとサクラに何も言わずに拠点を出たのはムゲンなので、仕方がなくポケットトロンを手に取る。

 そこにはアイシアとサクラからの着信履歴が、大量に入っていた。

 覚悟を決めたムゲンはアイシアへ通話をかける。するとワンコールもせずに、アイシアは通話に出てくる。


「もしもし……」


『ムゲン!? 今どこにいるの!』


「実は……」


 恐る恐るポケットトロンに話しかけるムゲン。だが返ってきたのはアイシアの心配そうな声であった。

 そんなアイシアの声を聞いたムゲンは、すぐに謝るように事情を説明するのだった。

 吸血鬼に襲われていたカーミラのこと、サキュバスが運営する歓楽街に逃げたこと、そのまま夜を過ごしたことを、ムゲンはアイシアに全部話した。


『はぁ、優しいのはいいけど、程々にしないと刺されるわよ?』


「あはは……肝に銘じます」


 アイシアの忠告を聞いて、思わず苦笑いを浮かべてしまうムゲン。ポケットトロンの向こう側から聞こえるアイシアの言葉は、まるで問題児の弟を心配する姉のような声色があった。


『ああそれと、早く帰ってきたほうがいいわよ。リリィさん何やらかすか分からない言動してたから』


「あー……」


 アイシアの言葉を聞いたムゲンの脳裏には、慌てた様子のリリィの姿が鮮明に浮かびあがった。


『このままオリュンポスコーポレーションの権力を使って探索されたくなければ、早く帰ってくることね』


「今すぐに帰る準備をします!」


『ふふ、まあサクラには私から言っておくから、安心してなさい』


 そう言ってアイシアは通話を切るが、ムゲンの中では急いで戻らないと大変なことになる、ということで占められていた。

 そんな中幸せそうに眠っていたカーミラは、慌てた様子のムゲンの声に目を覚ます。


「ふぁ~ムゲンさんどうしたんですか?」


 若干不機嫌そうな表情を見せるカーミラ。それと同期するように彼女の豊満な胸が、プルンと揺れる。

 だが慌てているムゲンは、そんなカーミラの様子に気づかず、急いで着替えをしていた。

 そんなムゲンの様子にカーミラは、より一層不機嫌そうな表情になる。


「ムゲンさ~ん」


「え……カーミラさ……」


 しかしムゲンはその続きを言うことができなかった、なぜならカーミラがムゲンの唇を奪ったからである。

 そのままムゲンの唇を堪能するカーミラ。続けて舌を入れようとする彼女であったが、それより早くムゲンが唇を離すのだった。


「カーミラさんも早く着替えて!」


「どうしたんですか? ムゲンさん」


「俺たちが寝ている間に、大事になっているんですよ!」


 事情を理解していないカーミラは、コテンと首を傾げる。その間にもムゲンは汗をタオルで拭き取り、着替えを続けていた。

 ムゲンの様子を見てカーミラも、急いで着替え始めるのだった。

 

 **********


 着替え終えたムゲンとカーミラは、急いでチェックアウトを行うためにカウンターへ急いで向かう。

 元気そうなムゲンたちを見たサキュバスの受付嬢は、アラアラという感じに笑みを見せ、チェックアウトの手続きを済ませてくれた。


「カウンターのサキュバスさんは、何であんなに笑顔だったんですかね?」


「あーカーミラさん……言いにくいんですけど、サキュバスは精気を感じ取る感覚があるから、俺たちがどれだけ致したかバレバレなんですよ……」


 ムゲンの説明を聞いたカーミラは恥ずかしそうに、顔を赤らめると素早くうつむくのだった。

 その後、すれ違った歓楽街のサキュバスたちに、ムゲンとカーミラは生暖かい視線を向けられるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る