第39話 カールトン家
100年前
その日、オリヴィアは実家であるカールトン伯爵家に帰省していた。
父ブラームスから家族会議があるので必ず帰ってくるようにと、手紙が届いたからだ。
ロイドの師匠でもあり、前魔法部隊総長でもあるブラームスは女家系で代々聖女を輩出しているカールトン伯爵家の入婿として、長女で聖女のアンジェリーナと結婚した。
幸いにも2人は愛し合い仲睦まじい夫婦で、結婚して半年後にアンジェリーナは双子を妊娠した。
しかし、カールトン家で男児は不吉の象徴だった。オリヴィアの曾祖母であり大聖女だったフィナリアは、魔神との戦いで呪いを受けてしまいったのだ。
それは、『男児が産まれし時、魔神として世界を滅ぼす』と、言うものだった。なので、みな女児の双子であるようにと祈った。
けれども、男女の双子だった…。オリヴィアは直ぐに生まれたが、アーロンクロイツは難産で生まれると同時にアンジェリーナは死んでしまった。
ブラームスは愛しい妻を殺した呪いの子を殺せと、執事長に命令した。入婿だったブラームスは、葬儀が終わると直ぐにアンジェリーナの妹で次女の聖女カトリーヌと無理矢理に結婚させられて、精神的に狂ってしまった。
それからは、家族を顧みず魔物や魔族の討伐に明け暮れていったブラームスは狂人総長と呼ばれるようになった。
オリヴィアはそんな父を気の毒に思っていたが、伯母であり継母のカトリーヌと、その子供である2人の妹から虐げられているのに気付かない事を恨んでいた。
カトリーヌは自分の子供を伯爵家の跡取りにしたくてオリヴィアを追い出したかったので、日に日に虐待は酷くなっていった。
そんな時に侍女から双子の弟がいて、執事長から殺せと言われたが殺せずに、山小屋に匿っている事を聞いた。それから魔法の勉強に励み転移魔法を覚えると、弟が住む山小屋に入り浸る日々だった。
オリヴィアが16歳になり成人するとロイド・シルベスタの婚約者となり聖女として働きだすと、カールトン家から出て弟のいる山小屋で暮らすようになった。
ブラームスが突然引退してロイドが総長になると、オリヴィアとアーロンクロイツはシルベスタ公爵家に住むようになり(ロイドにより無理矢理)カールトン家とは疎遠になっていった。
そして、オリヴィアがもうすぐ50歳になる頃に父ブラームスから初めての手紙が届いたのだ。
33年振りに実家帰ると、様変わりし過ぎていて初めて来た家のように感じた。
初めて手紙をよこしたと思ったら、家族会議だなんて。こんな悪魔の棲家になんて来たくなかったのに!さっさと帰ってアーロンとロイドに会いたい。
オリヴィアは使用人達の蔑むような嫌な視線を感じながら執事長に父ブラームスの書斎に案内された。そこには、年老いたが体格も威圧感も変わらない父親が月明かりを背に立っていた。
「お久し振りです。お父様」
「久し振りだな、オリヴィアよ」
「引退なされたのに、魔力もオーラも、変わらずですね」
「まあ、そこに座れ」
目を合わせようともせずにソファーを指差す父親に苛立ちながらもソファーに座ったが、立ったまま動かず何も喋らない父親により苛立ちオリヴィアは侍女が入れてくれた甘い匂いのする紅茶を飲んだが、冷めてきっている紅茶に苛立ちよりも呆れてしまった。
「お父様、私は30年以上も前に家を出ております。家族会議と言われても、話す事は無いと思いますが」
「いいや、お前には、役割がある」
「役割って言われても」
「すぐに分かるさ」
「はあ」と、ため息を吐きながら紅茶をグイっと飲み干した。カップを頭に投げ付けてやろうかと思っていたら、急にクラクラと眩暈がしてきて、紅茶に薬を盛られた事に気付いた。
「っな、なに、を……」
ブラームスが何かを言っていたが、意識が朦朧として聞こえずに、気を失って倒れてしまったのだった。
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