第61話
カグヤの店から出たムゲンとアイシアの二人は、走りながら急いで拠点へと向かっていた。
理由は唯一つ、リリィから受けた依頼を素早く達成しないと、カグヤ以外にも被害が出ると考えたからだ。
拠点にたどり着いたムゲンとアイシアは、息も上がった状態ながらサクラとカーミラがいる拠点に入っていく。
「サクラ、カーミラ! 急いでブリーフィングよ」
「え!? アイシアもう帰ってきたんですか!?」
アイシアの大声に驚くサクラとカーミラ。サクラは下着姿でハッキング機器のカタログを見ており、カーミラはケープを外して本を読んでいた。
そんなサクラの下着姿を見たアイシアは大きくため息をつくのだった。その後ろでは息を切らしたムゲンが、サクラの服装に気づかず呼吸を整えていた。
「む、ムゲン君!? 今着替えますから待ってください」
「え?」
「ムゲン、ちょっとだけ目を閉じてなさい」
アイシアの指示に従って、ムゲンは目を閉じる。さらにカーミラがムゲンの目を隠すように両手を当てるのだった。
ゴソゴソと服の擦れる音がムゲンの耳に聞こえる。それはまるでプレイのように思ってしまうムゲンであったが、それを言わない優しさがムゲンにはあった。
「サクラさん着替え終わりました?」
「終わりましたよー、ムゲン君手間をかけさせましたー」
数分後、ムゲンの目を隠していたカーミラの手がどけられると、ムゲンの視界が開ける。
そこにはいつも通りのサクラの姿があった。黒を基調とした制服の上に白衣を着たサクラはムゲンを見ると、男を魅了するような笑みを浮かべる。
「はーいサクラちゃん復活でーす❤」
「はいはい、今更なに言っても遅いわよ。下着姿でカタログ見ていたサクラ」
「うう……アイシアが虐めますぅ」
アイシアの言葉を聞いたサクラは、あざとい仕草ムゲンに泣きつこうとするが、それより早くアイシアの尻尾がサクラの首を締め上げる。
首を絞められてグエっと汚い声を上げるサクラの姿を見てムゲンとカーミラは、思わず苦笑してしまうのだった。
「さてサクラ、カーミラ、レッドデッドの連中とヴァンペラーの奴をさっさと暗殺するわよ!」
「どうしたんですアイシア、変なものでも食べたんですか?」
「あーサクラさん実はね……」
ムゲンはサクラに先程カグヤの店で起きたことを説明する。
話を聞いたサクラの顔は徐々に青ざめていき、自体がどのようなものか理解していく。
「なんですかそのバカチンはー!? 普通みかじめ料を請求するだけならまだしも、断ったら殺すって何時の蛮族です!?」
ムゲンの説明を聞いたサクラは思わず大声で叫んだ。
同じく説明を聞いていたカーミラも、顔を青ざめて頭を抱える始末。
頭を抱えたカーミラは小さい声で「こんなアホに私は狙われているんですか……」と自己嫌悪に陥っていた。
サクラとカーミラの反応を見てムゲンとアイシアは、思わずお互いに見合って苦笑してしまう。
「まあ……気分は分かりますよ」
「そうね、私もこいつらヤバい奴だって思ったもの。さあ、二人共! 頭を抱えている場合じゃないでしょ、レッドデッドのアホとヴァンペラーのアホをぶっ殺しに行くわよ」
『おー!』
アイシアの言葉にムゲンたち三人は拳を振り上げて答える。
それを聞いたアイシアは、すぐさまネオ大阪の地図を取り出しレッドデッドの拠点としている場所に赤ペンで丸を描く。
「いい? さっきここに戻ってくる前にレッドデッドの連中のアジトについて、シェイドに調べて貰ったわ。で、そのアジトがここ」
アイシアが指さしたのは、中華街にある小さなビルであった。
ネオ大阪にある中華街は、大陸系の人種による繁華街が形成されており基本的にアジア人が多い。
だがそれは表側の話である。
一歩裏路地に入れば、中華街の利権を入手せんとするマフィアやギャング、ヤクザの抗争が行われる火薬庫なのだ。
「アイシア、攻めるためのプランは?」
「ん、まずレッドデッドの連中のアジトのマトリックスを攻める。そこからは一気に速攻をかけてヴァンペラーの奴を暗殺するわ。他になにかある?」
「アイシア、重火器や爆発物はどれだけ使えるんですか?」
「いい質問ねサクラ、ちょっと待ってなさい……」
サクラの質問を聞いたアイシアは、すぐにジャケットの懐からポケットトロンを取り出すと、フィクサーであるシェイドに連絡を始める。
すぐにシェイドは通話に出るとアイシアと何度か言葉を交わす。そしてアイシアは電話を切るのだった。
「OK、確認が取れたわ、重火器も爆発物も使ってOK。ただし中華街の表通りでは使っては駄目よ」
アイシアの言葉を聞いたムゲン、サクラ、カーミラは、これから行う仕事が小さな戦争だと再認識する。
だが三人の表情には臆した様子はなく、むしろ僅かな笑みを浮かべていた。
ムゲンたち四人が、ヴァンペラー暗殺のために準備をしようとした次の瞬間、四人の耳に何名もの足音が聞こえてくる。
それを聞いたムゲンたち四人は武器を取り、遮蔽物に隠れるのだった。
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