第2話
マズイ。そう思ったムゲンは、即座に全身へと魔力を流し込み神経加速を行う。
神経加速――それは自身の意識を通常の千倍にまで引き上げる科学技術であり、魔法技術である。しかしその代償として使用すれば身体に負担がかかるため、十秒という短時間しか使用できない。
一瞬のうちにムゲンの脳の処理速度は限界を超えて上昇し、通常の数倍の速度で思考を行い肉体の動きを最適化させる。
ムゲンの意識は加速していき、周囲の景色はスローモーションとなり、時の流れが遅くなった世界へと入る。
ムゲンの視界に映るのは、スローモーションになった世界で動くマシンガンを持つヒューマン。
ゆっくりと動き出した時間の中で、ムゲンは即座に立ち上がると腰に帯刀したドスを引き抜く。
「チッ!」
鞘から抜かれたドスは、まるで光のように刀身を輝かせ、そのままムゲンは走り出し流れるように横薙ぎにドスを振るう。
しかしドスがヒューマンの首まで残り数センチといった次の瞬間、ギロリとヒューマンの目がムゲンを睨みつける。
「!?」
驚愕するムゲンであったが、迷わずドスを振り抜こうとする。
しかしムゲンの一撃は、サイバーウェアによって加速した世界に入ってきたヒューマンの腕によって防がれてしまう。
「くそ!」
ゆっくりと沼底にいるように停滞した時間の中で、ムゲンはすぐさま後退すると、ヒューマンの男からの追撃を警戒して身構える。
くるか……? そう思いながらもムゲンはゆっくりと逃げるために距離を取る。
しかしムゲンの動きを見たヒューマンは、即座に走り出して距離を詰めてくるのであった。
「逃しちゃくれないか!」
軽口を叩くムゲンであったが、そうしながらも懐に携帯したヘビーピストルを抜く。
襲いかかってくるヒューマンに対して、迷わずトリガーを引くムゲン。
加速したムゲンの時間の中では、放たれた弾丸はゆっくりとだがヒューマンに向かって飛んでいく。
「ははは!」
しかし神経加速によって体内時間が加速しているヒューマンの男にとって、音速で飛ぶ弾丸などスローモーションに見える。
迫り来るヘビーピストルの弾丸を、余裕で回避していくヒューマンの男。
その直後、神経加速の効果時間が限界を超え、ムゲンとヒューマンの体感時間が元に戻る。
互いの神経加速の効果が切れたことに気づいた両者の動きは、とても対象的であった。
ムゲンは即座に遮蔽を取るために車の影に隠れ、ヒューマンはマシンガンの照準をムゲンに合わせようとする。
車両の影にムゲンが隠れると同時に、マシンガンのトリガーが引かれた。
その直後、マシンガンの銃口から銃声と共に大量の銃弾がばら撒かれていく。
「クソ、ばかすか撃ちやがって……」
大量にばら撒かれる弾丸は、次々と車や建物を破壊していく。
その光景を見て悪態をつくムゲン。
マシンガンの弾丸はムゲンが隠れた車両にも銃弾は着弾しており、車両からは煙が立ち上っていた。
「仕方ないか……」
覚悟を決めたムゲンは着ていたポンチョを脱ぐと、そのまま地面へと投げ捨てる。
そしてマシンガンの銃声が止むのをジッと待っていく。
数秒後、マシンガンの銃撃音が止むと即座にムゲンは飛び出す。
「……!」
ムゲンが飛び出してきたことを見たヒューマンは、素早くマシンガンを手から離し、腰に携帯したショットガンを取り出す。
そのまま飛び出してきたムゲンに向かって、ショットガンの引き金を引くのであった。
銃声と共に放たれた散弾は、ムゲンへと向かって行く。
だがムゲンは慌てる様子もなく、そのまま散弾に突っ込んでいく。
そして散弾がムゲンの身体に命中する寸前、ムゲンの背中から二枚の翼が展開される。
ドラゴンと淫魔の二枚の翼により、ムゲンの身体は即座に空中へ舞い上がる。
同時に展開した二枚の翼を使い、ムゲンは上空を舞うと、そのまま急降下しながらショットガンを持ったヒューマンの腕を掴む。
「掴んだぞ!」
そしてヒューマンの腕を、ムゲンは吸血鬼とドラゴンの握力を用いて、まるで万力のように締め上げる。
「があああぁぁぁ!」
痛みに耐えきれなかったヒューマンの口からは、悲痛な叫び声が上がっていき、その手からはショットガンを取り落とす。
大量のサイバーウェアで改造されたヒューマンの身体には、痛みを抑制するサイバーウェアであるペインコントロールが搭載されている。
しかし腕を掴まれたヒューマンは、本来ならば感じるはずのない腕の激痛に悶え苦しんでいた。
「そらっ!」
そしてムゲンは勢いよくヒューマンの体を、投げ捨てるように地面へと叩きつける。
固いアスファルト製の地面が、叩きつけられた衝撃によって陥没する。
そのまま大の字に倒れたヒューマンの体は、地面を何度もバウンドして転がっていく。
転がっていったヒューマンは素早く起き上がると、腰に携帯していたマシンピストルを抜き出す。
「ちぃ!」
抜かれたマシンピストルを見たムゲンは舌打ちすると、即座に両手をクロスさせて防御姿勢をとる。
ムゲンが防御したと同時に、ヒューマンはマシンピストルのトリガーを引く。
先程のマシンガンと比べて、軽い銃撃音が長く響き渡る。
ヒューマンの男はマシンピストルに入っていた銃弾を、すべて撃ち切る覚悟でフルオート射撃したのだ。
しかしばら撒かれた九mmパラベラム弾はムゲンの皮膚を貫くことはできなかった。代わりにムゲンの着ていた衣類を、ズタズタに引き裂いただけ。
ドラゴンの遺伝子を引いているムゲンの皮膚は強靭なものとなっており、その強度はボディーアーマーと同等である。
「……!」
マシンピストルの弾丸がムゲンの肉体に効かなかったことに驚くヒューマンの男。
スマートシステムによって制御されたマシンピストルは、ヒューマンの男の意を汲み弾倉を排出する。
そしてヒューマンの男は慣れた手付きで、マシンピストルに弾丸の入った弾倉を装填した。
「うおおおぉぉぉ!」
だがその一瞬の隙を見たムゲンは、体中からマシンピストルの弾丸を排出しながら走り出す。
リロードができていないマシンピストルの照準を、近づいてくるムゲンに合わせることで即座に弾丸を撃てるようにするヒューマンの男。
しかしリロードが完了するよりも早く、魔力で強化され鋼より硬いムゲンの拳がマシンピストルに命中する。
金属音同士をぶつけ合ったような音共に、マシンピストルはヒューマンの手を離れてバラバラに崩れていく。
「シッ!」
そのまま続けて回し蹴りを放つムゲン。まるで死神の鎌のような一撃は、ヒューマンの男の首にクリーンヒットする。
だがヒューマンの男も皮膚を強化皮膚に、骨を強化骨格に置き換えており、ムゲンの一撃でヒューマンの男の首は折れることはなかった。
ムゲンの一撃を受け流しながらも、横に吹っ飛んでいくヒューマンの男は、そのまま勢いよく壁に叩きつけられる。
壁に打ち付けられたヒューマンの男の体は、その衝撃によって壁にめり込んでいく。
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