第34話
サクラのいるリビングに戻ったムゲンを出迎えたのは、抱きしめてきたサクラの豊満な胸であった。
眼前に広がる光景に驚くムゲンであったが、サクラはそのままムゲンをぎゅっと抱き寄せる。
「ムゲンく~ん。ぎゅ~」
そう言って抱きしめてくるサクラの行動に驚きながらも、抵抗することができないムゲンはなすがままにされていた。
「おやおや~? 無抵抗ですか? ならこういうこともしちゃいましょうか?」
そのままサクラはムゲンの耳元を軽く舐める。突然の刺激に驚き、身体を震わせてしまったムゲンの反応を見たサクラは、嗜虐的な笑みを浮かべ続けて首筋に舌を這わせ始めた。サクラの紫色のロングヘアがムゲンの鼻にかかり、甘い香りがムゲンの脳髄を刺激する。
「ひゃぁ!」
首に伝わる生暖かい感触に、ムゲンは思わず声を上げてしまう。
そんなムゲンの反応を見たサクラは、続けて軽くムゲンの耳たぶを甘噛みする。
普段感じることのない刺激に、ムゲンは思わず身体をくねらせてしまう。
立て続けにサクラはムゲンの首に口づけをすると、そのまま吸い付きキスマークを残していく。
そして今度はムゲンの胸板に手を当てる。ムゲンの細身ながら筋肉質な体つきを、サクラの細い指先がなぞっていく。
「このままもっと激しいこと、しちゃいましょうか?」
ムゲンの耳元でサクラは蠱惑的に囁くと、そのままムゲンの胸の先端へ指を這わせようとする。
「へぇ、ナニをするってサクラ?」
しかしサクラが愛撫しようとした次の瞬間、アイシアの冷たい声が部屋に響き渡る。
いつの間にか戻っていたアイシアの手には、ヘビーピストルが握られていた。
「ア、アイシア戻っていたんですか!?」
「ええついさっきにね」
サクラの質問にアイシアは額に青筋を立てながら答える。
アイシアの怒りを感じたサクラは、素早くムゲンの身体を離すとシュバッと距離を取る。
その際に「また今度、虐めてあげますよムゲン君❤」とアイシアに聞こえない程度で囁くサクラであった。
「はぁ、サクラの悪戯好きは置いておいて、サクラの作戦を見たわよ。良いじゃないこれで行きましょう」
「おっと了解です。ムゲン君もOKしてくれましたし。このまま現場で夜を待ちますか?」
「そうね、このまま今日の夜に強襲をかけるわよ」
「はい!」
「おー!」
アイシアの号令にムゲンとサクラは元気よく返事をする。そして三人は黒のバンに乗ってリザルトのいる施設に向かうのだった。
**********
夜、ムゲンたちが乗ったバンは、リザルトがいるとの情報がある建物の近くに停まっていた。
建物の周囲には警備兵と思わしき銃器を持ったヒューマンが多数立っており、更には銃器を装備した人型のドローンもヒューマンの援護している。
さらに非人型の飛行ドローンも、警戒する様に周囲を飛び回っていた。
「面倒な警備をしてるわね」
目の前の警備を見たアイシアがそう呟く。
アイシアの言葉通り昨日の悪魔崇拝者の建物と比べても、明らかに外の警備は厳重であった。
「それじゃあ行ってくるわ。サクラハッキングよろしく」
スナイパーライフルの入ったギターケースを背負ったアイシアは、そう言うとバンを降りて狙撃ポイントに向かうのであった。
バンに残されたムゲンとサクラも、リザルトのいる施設を攻め入るための準備を開始する。それはサクラの直接ハッキングによる、ドローンの停止であった。
ムゲンとサクラの二人は目立たないようにアサルトライフルをバンの中に置いていき。ムゲンはサブマシンガンとドスを、サクラはマシンピストルとハッキング用のデバイスを持ってバンを降りる。
二人が降りた場所は施設のすぐ近くにある裏路地であった。周辺には人の気配は無く、人目もつかない場所である。
「さてこの辺でハッキングを始めましょうか。ムゲン君、私の意識が無い身体守ってくださいね。少しはイタズラしても大丈夫ですよ」
ハッキング用のデバイスを起動させたサクラは、自身の意識をマトリクスに転送させる。
すると意識が無くなったサクラの身体は、ムゲンの方へと倒れこむ。
倒れるサクラの身体を受け止めたムゲンは、優しく地面に寝かせて自分は周辺の警戒に当たる。
とはいえ周囲に人の気配は無く、また当たりは静寂に包まれており、人が近づいてくればすぐに分かるのであった。
(さて誰か近づいてきたら分かる筈だから、ハッキングが終わるまでサクラの身体を守らないとな……)
ムゲンは辺りを警戒しながらサクラを守る為に、いつでも動けるように待機する。
誰か一人でも近づいてくると考えていたムゲンの予想に反して、周囲に人は近づいてこずそのまま時間は過ぎていく。
そして数分後、ムゲンはつい倒れているサクラの体に視線を向けてしまう。そこには意識がなく、無防備に横たわるサクラの姿があった。
(少しはイタズラして大丈夫って言ってたけど……)
意識のないサクラの身体を見て、ムゲンは思わずゴクリと唾を飲み込む。
息をするたびにサクラの豊満な胸が上下するその様子は、男であるムゲンの情欲を刺激していく。
無意識に空いた手を、サクラの胸に向かって伸ばしてしまうムゲン。しかしそれを邪魔するように、ムゲンの耳にさい足音が聞える。
ハッとしたムゲンは伸ばした手を引っ込めると、すぐに戦闘モードに切り替えサブマシンガンを構えた。
そしてサクラの身体に背を向けると、足音が聞こえた方向へ忍び足で近づく。
(誰だ……?)
足音の正体を確認するために、ムゲンは物陰からゆっくりと顔を出す。ムゲンの視線の先に居たのは、防弾ベストとアサルトライフルを装備したヒューマンであった。
町中で防弾ベストとアサルトライフルを持った人間がいれば、西暦二千七十年の今でも流石に職務質問される程に怪しい。ただし国家より力を持った企業の警備兵であれば、話は別であるが。
(マズイな……)
ヒューマンの警備兵が進む先には、意識のないサクラの身体がある。恐らくヒューマンの警備兵が進んでいけば、サクラの身体は見つかってしまうだろう。
ハッキングをしていて意識のないサクラの姿を見られては、間違いなく作戦はメチャクチャになってしまう。そう考えたムゲンは、持っているサブマシンガンのサプレッサーを確認すると警備兵に音もなく近づくのだった。
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