第66話
吸血鬼の一人を倒したムゲンとアイシアであったが、レッドデッドの拠点内は殺害した吸血鬼の叫び声で騒がしいものとなっていた。
騒ぎを聞き付けた吸血鬼が次々と現れ始めると、ムゲンとアイシアはすぐさまアサルトライフルで弾幕を張りつつその場から逃げ出す。
「マズイわね」
「ええマズイですね」
ムゲンとアイシアはできるだけ吸血鬼との正面衝突を避けるために、どこかに隠れようと考えるが、ここは吸血鬼たちの拠点である以上それは無駄に近い。
そう考えた二人は腰に携帯していた手榴弾を取り出すと、ピンを抜き追ってくる吸血鬼たちに向けて放り投げた。
侵入者が躊躇なく手榴弾を投げつけてきたことに驚く吸血鬼たち。
殆どの吸血鬼たちは手榴弾から即座に逃げていくが、中には床を転がる手榴弾を拾って、遠くに投げようとする吸血鬼がいた。
だが爆発のタイミングをマトリクスで思考制御できる手榴弾は、ムゲンとアイシアの好きなタイミングで爆発できる。
吸血鬼が手榴弾を手に取った瞬間、二人は即座に手榴弾を爆破させた。
二つの手榴弾はただちに爆発し、遠くに投げようとした吸血鬼も、周囲にいた吸血鬼も爆発に巻き込まれた。
爆発音と共に大量の手榴弾の破片が吸血鬼たちを襲い、身体を喰らい尽くしていく。
ムゲンとアイシアは爆発のタイミングに合わせて身体を伏せ、爆風をやり過ごす。
「死ね!」
爆風が収まったことを確認したムゲンは、素早く起き上がるとアサルトライフルを斉射していく。
狙いは手榴弾の爆発から逃れた吸血鬼たちだ。
アイシアも続けてアサルトライフルの引き金を引いて、銃弾をばら撒いていく。
手榴弾の爆発を運よく回避できていた吸血鬼たちは、ムゲンとアイシアのアサルトライフルの銃弾を叩き込むためだ。
連続して響き渡るアサルトライフルの銃声。それと共に放たれた銃弾が吸血鬼たちの身体へ命中していく。
悲鳴を上げることもなく絶命していく吸血鬼たち、だが後方にはまだ無事な吸血鬼たちが立っている。
「ムゲン!」
「はい!」
ムゲンとアイシアは即座に走り出すと、無事な吸血鬼たちにむかって走っていく。
一気に距離を詰めたムゲンは、アサルトライフルを吸血鬼の一人に向けて銃弾を撃ち込む。
耳をつんざくような一発の銃声。そして吸血鬼の頭部が弾け飛ぶ。
そのままムゲンは周囲の吸血鬼たちに向かって、アサルトライフルを斉射した。
「アイシア!」
周囲の吸血鬼たちが再生しながらも起き上がろうとしているのを確認したムゲンは、すぐさまアイシアに視線を向け声をかける。
アイシアもアサルトライフルを撃ちながら、吸血鬼たちに重症を負わせていた。
「こっちはOKよ」
そしてアイシアの周囲に立っている吸血鬼がいないことを確認したアイシアは、今度は腰元から焼夷手榴弾を取り出す。
それを見たムゲンも腰から焼夷手榴弾を取り出し、うめき声を上げている吸血鬼たちを一箇所に集め始める。
「ああもう、重いわね」
「そう言うなら俺がやろうか? 代わりに焼夷手榴弾のセットをお願い」
「ええ任せなさい」
ムゲンの提案を聞いたアイシアは、ポンと軽く胸を叩くとムゲンから焼夷手榴弾を受け取り自動的に爆発するよう仕掛けを施していく。
一方のムゲンは一人吸血鬼たちの身体を引きずり一箇所に集めていた。
数分も経たず吸血鬼たちの身体で構成された山が完成し、山の目の前には自動的に起爆する焼夷手榴弾が設置されていた。
「や……止めろ」
既に何人かの吸血鬼たちは喋れる程度に再生したのか、僅かながらに静止の声を上げる。だがムゲンとアイシアは、焼夷手榴弾の起動を止めることはせず奥へと進んでいく。
「あ……あ……」
奥へ進んでいくムゲンとアイシアの耳に、焼夷手榴弾の起動する音が響き渡る。
だが二人は振り返ることをせずに、囚われたカーミラを探すのだった。
**********
時間はムゲンたちがレッドデットの拠点に侵入する直前へ遡る。
――意識を失っていた?
目を覚まし落ち着いたカーミラが周囲を見渡すと、先程まで襲ってきていた吸血鬼たちの姿は無い。
それどころか今いる場所は、ムゲンたちの拠点ではなく薄暗い棺桶がある洋風の部屋であった。
「ここは……」
見覚えのない部屋の、見覚えのない豪華な装飾のベッドに寝かされていたカーミラは、思わず呟いてしまう。
「ようやく起きたか我が花嫁よ」
そんなカーミラの背後から気取ったような男の声が、カーミラの耳に入ってくる。
素早く振り向いたカーミラの視界に居たのは、タキシードを着たずっしりとした体格のトロールの男であった。
トロールの男の口元からは鋭い牙が伸びており、吸血鬼であることがよく分かる。
だがトロールといっても男の顔は醜くなく、整った顔つきをしていた。
「あなたは……」
カーミラは吸血鬼の男の名前を知っていた。男の名前はヴァンペラー、カーミラの身体を狙っている吸血鬼である。そして吸血鬼で構成されたストリートギャング、レッドデッドのボスだ。
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