第53話俺の魂も
「原作者でもあり、この世界の
ガブリエルは青い顔をしながら口をパクパクとそながら目を見開いて驚いている。司祭であるガブリエルからしたら人間や動物、魔物や精霊、草や木や花、陶器やガラスに建造物にすら世界の理の中にあるのだから、世界の理から外れるなどあり得ないのだ。
クリスティンの言葉に衝撃を受けて動揺しているガブリエルと違い、冷静に表情を変えずにいるアーロン・クロイツだが、困惑の色を隠しきれてはいないけれども、全ての事が腑に落ちたように「そうか」と、呟いた。
「クリスが…、いや、クムヌが何度も繰り返したり、転生?だかして、千年以上もの時間を生きているのは、理から外れているからか。ふっ、クムヌという名も本来の名ではないのだろうな」
「まあ、そうだが、アーロンにクリスと呼ばれるの気に入っているから、今まで通りに呼んでくれ」
「ああ」
魔石で真っ赤に光り輝く洞の中に入って行くクリスティンの後に続いて2人は中に入って行くと、吐く息が白くなる程の冷気に何百人もの人の血を凝縮したかのような濃い血の匂いに、ガブリエルは全身に鳥肌がたち恐怖で身体が震えだし腹の底から込み上げる吐き気に、思わず膝を付いて嗚咽してしまった。
アーロン・クロイツは洞穴の異様な空気に眉間に深い皺を寄せながらクリスティンを睨んだ。
「ここは……、一体なんなんだ……?」
「ここはね、遥か昔に人体実験が行われた場所なんだ」
「人体……実験……」
「ああ、人間の魂を入れ替える実験さ。その実験で300人もの人間が犠牲になったんだ」
「何故こんな酷い事を……」
「何故、か…。それはね、ヒロインに転生出来なかった女が、ヒーローと結ばれる為に、ヒロインと魂を入れ替えようと考え、魔術の実験を始めたんだ」
「…意味が分からないが、その実験は、成功したのか?」
「成功したとも、失敗したとも言える」
「それは、どういう事だ……?」
「魂を別の身体に入れる事は成功したが、魂を入れ替える事は出来なかったんだ」
「では、誰の身体に入ったんだ?」
洞穴の異様な空気に倒れ込んでいたガブリエルを抱き抱えたクリスティンは、ジャケットのポケットから小さなガラス瓶を取り出し蓋を開けると、ガブリエルの口に中に入っている液体を流し込んだ。
すると、先程までの腹の底から湧き上がる吐き気と、全身が氷で覆われているかのような寒気が一瞬にして消え去っていった。
青白かった顔色も赤みを帯びた普段よりも健康な顔色になり、ガブリエルは今までにない体調の良さに驚きを隠せずに勢いよく立ち上がると、目を見開き右腕を触りながら動かし「まさか」と、呟きながらクリスティンを見つめた。
「魔物に傷付けられて、常に痺れていた右腕が……」
「これは、この世界で俺にしか作れないエリクサーだよ」
「殿下が…、あの、幻のエリクサーを…?」
「クリス。ガブリエルにエリクサーまで飲ませて、俺たちに何をさせようとしている?」
「それはね、俺とアーロンの魂を入れ替えて、アリスに近付いて欲しいんだ。そして、この魔石を胸に埋め込んで欲しい」
クリスティンは剣の様に鋭く尖った結晶石の魔石を握りしめて折ると、掌に乗せてアーロン・クロイツの前に突き出した。それを手にして見つめながらアーロン・クロイツは深くため息を吐いた。
「教会でオリヴィアを助けるのを手伝ってくれた時から、お前はそれが目的だったんだろう?」
「流石はアーロンだ!」
「それで、どうやって俺とお前を入れ替えるんだ?実験してた奴は上手くいかなかったんだろ?」
「ああ、あの女は
「…それで、お前の願いとは?」
「あの女の魂を、消滅させる事だ」
「消滅……?」
「ああ、アリスの中に入り込んでいるあの女の魂を消滅させ、二度と生まれ変われなさせる。それに、君達の大聖女を貶めたのも、あの女でアリスではない。だから、あの女が死に戻りも転生も出来ない様に、魂を消滅させなければならない」
「……クリス。お前の本当の願いはなんだ?」
それまで、眉間に皺を寄せて難しい顔で話していたクリスティンは、今まで見せた事のない安らぎに満ちた微笑みで言った。
「俺の魂も消滅させて、死ぬ事だよ」
大聖女はヒキニートになりたい! いちとご @ripoff
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