第71話

 レッドデッドの吸血鬼たちを一掃したムゲンとアイシアは、一休みするために地面へ腰を下ろしていた。

 血濡れたコンバットナイフを拭うムゲンに、残弾の無くなったアサルトライフルをリロードするアイシア。

 二人の様子は落ち着いており、余裕すら感じられるほどであった。

 そんな中ムゲンは、先程まで持っていたヴァンペラーの生首を地面に転がすと、ふぅと息を吐いて空を見上げる。

 ――レッドデッドの殲滅と、ヴァンペラーの暗殺両方完了だな。

 一息ついたムゲンはそう思いながらも、コンバットナイフを仕舞い込むのだった。


「ねえ、ムゲン。なんで生首持って戻ってきたの?」


「まあそれは離せば長くなると言いますか……」


 言いづらそうな表情をしながらもムゲンは、アイシアとカーミラに先程あった全部を話し始める。


「はぁ!? 変なおっさんがヴァンペラーの身体を持っていったの!?」


 アイシアはムゲンから聞いた説明を聞いて、思わず声を荒らげてしまう。だが無理もない、目の前で見ていたムゲンもよく分かっていないのだから。

 一方話を聞いていたカーミラは、呆然とした表情を見せたまま固まってしまっていた。彼女の場合、自身の身柄を狙っていたヴァンペラーが、通りすがりの男に殺されたのだ。その衝撃は計り知れないだろう。


「とりあえずこれヴァンペラーの首持って、戻りません? リリィに仕事の完了報告もしないといけないし……」


「そうね、とりあえず帰りましょうか。ほらカーミラ、ショックを受けてないで拠点に帰るわよ!」


「あ、はい!」


 フリーズしていたカーミラは、アイシアの一喝でようやく再起動し、地面に転がっていたヴァンペラーの生首を、自身の服が汚れるのも構わずに拾い上げるのだった。

 ムゲン、アイシア、カーミラの三人は、並んでリリィのいるオリュンポスコーポレーションの社屋に向かって歩き出し始める。

 その道中でカーミラは、ヴァンペラーの生首をまるでボールのように遊んでいると、ぽろりとヴァンペラーの目玉が落ちてしまう。


「ぴえええぇぇぇ! ムゲンさん! どうしましょう!」


「いやいや、どうせ生首なんてリリィに確認してもらうだけだから、全損させなきゃ大丈夫でしょ」


「そうですよね……でもびっくりしたぁ」


 ムゲンの言葉にカーミラは安心しつつも、大事そうにヴァンペラーの生首を抱きしめながら歩くのであった。


 **********


 ムゲンたち三人は、オリュンポスコーポレーションの社屋に到着すると、そこには重装備の男たちが入り口に立っていた。

 ムゲンたちの姿を見た男たちは、手に持ったアサルトライフルの銃口を向けてくるが、すぐにその銃口を下ろしてくる。


「お前たち……仕事を受けたコントラクターだな。なら中にはいれ」


「あの……何かあったんですか?」


「部外秘だ。何も聞くな」


 一人の重装備の男の言葉に、思わずムゲンは質問をしてしまう。だが返ってきた言葉に、ムゲンは何も言うことができなかった。

 部外秘。それは企業が使う隠語の一つでもある。その意味は企業の機密であり、絶対に外部には漏らさないという意味合いがある。

 それを知っているムゲンたちは、それ以上口を開くことはせず、大人しく男の指示に従って社内へと足を踏み入れるのだった。


「は~い❤お疲れ様でしたわ皆様……なんで生首なんて持っているんですの?」


 社屋に入ったムゲンたちを出迎えたのは、黒のゴシックドレスを身にまとったリリィであった。だが彼女はムゲンたち三人が持っているヴァンペラーの生首を見て、思わず顔をしかめてしまう。

 そんなリリィの反応を見たムゲンたちは、思わず苦笑いをしながらも出血の止まったヴァンペラーの首を机に置く。


「リリィ、これが依頼の証拠」


「あら、よく見るとヴラド・ツェペシュ伯爵から逃げてネオ大阪でカラーギャングを作った、ヴァンペラーさんじゃありませんの。ほほほ、みすぼらしい格好ですわね」


 ヴァンペラーの生首を見たリリィは、口元を隠しつつも笑いながらヴァンペラーの生首を回収する。


「ふふふ、それではヴァンペラーの暗殺とレッドデッドの壊滅を確認しましたわ」


「俺たちレッドデッドの壊滅の証拠を出してないけど?」


「こちらには優秀な目と耳がありますの。レッドデッドの連中が敗走しているのを確認済みですわ」


 リリィは誇らしげに笑いながら、懐から取り出したポケットトロンを操作してムゲンたちに見せつける。そこには撤退しているレッドデッドの構成員たちが映っていた。


「さて、納得していただいたようなので報酬を渡しますわ。こちら二万ニューエンが四人分ですわ」


 そう言ってリリィは豊満な胸の隙間から、二万ニューエンの入ったプリペイドカードを四枚取り出し机の上に置く。


「さあ、サクラさんを持って帰ってくださいな。ああ、ムゲンはここで夜を過ごしてもいいんですよ?」


「いやぁ、今日は遠慮しときますね」


「まあいけず」


「はぁ……盛ってんじゃないわよ。ほらサクラを回収するわよ」


 リリィが笑う姿を見ながら、ムゲンとアイシア、カーミラの三人は、仮眠室にいるサクラを回収しに行くのだった。


 **********


 仮眠室に向かったムゲンを出迎えたのは、白衣を着たサクラの豊満な胸であった。

 ポヨンと擬音が聞こえてきそうなほどに柔らかいそれに、思わずムゲンは表情を崩してしまう。


「ムゲンく~ん、お疲れ様でした! どうです? これから私としっぽり夜を……」


「サクラ、馬鹿なことを言ってないで帰るわよ」


 率先してサクラの口元を引っ張って、拠点に戻っていくアイシア。そんな二人を微笑みながらムゲンとカーミラは、後ろを付いていくのだった。

 拠点に戻ったムゲンたち四人。

 ムゲンたちの拠点は、レッドデッドの吸血鬼たちの襲撃によってボロボロになっていた筈であった。

 だが四人の視界に広がるのは新品の備品、新品の壁、新品の天井である。


「あれ? なんでこんなに綺麗になっているんです?」


 他の三人の意見を代弁するように、ムゲンが思わず呟いてしまう。


「ねえちょっとこれ……」


 何か変わった物が無いか探し出したムゲンたち。するとアイシアが一枚のカードを見つける。

 カードには「私の善意で拠点の方は改装しておきました。お代は後日ムゲンに身体で払って頂きますわ」と書かれていた。

 それを見たアイシアは反射的にカードを破り捨ててしまう。


「落ち着いてアイシアさん!」


「そうですよアイシア。こういう時はムゲン君に嫌なことを忘れさせてもらうに限ります」


「そうね……」


 サクラの言葉を聞いたアイシアは、ニヤリと口角を釣り上げる。その様子はさながら肉食獣のようであった。

 更に続いてサクラとカーミラも胸元の服を緩めると、下着姿を見せつけて来るのであった。


「あのー三人共、何をするんですか?」


「決まっているわ、ナニよ!」


 アイシアの言葉を皮切りに、ムゲンは三人の雌猫に襲われるのであった。

 後にこの四人のコントラクターのチームが、ネオ大阪の新たな伝説になることは、ムゲンを含めた四人も知る由はなかった。

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おれはドラゴン、淫魔、吸血鬼、人間のクォーターですが、なんとか男娼になってこのサイバーパンク世界を生き抜きます 高田アスモ @ru-ru

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