第32話 2人のためなら

「ちょっと!なんなのよ!ここから出してよ!」


神殿で神に仕えるシスター達が暮らす館の部屋でアンナは叫んでいた。


地下牢よりも広くてましだが、湯船もシャワーもトイレも付いていない。だが、開く窓があるだけ幽閉されていた館よりはましだ。濃い茶色の膝丈のワンピースを着せられて、自慢だったピンクブロンドの長い髪をは、バッサリとショートカットに切られてしまった。


「私はヒロインなのよ!愛されヒロインなのよ!さっさと、ここから出しなさいよ!」


この女は全く変わらないな、と、ガブリエルは思いながら扉の外にいた。その隣に少し癖のある銀髪に真っ赤なルビーの様な瞳をした白いローブを着た青年が立っていた。


「落ち着けガブ、この女は変わらないさ」


「……そうですね」


「僕はね、ガブには感謝しているよ」


「私に感謝などいりません!」


「いいや、ガブが魔法陣を完成させてくれたから、オリヴィアに会えたんだから」


「私は大聖女オリヴィア様とアーロンクロイツ様のしもべですから」


「今の僕はクリスティンだよ」


この方とオリヴィア様のためなら、何度でも禁忌を犯しましょう。


殺された私を助けてくれたのだから……。


―――――――――――――――――――――


ルミタス帝国とラウル王国に挟まれるように、ウエイザー公国があった。その国の歴史は帝国や諸公国よりも古く、この大陸を作ったメテリウス神が作った国だと言われ、ウエイザー公国を納めるウエイザー大公家は聖力が多い者が生まれるので、神の子孫だと言われていた。


ウエイザー公国には大量の魔石が眠る巨大ダンジョンが2つあり、大陸全土に流通する魔石の8割はウエイザー公国で採れた物だった。それを狙ったラウル王国の国王は、ダンジョンを略奪しウエイザー公国を侵略する為に軍隊を送りこんで、公国軍と戦争を始めていたのだ。


ウエイザー大公爵の三男に生まれたガブリエルは、強い聖力を持っていて、聖力量も大公家の中でも群を抜いていた。

そんなガブリエルを長男のサルバドールは、好ましく思っていなかった。


「父上から愚弟への命だ、戦争で必要だから、お前が1人でダンジョンに行って、大量の魔石を取って来い」


「待って下さい兄上!今、ダンジョンに1人で行くなんて無謀です!」


「案ずるな、戦争をしているのは南のダンジョンだ。お前の行く北のダンジョンは安全だ」


「しかし、1人で行くとなると…」


「今は戦争中だ!お前に兵力をさけるか!」


「…申し訳ございません。私1人で、行ってまいります」


「愚弟が!さっさと行って来い!」


本当は南のダンジョンではなく、北のダンジョンで戦争しているんだ!お前はそこで死ねばいい!


そう思いながら、サルバドールは嫌な笑みを浮かべた。

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