第57話
疲れた様子のシェイドの声を聞いたムゲン、アイシア、サクラは驚いた表情を見せる。
なぜならシェイドはネオ東京を拠点に、フィクサーをしていた男だ。それがなぜネオ大阪にいるリリィの通信に出てくるのか、不思議でしかない。
「ちょっとシェイド、どうして
「あーアイシア……言いづらいんだが、最近のネオ東京の裏社会じゃ俺は、お気にのコントラクターを騙して悪いがしたフィクサーなんだとよ……!」
辛そうなシェイドの言葉に、ムゲン、アイシア、サクラ、そしてシェイドと関わりのないカーミラさえも、同情の視線をポケットトロンに向ける。
なおリリィだけはシェイドとの通信が繋がっているポケットトロンを、可愛らしいサディスティックな笑みを向けていた。
「可愛そうなシェイドさんでしたが、私の目に留まったのでこうやって、オリュンポスコーポレーションからの仕事の仲介をしていただくことになりましたの」
「シェイド……あんたそれでいいわけ?」
「言うなアイシア、俺にも養わないといけない家族がいる。そのためならたとえオリュンポスの犬と呼ばれてもいい……」
悲痛なシェイドの声に対し、ムゲン達は掛ける言葉がなかった。だがリリィはそんなことお構いなしに、話を続けていく。
「それじゃあシェイドさんも加わったことなので、仕事のお話をしても大丈夫ですか?」
合図するようにパンパンと手を叩くリリィ。それに対しムゲン、アイシア、サクラ、カーミラは軽く頷く。
全員の同意を得たことを確認したリリィは、コホンと軽く咳払いをして、持ってきた仕事の話をするのだった。
「先程も言いました通り、仕事の内容はネオ大阪で意気がっている小者の吸血鬼の暗殺ですわ。小者の名前はヴァンペラーと名乗っていますわ」
「その名前は……」
「あら、お知り合いですの?」
リリィの出した名前に、カーミラは反射的に声を上げる。その反応を見たリリィは、全てを知っているような笑みをカーミラに向ける。
――意地が悪いな。
リリィとの付き合いが長いムゲンは、口に出さず心の中でそう呟く。今のリリィの顔は、お前の事情は全て知っているぞ、という意味である。
「はい……私を狙っている人間から吸血鬼になったトロールの男です」
「ふーん、まあ貴方の事情は、今は置いておきましょう。このヴァンペラーという小者なのですが、レッドデッドというカラーギャングを率いておりまして、最近ネオ大阪を騒がしていますの」
「それで、ヴァンペラーって奴の暗殺だけでいいのかしら?」
「いえアイシアさん。詳細に言えばレッドデッドの壊滅までが依頼ですわ」
カーミラの反応を簡単に切って捨てたリリィは、続けて仕事の内容を説明するために胸元から一枚の写真を取り出した。
写真には赤い目をしたトロールらしき人物と、従うように周りを囲む吸血鬼の姿があった。
恐らくヴァンペラーの周囲に従う吸血鬼たちが、レッドデッドの構成員だろう。
「この中心にいる偉そうな小者がヴァンペラーですわ。依頼の期日は三日後までに暗殺を。三日を過ぎるとこいつの首に、複数のネオ大阪にある組織が、共同で賞金をかける予定ですわ」
「一応聞くけど、ヴァンペラーの賞金は?」
「あら、今は賞金をかけられていない以上、その質問は無意味ですわ」
「そう……それじゃあ報酬は?」
「報酬は一人二万ニューエン、前金として五千ニューエンですわ」
リリィから依頼の詳細を聞いたアイシアは、念のためにヴァンペラーの賞金額を確認するが、リリィは微笑みながら煙に巻く。
――こういう交渉事はビッグセブンの人間に勝てないわね。
アイシアはそう判断すると、話を切り上げ報酬の話に切り替えた。報酬の話に切り替わったことを確認したリリィは、笑顔で相場より高い報酬を提示する。
「二万……!」
リリィの提示した報酬にの高さに驚いたムゲンは、思わず報酬額を口にしてしまう。アイシアにサクラ、カーミラも口に出さずとも、驚いた表情を見せる。
そんなムゲンたちの反応を見たリリィは、満足そうにその豊かな胸を張るのだった。
「どうやら私の仕事を受けて頂けそうですわね。それでは前金の五千ニューエンですわ。ああ、カーミラさんはどうします?」
懐から五千ニューエンの入った、四枚のプリペイドカードを取り出すリリィ。そしてまるで悪魔のようにカーミラへ問いかける。
「私は……その仕事を受けます」
一瞬であるが顔色を変えて思案したカーミラは、ムゲンを一瞥し決心した様子でリリィにそう告げた。
迷っていたカーミラが決断した理由としては、自分を助けてくれたムゲンへの恩返しと、ヴァンペラーとの因縁を断ち切るためである。
カーミラの答えを聞いたリリィは、満足そうに笑みを浮かべると、一枚のプリペイドカードをカーミラの前に差し出す。
「ではこちらをどうぞ、前金の五千ニューエンですわ。ああそれと、アイシアさんとサクラさんとは仲良くしてくださいね。ムゲンの所属しているチームが痴話喧嘩で解散なんて、聞きたくないですもの」
「そんなことしませんよ!」
「ふふ、冗談ですわ」
カーミラに向けて楽しげに笑ったリリィは「それでは私は帰りますわ」と言うと席を立ち、ムゲンたちの拠点を後にするのだった。
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