第58話
リリィが拠点を去った後、ムゲン、アイシア、サクラの三人は、残された三枚の五千ニューエンの入ったプリペイドカードをそれぞれ手にする。
そしてそれと同時に、ムゲンたちはリリィの持ってきた仕事を、引き受けることになるのだった。
「さて、三日の猶予があるけどこれからどうする?」
「私としては、報酬の二万ニューエンの使い道を考えたいので、一人でカタログの確認ですかねー」
「ふーんサクラはここにいるのね……じゃあムゲン、一緒に買い物いかない?」
サクラの予定を聞いたアイシアは、一瞬考慮するとムゲンに声をかける。
いきなり買い物に誘われると思っていなかったムゲンは、驚いた表情をするがすぐに笑顔で頷く。
それを見たサクラは、それがあったかーと言わんばかりに悔しそうな顔をするが、すぐに割り切る。
「うう……私も誘えばよかった……でも次は私が誘いますからね!」
「ふふん、それはどうかしら?」
仲睦まじいアイシアとサクラの関係を見て、カーミラは思わず笑みをこぼす。
カーミラが微笑んだ理由が分からなかったムゲンたちは、思わず首を傾げるのだった。
「仲が良いんですね」
「ふふん、まあ私達竿姉妹ですもんね」
サクラの言葉アイシアは、「あのねぇ……」と苦笑するが、否定はしなかった。
**********
翌朝、ムゲンとアイシアは、ネオ大阪の工業地帯に向かっていた。理由は勿論、アイシアの買い物である。
アイシアは普段の動きやすい格好ではなく。白のワンピースと清楚な服装であった。
ムゲンと手を繋ぎながら歩くアイシアは、時折嬉しそうに獣耳をピクピクと動かしており、ワンピースからはみ出ている尻尾は、ムゲンの身体にまるでニオイをつけるように擦りつけていた。
「あのーアイシア?」
「んーなに?」
「いえ……なんでもないです」
太もも周辺に触ってくる尻尾の感触をむず痒いと思ったムゲンは、思わずアイシアに止めるように声をかけようとするが、まるで太陽のような笑顔を見せるアイシアの顔を見て、止めてしまう。
一方のアイシアは、道歩く男を魅了するような笑顔をムゲンに向けていて、周囲の男性から視線を集めているのだが、アイシア本人は全く気にしていない様子である。
そうして工業地帯に着いたムゲンとアイシア。
ネオ大阪の工業地帯は、どんよりとした薄暗い雲に覆われており、直感的に治安の悪さを感じさせる。
そしてなにより、目つきの悪い軍人崩れの男たちが何人もたむろしているのが、治安の悪さを拍車にかける。
「ここ、大丈夫なんですか?」
「変に話しかけない限り大丈夫でしょ、多分……」
工業地帯の雰囲気に、思わず不安になるムゲン。一方のアイシアも少しだけ不安げな表情をする。
ムゲンたちはそのまま目的の場所へ歩いて行く。その道中でも、アサルトライフルを持った軍人崩れの男を、何人も見ることになるムゲンたち。
そうして十数分後、ムゲンとアイシアは、目的の場所であるトレーニングジムに到着する。
「へ?」
アイシアのとの買い物の場所がトレーニングジムであることに、呆気にとられるてしまうムゲン。そんなムゲンの表情を見てアイシアは、クスリと微笑む。
「何ぼっとしてるのムゲン。さあ中に入るわよ」
「ええ……はい」
そう言ってアイシアはムゲンの手を取り、トレーニングジムの中へと入っていく。
トレーニングジムの中はトレーニング機材で溢れており、様々な種族がトレーニングに勤しんでいた。
トロールが、オークが、エルフが、ヒューマンが、多種多様な人種の人々が、トレーニングに集中している。
そんな中、カジュアルな服装をしたムゲンと、着飾った服装をしたアイシアは非常に浮いていた。
「アイシア、本当にここで合ってるんですか?」
「ええ合ってるわ」
そう言うとアイシアは、トレーニングに集中する人々を無視してカウンターに向かって歩いて行き、一枚のカードを取り出した。
カードを見た受付は目の色を変えると、アイシアとムゲンをトレーニングジムの奥へと案内するのだった。
**********
トレーニングジムの奥へ案内されたムゲンとアイシア。そこには大量の多種多様の銃器に、サイバーウェアをいれるための手術室、高級志向な物からカジュアルな物など様々な防具が置かれていた。
「ここは……」
「凄いだろう少年? ここは私の店のネオ大阪支店さ」
目の前に広がる光景に唖然としているムゲンに、声をかけてくるのはネオ東京で店を構えていた筈のカグヤであった。
「カグヤさん!?」
「ふふ、良い反応をありがとう少年。私がネオ大阪にいる理由だがね、アイシアは私のお得意様なんだよ。だから私もネオ大阪に来たわけさ」
ダークエルフ特有の美貌を武器にした妖艶な笑みを浮かべたカグヤは、そう言って分厚いカタログを手に取るとそのままアイシアに手渡す。
「ありがとうカグヤ」
アイシアはムゲンの横に立つと、パラパラとカタログと残高が表示されたポケットトロンを見比べ始めるのだった。
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