第60話

 カグヤの声を聞いたムゲンとアイシアは、すぐさま手に持っていた銃器を戻すとすぐさまカグヤの元へ走り出す。

 走っていったムゲンたちが見たのは、壁を背にしているカグヤの姿と、二メートル程度の長さのコンバットアックスを持ったトロールが立っていた。


「なんだ……客が居たのか?」


 コンバットアックスを手に持ったトロールの口元には、鋭い牙が伸びており、トロールが吸血鬼であることが分かる。

 吸血鬼トロールはコンバットアックスの刃を、カグヤの首元に向けるとこう叫んだ。


「おい! ここの店主は俺たちレッドデッドの傘下に入ることを断った! だからこうやって見世物にする!」


 そう言うと吸血鬼トロールは、コンバットアックスを振り上げ、カグヤに向けて勢いよく振り下ろそうとした。

 だが次の瞬間、一発の銃声が響きわたると、カグヤに向けて振り下ろされたコンバットアックスが、小さく方向転換した。


「なに!?」


 驚いた吸血鬼トロールはすぐさま銃声がした方に視線を向ける。そこにはヘビーピストルを抜いたムゲンの姿があった。

 武器を抜いたムゲンとアイシアを見た吸血鬼トロールは、ムゲンとアイシアが同族でないことを確認すると、ヘラヘラと笑い出す。


「なんだぁ、脆弱なる者かぁ? 俺は無駄な仕事をしないんだ、さっさと失せろ!」


「は! 言ってくれるわね豚面!」


「豚……豚だとぉ!」


 豚――それはトロールやオークにおける蔑称であり、公の場で言えば差別主義者のあだ名を付けられかねない言葉である。

 だがアイシアは、カグヤから吸血鬼トロールを、こちらへ引きつけるために大声で叫んだのだ。

 怒り狂った吸血鬼トロールはコンバットアックスを振り上げると、ムゲンとアイシアに向かって突進し始める。


「うおおお!」


「予定通りこっちに向いたわね……ムゲン!」


「おう!」


 吸血鬼トロールが近づいてくるのを見たムゲンとアイシアは、即座に手に持ったヘビーピストルを構えると、引き金を引く。

 連続して響き渡る銃声、それと共に放たれた銃弾は吸血鬼トロールに向かって飛んでいく。

 だがヘビーピストルの銃弾は、防具を着た吸血鬼トロールに弾かれてしまうのだった。


「アイシア!」


「分かってる……この!」


 近づいてくる吸血鬼トロールに向けて牽制するために引き金を引くムゲン。だがヘビーピストルに入っているマガジン内の弾丸を撃ち尽くしたムゲンは、アイシアに声をかける。

 即座にアイシアはヘビーピストルの照準を吸血鬼トロールの、無防備な頭に合わせるとトリガーを引く。

 銃声と共にヘビーピストルの銃弾は、一直線に吸血鬼トロールの頭部を穿つのだった。


「ごぁ……」


「浅いか!」


 だが先程の一撃では吸血鬼トロールは絶命せず、足元をふらつかせるだけであった。

 吸血鬼トロールの反応を見たアイシアは、即座に照準を合わせ直しヘビーピストルを連射した。

 連続して響き渡る銃声。その直後に吸血鬼トロールの身体は、バタリと倒れるのだった。


「やった……?」


「さあどうかしら」


 そう言うとアイシアは即座にヘビーピストルをリロードすると、続けて吸血鬼トロールの頭に向けてヘビーピストルを撃つ。

 アイシアが追撃した理由は、吸血鬼トロールがまだ生きているかどうかを確認するためである。

 だが吸血鬼トロールはさらに弾丸を頭に受けても、反応を示すことなく事切れていた。


「それでカグヤ、一体何が合ったの?」


「いやぁこのトロールが家に上納金を払えって言ってきてねぇ。そんな初対面の奴にお金を払うなんてできないだろう? だから断ったらコンバットアックスを振り回してきたんだよ」


 カグヤは先程まで命の危機だったにも関わらず、頭をかきながら笑っていた。だが吸血鬼トロールの遺体を睨みつけると、吸血鬼トロールの頭を軽く蹴るのだった。

 そんなカグヤの様子にアイシアは軽くため息をつきながらも、吸血鬼トロールの遺体から身元を把握しようと、死体を調べ始めた。

 吸血鬼トロールの着ている服をまさぐり、中から財布を取り出したアイシアは、財布から一枚のカードを取り出す。それはバーの名刺であった。


「ねえカグヤ、このバーの名前知ってる?」


「んー? これは……ああ、知ってるとも吸血鬼がバックに付いてるって噂のバーだね」


 吸血鬼と聞いてムゲンとアイシアの表情は一変する。すぐさまムゲンは吸血鬼トロールの口元を確認すると、そこには鋭い牙が伸びていた。

 トロールの鋭い牙を見たムゲンとアイシアは、表情を険しいものに変えてしまう。


「カグヤさん……レッドデッドってギャング知ってますか?」


「ああ勿論、さっき言っていた吸血鬼がヘッドをしている集団だろ?」


 カグヤの返答にムゲンとアイシアは、互いに見合って頷きあう。ヴァンペラーとレッドデッドが、これほど短絡的な組織だとは思わなからだ。


「カグヤ、すぐにこいつの死体は破棄しなさい。それでレッドデッドの連中が来てもコイツは来ていなかったって言い切って」


「ああ……なるほどね。分かったいいよアイシア」


「ごめんなさい……こんな事になるなって思わなかったから……」


「いいさ、私もこうなるとは思わなかったし。さあ、君たちは帰った帰った、ここからは私達の仕事さ。またのお越しを~」


 カグヤは気にしてないといった表情で、ムゲンとアイシアを店から追い出すのだった。

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