第32話

 チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえると、すぐにムゲンは目を覚ます。隣には汗等の液体まみれアイシアの姿があった。

 アイシアのしっぽがムゲンの足に絡みつくように巻かれており、離れることができない。


「これはどうしようか……」


 アイシアから離れようとするムゲンであったが、アイシアはガッチリと抱きついていて全く動くことができなかった。

 布団から出られそうにない事を悟ったムゲンは、仕方なく二度寝を始めるのだった。


「起きてください。起きてください二人共!」


 眠っていたムゲンの身体がゆすられる。ゆっくりとムゲンが目を開けると、そこにはサクラの顔があった。


「あれ……サクラおはよう……」


「はい、おはようございます。じゃないですよ二人共早く起きてください!」


 ムゲンがコテンと横を見れば、気持ちよさそうに裸で寝ているアイシアの姿。それを見てムゲンは、昨晩アイシアとしたことを思い出す。

 気まずそうなムゲンの反応を見たサクラは、呆れた表情を浮かべると大きなため息をつく。そんなサクラの瞳は赤く充血している。


(もしかして昨日の情事聞かれていた?)


 口に出したらやぶ蛇になると思ったムゲンは、何も言わずに起き上がるのだった。


「ほら、アイシアも早く起きてください、そんな格好じゃ風邪ひきますよ」


「んん……ムゲン、後十回……シて」


「ほら! 寝言はもういいですから、早く起きてください!」


 未だに夢の中で情事にふけっているアイシアを無理やり起こしたサクラは、無理矢理シャワールームへと連れていく。だがその間、アイシアの陰部からは白濁とした液が流れ落ち続けていた。

 一人残されたムゲンは、昨夜の行為を徐々に思い出していく。

 頭に浮かび上がるあられもないアイシアの姿に、ムゲンは思わず頭を抱えてしまう。

 やらかした。それがムゲンの率直な感想であった。


「このチームともお別れかー」


 チームメンバーとの関係を持った以上、このチームに居続けることはできない。そう考えたムゲンは、少ない荷物をまとめて早々に部屋を出ていこうとする。


「どこ行こうとしてるの?」


 部屋の扉に手をかけたムゲンの耳に、アイシアの優しい声が届く。

 ムゲンが振り返るとシャワーを浴びただけなのか、タオルで前を隠した姿のアイシアが、微笑みをムゲンに向けていた。

 だがその瞳はどこか悲しそうに見える。それだけではなくアイシアの瞳にはハイライトが無かった。


「あの……」


「ん」


 弁解しようとするムゲンの口を、アイシアが唇で塞ぐ。それはまるで何も聞きたくないと、アイシアの意思表示のようであった。

 そのままアイシアはムゲンを抱きしめると、タオルを手放して腕を絡めていく。

 アイシアの風呂上がりの火照った肌と石鹸の香りが、ムゲンの鼻腔を刺激していく。


「れろ……ちゅ……」


 ムゲンは離れようとするが、アイシアはそれを許さないのか、そのままムゲンの口内に舌を侵入させていく。

 ムゲンの歯をなぞるように舐め回し、ムゲンの唾液を吸い取ると今度は自分の唾液をムゲンの中に流し込むアイシア。

 長いようで短い時間の接吻を、アイシアは自分から止める。


「あ……」


 思わず懇願するような声を思わず出してしまうムゲン。それを聞いたアイシアは、無意識に出してしまったムゲンの淫魔の尻尾を、優しく指で愛撫していく。

 尻尾を撫で回されたムゲンは、思わず全身の力が抜けてしまう。その隙を突くようにムゲンを押し倒したアイシアは、ムゲンの上に馬乗りになると、妖艶な笑みを見せるのだった。

 そしてタオルでムゲンの両手を素早く拘束したアイシアは、ムゲンのズボンに手をかけようとした。


「何やってるんですか二人共」


 しかし次の瞬間、サクラの冷たく低い声が二人の耳に聞こえるのだった。ゆっくりと声がした方向に視線を向ける二人。

 そこにはゴミを見るような目で、こちらを見つめるサクラの姿があった。サクラの手には風呂掃除に使うブラシが握られており、先程まで掃除をしていたのだろう。


「ねぇ答えてください二人共、私がアイシアが汚したシャワールームを掃除していた間に、ナニをしていたんですか?」


 サクラの言葉に行き詰まるムゲンとアイシア。そんな二人を無視してサクラは、ゆっくりと近づいてくる。


「あ、あの」


「ごめんサクラ」


 二人の弁明を聞いたサクラの表情は、まるで般若のような表情となってしまう。そんなサクラの様子に二人は、顔を引きつらせながら恐怖するのだった。


 **********


 サクラの説教を正座で一時間以上受けることになったムゲンとアイシアは、足を痛そうに擦っていた。


「さて今日の予定ですが、リザルトの周辺を洗いましょう。と言いたいところですが、シェイドが朝から大量の情報を渡してきたので攻めるのを進言します。」


 その後サクラは朝食を作りながら今日の予定を話す。

 リザルト――ムゲンや他のデミヒューマンに対して賞金をかけて喜ぶ、生粋のヒューマン至上主義だ。

 そんなリザルトのいる拠点を、シェイドは一日も経たずに情報を集めきった。もちろんシェイド一人の力だけでは無い、シェイドの知人である情報屋やコントラクターに依頼して情報を集めたのだ。

 サクラの提案に対してアイシアは、何も言わずに軽く頷く。


「そうね、シェイドの奴が用意してくれた情報を無駄にしないためにも、今日攻めるのが良さそうね。サクラ見取り図か何かある?」


「はい、今用意しますね」


 そう言ってサクラはAR上に、建物の地図データを表示すると、そのデータを三人はじっくりと確認していく。

 リザルトのいる建物の周囲には、警備兵が二十四時間体制で警戒しており。さらにリザルトの周辺を警護するように、凄腕の傭兵が二人常に付いている。

 警備データを見たアイシアは、思わずため息をついてしまう。


「よくもまぁこんなに警備を用意できるわね。これリザルト個人が用意したんでしょ?」


「ええ、資産家のリザルトはビックセブンのいずれかにも所属はしていません。この警備は彼個人の物と言えます」


「はぁ、ヒューマン至上主義も考えものね。これだけの資産があればもっと、有意義なことに使えたでしょうに」


 ポツリと呟いたアイシアの言葉に、ムゲンとサクラは思わず苦笑いをしてしまう。


「まあいいわ、私は簡易メンテナンスを受けてくるから、サクラとムゲンは作戦会議お願いね」


 そう言うとアイシアは立ち上がると、身体に巻いていたタオルを外して着替えを始める。

 一瞬視線を奪われかけたムゲンであったが、すぐに視線をAR上の地図に向ける。


「なんですかムゲン君、アイシアの裸に見とれましたか?」


 ニヤついた表情を浮かべたサクラは、アイシアに聞こえないように距離を詰めるとムゲンに問い掛ける。ムゲンは慌てて首を横に振るが、その反応がサクラをより一層楽しませる。

 ムゲンの反応を見たサクラは、クスっと笑うと、ムゲンの耳元まで顔を近づけ小声で囁いた。

 ――私の身体ならいつでも見せてあげますよ。

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