第46話

 ネオ大阪。西暦二千二年に出現したドラゴンを討伐するために発射された核ミサイルによって、壊滅した大阪を再建した街である。

 その後、出現したドラゴン――九頭竜は、日本の経済の中心地として、壊滅した大阪をネオ大阪へと発展をさせていった。

 そうしてネオ大阪は、九頭龍が実質支配する街として、治外法権を得ることになった。

 眩しいほどにネオンの輝くビルが立ち並ぶネオ大阪のメインストリートでは、多くの車が行き交い、多くの人々が歩道を埋め尽くしていた。


「ここがネオ大阪……」


「ムゲン、そんなお上りさんみたいに目を輝かせない。私達もここで住むことになるのよ」


「アイシアもそう言わずに、私も珍しいものが多くてビックリしたんですから」


 ネオ大阪に到着したムゲンたちは、ネオ東京とはひと味違う風景に思わず圧倒されていた。

 圧倒されているムゲンたちの前を、一輪車に乗ったパンダがスーッと通過していく。さらに一輪車に乗ったパンダを追うように、拳銃を持ったピエロが走っていくのだった。


「え?」


「何あれ?」


「そんな事聞かれても、可愛いサクラちゃんにも分かりませんよアイシア」


 あまりの出来事に唖然としているムゲンたちであったが、道行くネオ大阪の人々は、驚くどころかいつもの事かと言わんばかりの表情であった。そんなネオ大阪の人々の中には、笑いながらハンバーガーを食べている人もいるほどである。


「ネオ大阪って物騒な街なんですね……」


「そうね……さっさと新しい住居に向かいましょ」


「それについては私も賛成です~」


 ムゲンたちは周囲の人々の反応に戸惑っていたが、このまま唖然としていても何も進まないので、新しい拠点に向かおうとする。

 しかし次の瞬間、ムゲンたちの近くにあった銀行の入り口から銃声が鳴り響く。


「隠れるわよ!」


 アイシアの言葉を聞く前にムゲンとサクラは、素早くバンの影に隠れて各々の武器を取り出す。

 銃声が聞こえた銀行からは、覆面を被りアサルトライフルを持ったヒューマンやエルフ、オークやトロールなど他種族の人間が十人程出てくる。


「邪魔だ邪魔だ! 退けどけ!」


「邪魔したやつは撃ち殺すぞ!」


 銀行強盗たちの武装の良質で、アサルトライフルを始めとして、手榴弾などの爆発物に、防弾チョッキといった装備であった。

 銀行の正面にいた人々は、蜘蛛の子を散らすかのように逃げていき、武装した銀行強盗たちが大声で叫びながら、自分たちが乗ってきた車両に急いでのりこもうとする。


「おい、そこの姉ちゃん。悪いが人質になってもらうぜ」


 銀行強盗の一人が、サクラに視線を向けるとそう言い出す。

 ムッと眉を寄せたサクラは、その銀行強盗にマシンピストルの銃口を向けようとするが、それをアイシアが制止する。

 なぜなら他の銀行強盗たちが持っている九つのアサルトライフルの銃口が、ムゲンとアイシア、そしてサクラに向けられていたからだ。


「くっ……!」


「それは了承とみなすぜ姉ちゃん。ほら乗りな!」


 そう言って銀行強盗の一人はサクラの腕をつかむと、車両に乗せようとする。

 サクラは何とか振り払おうと抵抗するが、無改造のサクラの力と銀行強盗の力の差は歴然であり、サクラはあっという間にバンの目の前まで連れて行かれる。

 ムゲンは連れ去られそうなサクラを助けようとするが、すぐさま近くの銀行強盗がアサルトライフルの引き金に指をかける。

 ドラゴンの皮膚を持っているムゲンでも、アサルトライフルの銃弾を近距離から受けてしまえばタダでは済まない。


「抑えて……ムゲン……」


 それがわかっているアイシアは、口惜しそうにムゲンの腕を掴むのだった。

 サクラが車両へ乗せられそうになった瞬間、どこからともなくワルキューレの騎行が響き渡る。

 ワルキューレの騎行を聞いた銀行強盗たちは、すぐさまサクラを車両に乗せようとするが、それを妨げるようにヘリが近づいてくる。

 近づいてきたヘリは、メディアが使うような非武装のヘリではなく。左右に二門のガトリングガンを搭載した武装ヘリであった。


『ムーゲーンー、愛しのリリィここに見参ですわー!』


 武装ヘリの操縦席の横には、黒いドレスを着たリリィが座ってマイクを片手に叫んでいた。なお武装ヘリ自体を操縦しているのは、オリュンポスコーポレーションの社員である。


「リリィ!? なんでネオ大阪に!?」


『決まってますわ! ムゲンがネオ大阪に移住したと聞いて、すぐに異動申請をしましたわ!』


 武装ヘリに取り付けられたスピーカーから聞こえるリリィの言葉に、思わずムゲンは頭を抱えてしまう。

 そんな二人のやりとりを無視して、銀行強盗たちは慌てて車両に乗り込もうとするが、武装ヘリに備え付けられているガトリングガンが火を吹く。

 銀行強盗たちに向けて放たれた無数の弾丸は、一瞬にして銀行強盗たちを蜂の巣にする。


「クソ! おいコイツがどうなってもいいのか!」


『あら、失礼。どことも知らない女の人質なんて、私には関係ありませんわ。撃ってよし!』


 サクラの腕を掴んでいた銀行強盗はそう言い放つが、返ってきたのはリリィの無慈悲な宣告であった。

 ガトリングガンの砲塔が回転していく中、サクラは気丈な態度で銀行強盗を突き飛ばす。


「てめぇ!」


 銀行強盗はせめてサクラも道連れにしようと手を伸ばすが、しかし次の瞬間、サクラの姿は銀行強盗の前から消える。

 魔力による神経加速したムゲンが、サクラを安全な場所に避難させたのだ。

 そして乱射されるガトリングガンの銃弾が、最後の銀行強盗の身体を貫いていく。

 ガトリングガンによって射殺された銀行強盗は、苦痛感じることもなく潰れたザクロのようになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る