第45話
ムゲンたちの視界に広がる琵琶湖の周辺には、高層マンション群が立ち並んでいる。また道路には多くの車が行き交い、まるで一つの街のように賑わっていた。
そんな琵琶湖の周囲には、企業の雇った武装警備員が琵琶湖周辺を警備をしているのが見える。
遠くからではあるが武装警備員が手に持っている武装は、ほとんどがアサルトライフルである事が確認できる。
「マズイわよサクラ! 琵琶湖の方に行けばアサルトライフルで撃たれてしまう!」
「そういうことは
アイシアの言葉を聞いたサクラは、何とか琵琶湖から離れようとハンドルを切ろうとするが、追ってきているワナガシのメンバーの乗るバイクに、完全に包囲されており前方以外の逃げ場を失ってしまう。
サクラは車体を左右に揺らしてワナガシのメンバーが乗るバイクを叩き潰そうと考えるが、相手もバンの突撃に合わせて無理矢理ハンドルを切るため、うまくいかない叩き潰せない。
「このままワナガシの奴らだけ銃撃してくれませんかね?」
「なに馬鹿なこと言ってるのよ。武装警備員の仕事は侵入者の排除なんだから、私達も排除対象でしょ!」
「ですよねー」
そう言いながらもサクラはハンドルを切ってワナガシの集団を引き離そうとするが、やはりワナガシの集団は離れない。
このままでは琵琶湖の武装警備員に銃撃されてしまう。そう思ったサクラは、一瞬とはいえ思わず目を瞑ってしまう。
「キシャアアアァァァ!」
次の瞬間、遠くから形容しがたい雄叫びがムゲンたち三人と、ワナガシの集団の耳に響く。それと同時に琵琶湖から現れたのは、四十メートル近い大きさを持った鮫であった。
しかしそれは鮫というには明らかに異形であった。なぜならその鮫の身体には、二本の脚が生えているからだ。
「ちょっと何なんですかあれは!?」
「鮫ぇ!?」
「デカい……」
サクラ、アイシア、ムゲンの順に異形の鮫について口にする。そのまま異形の鮫はワナガシのメンバーが乗るバイクを一台、ぱくりと丸呑みするのだった。
そしてサクラたちが呆気に取られている間にも、異形の鮫は走っているバンとバイクにギロリと視線を向ける。
そして異形の鮫は勢いよく跳躍すると、一気にバンとバイクとの距離を詰めていく。
「な……!?」
驚くサクラであったが、素早いハンドルさばきで異形の鮫の突進を回避する。そのまま異形の鮫は地面を泳ぐかのように滑っていき、逃げ遅れたワナガシのメンバーを轢殺していく。
異形の鮫の通った道は、ワナガシのメンバーの血によって赤く染まっていく。その光景を見たサクラは、思わず顔を引きつらせてしまう。
「何なんですかあれは~!」
「言っている場合じゃないでしょ! さっさと逃げるわよ!」
「サクラさん、あの鮫、こっちに向かってきますよ!」
ムゲンたちは知らなかったが、この異形の鮫は琵琶湖に生息するミュータント鮫の一種で、バジリスクシャークと呼ばれる鮫である。
地面を滑っていたバジリスクシャークは、二本の脚でゆっくりと立ち上がると、なんとそのまま二足歩行で走り始めた。
ヒタヒタという足音が聞こえてくるが、バジリスクシャークの走る速さは、時速六十キロで走るバンを逃がさない速さである。
「いくら命が軽いと言っても、あんなナマモノに食べられて死ぬのは嫌ですぅ!」
「サクラさん、あの鮫こっちに近づいきてます!」
「ムゲン君、アレを鮫なんて呼ばないでください。常識が崩れそうです!」
サクラは必死にハンドルを操作しながらも、無意識にバックミラー越しに近づいてくるバジリスクシャークを見てしまう。バジリスクシャークの口から覗いたのは、半壊し血だらけになったバイクの姿と、ワナガシのメンバーだったトロールの腕であった。
バジリスクシャークはトロールの腕の味が気に入らなかったのか、ぺっと吐き出すと再びムゲンたちの乗るバンを追いかけ始める。
さらに逃げるバンとバジリスクシャークの姿を見た遠方の武装警備員は、ムゲンたちの乗るバンに銃口を向けてきた。
「そこの黒いバン、ここからは先は企業の私有地だ!」
「それ以上近づくと発砲する!」
武装警備員たちは口々に警告を発してくるが、サクラはブレーキを踏むことができない。もしブレーキを踏んでしまえば、バジリスクシャークの餌食となってしまうからだ。
ムゲンたちの乗るバンが止まらないことを視認した武装警備員は、手に持っているアサルトライフルの照準を合わせる。そして威嚇射撃をすることなく撃ってきた。
「甘いんですよ!」
しかしサクラは腕のいいドライバーだ。アサルトライフルの銃弾を回避すべく左右にハンドルを切ることで、被害を最小限に抑えることに成功した。
「撃ってくるんだったら、
ハンドルを操作しながらサクラはそう叫ぶと、全力でアクセルを踏みつけバンを一気に加速させていく。
「近づくな!」
猛スピードで近づいてくるバンに対し、武装警備員はアサルトライフルを連射するが、サクラが巧みに操るバンの動きを止めることはできない。
そしてサクラは武装警備員の目の前で、ハンドルを勢いよく切って右へ急カーブをさせた。
「ゴガアアアァァァ!」
しかしバジリスクシャークの勢いは止まらず、そのまま武装警備員目掛けて突撃していった。
「ひゅー、ざまあないですね!」
バジリスクシャークに襲われている武装警備員を見て、サクラは楽しそうに声を上げるのだった。
ワナガシのメンバーの追撃と、バジリスクシャークの襲撃を何とか退けたムゲンたちを乗せたバンは、ネオ大阪に向かって走っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます