第11話
死に体だと思っていた全身義体の男が起き上がったことに、驚いたせいで反応が遅れた緑髪の女性。
全身義体の男は緑髪の女性の腕を掴むと、そのまま勢い良く投げ飛ばす。
そして緑髪の女性を掴んでいない方の手で、ムゲンに向けて右腕のサブマシンガンを構える全身義体の男。
「よくもやってくれたなぁ!」
そう叫んだ全身義体の男は、脳内トリガーを引いてサブマシンガンを斉射する。
大量にばら撒かれるサブマシンガンの銃弾は、ムゲンの身体に命中していく。
「くっ……」
ムゲンは両手を顔の前でクロスさせ、一番脆い部分である口と目を守る。ムゲンの人間離れした体皮はサブマシンガンの弾を貫通することはないが、それでも全身に激痛が走っていく。
「やはり耐えるか、ならばコレならどうだ!」
サブマシンガンの銃弾が貫通しないムゲンを見た全身義体の男はそう言うと、再び左腕に搭載されたロケットランチャーを構える。
(マズイ……!)
先程ロケットランチャーに搭載された弾薬の威力を見ていたムゲンは、全身義体の男にロケットランチャーを発射させまいと走り出す。
人並み外れた身体能力で全身義体の男との間合いを詰めることに成功したムゲンは、全身義体の男の身体に密着するように組み付くと、そのまま顔面にパンチを叩き込んでいく。
一発、二発、三発と連続でパンチを放つムゲンであったが、しかしムゲンが放ったパンチは、全身義体の男の装甲によって防がれてしまう。
「効かんなぁ!」
そう叫んだ全身義体の男は、ムゲンの腹に膝蹴りを喰らわせる。
義体化によって重機並の馬力を手に入れた全身義体の男の一撃、それを腹で受けたムゲンの口からは胃液が飛び出していく。
「うぐっ!?」
胃液を吐き出したことで、ムゲンの口の中に苦味と酸味が広がっていく。
更に全身義体の男に顔面を殴られたことで、吐き気を催すムゲンであったが、それでもロケットランチャーを撃たせないために、全身義体の男に組み付くのであった。
「ちぃ! 離せ!」
「嫌だね」
ムゲンに抱きつかれた全身義体の男は、ムゲンを引き剥がそうとする。だがムゲンは全身義体の男に殴られようとも、組み付いたまま離れなかった。
重機並の怪力を持つ全身義体の男と人並み外れた身体能力を持つムゲン、二人の取っ組み合いはまさに怪獣同士の大激闘の如しであった。
動くたびに店を破壊していく二人の大激戦を前にして、緑髪の女性は何も手出しができない。
「これは……ちょっとマズイわね」
二人の取っ組みあいを見て緑髪の女性がそう呟く、それと同時にムゲンと全身義体の男がいる床にヒビが入っていく。
次の瞬間、ムゲンと全身義体の男がいた床は砕け、二人は落下していく。
「くそ!」
「む!?」
床が砕けたことに驚き、一瞬動きを止めてしまう二人であったが、すぐさま三度目の魔力による神経加速と、神経加速装置による加速を行うムゲンと全身義体の男。
ゆったりと進む時間の中、ムゲンと全身義体の男は落下しながら殴り合う。
ムゲンの拳が全身義体の男の顔面に直撃し、全身義体の男の回し蹴りがムゲンの脇腹に命中する。
ゆっくりと落ちていく床の上で、二人は壮絶な戦いを繰り広げていく。
「クソ、さっさと落ちろよ!」
「貴様こそ!」
空中で繰り広げられる戦いの最中、ムゲンは全身義体の男の右腕を両手で掴むと、そのまま全身義体の男を一本背負いの要領で地面に投げ飛ばす。
ムゲンによって投げられた全身義体の男は、そのまま地面に叩きつけられた。
次の瞬間、二人の神経加速は十秒経った事により強制的に切断される。
「はぁはぁはぁ……」
ムゲンは全身義体の男から距離を取ると、すぐさま呼吸を整える。
もはやムゲンと全身義体の男は互いに満身創痍の状態であり、どちらが先に動けなくなるかの分からないものとなっていた。
「今は貴様の命、預けるぞ」
このままだとジリ貧になると判断したのか、全身義体の男は腰に携帯していたスタングレネードを取り出しピンを抜くと、そのまま地面に叩きつける。
次の瞬間、ムゲンの視界は閃光に包まれ、耳には強烈な音が襲いかかる。
「ぐ……!」
突然の光と音に、ムゲンは思わず目を瞑ってしまう。そしてその隙に全身義体の男はその場から離れ、店の外に出ようとする。
「逃がすか!」
ムゲンは全身義体の男を追いかけようと走り出すが、しかし既に全身義体の男は店の外に逃げ出していた。
「ち……」
すぐに全身義体の男を追って走り出すムゲン。
しかし全身義体の男の逃げ足は速く、ムゲンが店の外に出たときには全身義体の男の姿は何処にもなかった。
「はぁ……逃げられたか……」
逃げた全身義体の男を見失ったことを察したムゲンは、その場でかがみ込むと大きく息を吐いた。
全身義体の男との戦闘により、ムゲンもかなりのダメージを受けており、立っているだけでも辛い状態であったのだ。
「お疲れ、まだ立てる?」
休んでいるムゲンの横に誰かが立つ気配がすると、そこには緑髪の女性が立っていた。
ムゲンの隣に立った緑髪の女性は、懐から何かを取り出すとそれをムゲンに差し出した。
緑髪の女性の女性が差し出したのは、某有名飲料水メーカーが出している炭酸飲料であった。
「それと、後を振り返らずに聞いてね」
「はぁ……」
「怒り心頭の店員が近づいているから逃げるわよ」
「い゛!?」
ムゲンの耳元で小さく囁く緑髪の女性。それを聞いたムゲンの身体は、即座に立ち上がる元気が湧いてくるのだった。
「待て! 店の損害を払え!」
緑髪の女性の言葉通り、激怒した店員たちがムゲン達の方に走ってくる。もし店員たちに捕まれば、警察を呼ばれるだけでは済まないだろう。
「走るわよ!」
「はい!」
即座に走り出すムゲンと緑髪の女性。逃げる二人を追ってくる店員たちであったが、二人の速さに追いつけないでいた。
二人は全速力で街中を走ると、やがて大きな公園へと辿り着く。
「ここまで来れば大丈夫そうね」
「そうですね」
ムゲンと緑髪の女性は公園に着くと同時に立ち止まる。そしてムゲンは肩を大きく揺らしながら、乱れた呼吸を整えていく。
そんなムゲンと対象的に緑髪の女性の呼吸は、まったく乱れていなかった。
「あー楽しかった。久々にこんな楽しい思いをさせてもらったわ」
「いえ、俺のせいでお楽しみを邪魔しちゃってすいません」
「いいわよそんな事。それじゃ、また縁があったら会いましょ」
そう言うと緑髪の女性は笑顔で手を振りながら、ムゲンと別れるのであった。
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