第33話 死ぬのは早い

ダンジョンが見え始めると、至る所に乾いて黒くなった血の跡や、折れた弓矢と剣が散らばっていた。

進むにつれて、野晒しに放置されて獣や烏の餌になって、骨が見えてしまっている敵兵の死体が何体もあった。ガブリエルは土魔法で大穴を掘り死体を埋葬して弔っていった。


ようやくダンジョンの近くまで来ると、敵兵だけでなく公国の兵士の死体まで野晒しに放置されていた。

そして、敵味方関係なく積み重なった死体の山があり、まるで地獄絵図の様な光景に吐き気が込み上げてきた。


埋葬して弔ってやりたがったが、この先何が起こるか分からないのにこれ以上聖力を使ってしまったらと考えてしまい、ダンジョンに向かう事にした。


そんな自分の考えに嫌悪するが、前に進まなければならない状況に絶望感にも似た感情を覚えた。


何故こんな残酷な戦争が起こらなきゃいけないんだ。ラウル王国もウエイザー公国も、こんなに兵士が死んでいるのに、なぜ戦争を止めないのか?


父であるアレキサンドロス公王から戦争がもたらす繁栄と栄光の話を聞いた事を思い出した。その時は兵士や民が死に、親を亡くした孤児や、スラム街の住人になる負傷した兵士がいるのに、勝戦国は戦争で得た利益と領土が広がり繁栄をもたらし、勝利に導いた偉大な王として栄光をもたらす。

しかし、敗戦国になってしまったら、富と領土は奪われ名誉は踏み躙られる、女子供は奴隷となり男達は無惨に惨殺されるのだと。

 

なので、どんな戦いだろうと勝たねばならない。それがウエイザー大公爵の責務だと教えられたのだ。


それを聞いたガブリエルは人々の犠牲の上にある繁栄と栄光なんかに、なんの価値があるのか分からなかったが、今、この光景を目の当たりに、絶対に価値なんて無いと憤りを覚えた。


すると、まだ息のある兵士を見つけすと、助けなければいけないと思い駆け寄ると、治癒魔法のヒールをかけた。鎧を見ると敵兵なのだが見殺しに出来なかったのだ、それは、ガブリエルの甘さだった。


兵士の顔色が良くなり意識がハッキリしていくと、剣を持ちガブリエルに切り掛かったのだ。身体と顔を切られて這いつくばり逃げようとしたが、背中から心臓めがけて剣を刺されたのだった。


僕はここで死ぬのか…、次は、平民でもいいから、平々凡々、幸せに暮らせる人生が良いな……。


意識が遠のいていき息が止まろうとしていた時に、優しい声が聞こえてきた。


「死ぬのは早いぞ坊主!今生き返してあげるよ」


ガブリエルは朦朧とするなか、サラサラと靡く白い髪をして水色に輝く瞳の女神が、笑いかけてくれたのが見えた。


ああ、メテリウス様が迎えに来てくれたのか……。


そう思いながら、ガブリエルの意識は消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る