第30話 汚い手で、触るな

ガブリエルと呼ばれた司祭は、「お会い出来て嬉しいです」と、オリヴィアの右手を取り唇を落とした。

唇を落とした手の甲を摩りながらオリヴィアを見つめるその眼差しは、まるで恋焦がれた人を見るようで、ロイドは胸を締め付ける嫉妬の感情を剥き出しにした。


「婚約者のいる淑女に、失礼では?」

と、オリヴィアの手からガブリエルの手を払い退かした。

色恋事に疎いオリヴィアは、ロイドが何故怒っているのか分からずに呆けた顔をしていた。


「どうしたロイド?ガブリエルは、挨拶をしただけだぞ?」


「…オリヴィアは、もう少し敏感になった方がいいよ?」


「なっ!私が鈍感って、言いたいの!?」


「「オリヴィア様は、人の好意に、少し鈍感でございます」」


わたくし達、神殿の者は、そんな大聖女様が、尊いのですよ」


「……よく分からないが、ガブリエルが、こんなに大きくなった事を、嬉しく思うわ」


小さい頃に助けた子供が、成長し司祭になった姿を見て、子供の成長を喜ぶ親の様な気持ちになり、嬉しくて笑顔をガブリエルに向けた。


に助けられたこの命、いつでもに捧げましょう」


「ガブリエル、君は何故ここに?」


ガブリエルは大陸全土が唯一神として崇める創造神メテリウスを祀り、聖女を統括するメテリウス教の神殿の最高司祭だ。

余程の天災が無い限り神殿からは出ず、ひたすら神に祈りを捧げている。なのに、災害など起きていない帝国に、しかも、この場所に来ているのがオリヴィアには不思議であり不穏な空気を感じていた。


「じつは先日、神からの神託がありまして、遠路はるばる、神殿から参りました」


「……神からの神託ですって?」


「はい、オリヴィア様。神からの神託に従い、アンナ嬢を迎えに上がりました」


「なんだと!この女を神殿に連れて行くのか!?」


「ロイド様ったら!私と離れたくないのね!」


ロイドは自分を守ろうとしてくれていると、勘違いしたアンナは、ロイドの腕に小ぶりな胸を無理矢理押し付けてしがみついた。


「貴様、俺に触れるな」


「ロイド様ったら、照れちゃって可愛い!」


汚物を見る様な冷たい目で睨んでいるロイドを、私にくっ付かれて照れてると、アンナは自分の都合よく解釈していく。

そして、足をロイドの足に絡ませながら、自分の秘部を誘うように上下に擦り合わせる。


「ねえロイド様、早く2人っきりなりたいな♡」


「腕を切り落とされたくなければ、早く離れろ」


「や〜ん、強がっちゃって!ロイド様も、私を欲しいでしょう?」


アンナがロイドの股間に手を伸ばそうとすると、いきなり突風が吹きアンナの身体が吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。


「私のロイドに、汚い手で、触るな」


キラキラと白い光と風を纏わせ、真っ白な綺麗な長い髪を逆立てなが、魔王も怯えだしそうな鬼の形相をして怒り狂うオリヴィアが、アンナに風魔法をぶつけたのだった。

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