第10話 落ちぶれた者

その日、カールトン伯爵家では双子が生まれた。

先に生まれたのは大聖女だった曾祖母と同じ真っ白な髪とアクアマリンの瞳を持った女の子だった。

伯爵家の使用人達は大聖女の生まれ変わりだと歓喜した。

 

しかし、女の子が生まれてから激しい陣痛が夫人を襲い、6時間後に男の子が生まれると同時に夫人は亡くなってしまった。

そして、生まれて来た子供を見ると、先程までの歓喜が悲鳴に変わった。

 

「呪われた子供だ!」

「間違いない!先代様が仰っていた、魔神の呪いを受け継いだ予言の子供だ!」


その子供は暗黒の暗闇の様に真っ黒な髪と瞳を持って男の子は魔界の禍々しい魔力を纏っていたのだった。


――――――――――――――――――――――――


「貴様はロイド・シルベスタ魔法部隊総長だな!俺の恋人に暴力を振るったな!!」


弾き飛ばされて泣いているアンナを横抱きにしながらミハイルは叫んだ。


「魔法部隊総長ともあろうものが、か弱いアンナに魔法で攻撃するなど!!」


「落ち着いてミハイル様!私は大丈夫です!優しいロイド様がこんな事するはずありません。一緒にいる女性かも……」


そう言われてオリヴィアは呆気にとられた。いくら魅了魔法でおかしくなっていても結界魔法と攻撃魔法の区別がつかないのは勉強不足の何者でもない。


それも、ミハイルだけではなく他の二人もアンナの言葉でオリヴィアを睨みつけると、威圧スキルまで使ってきた事にため息を溢さずにいられなかった。


「100年引きこもっている間に、帝国はここまで落ちぶれてしまったのか…」


「帝国の魔法師は優秀な者もいるから、落ちぶれたのは、王族だよ」


「不敬だぞ貴様!帝国を侮辱した罪でこの場で処刑してやる!」


ミハイルの言葉にパーティー会場であるホールにいる王侯貴族達がざわつきはじめた。中にはオリヴィアが大聖女だと知っている者がいたので、「大聖女様に処刑だと!」と、騒ぎはじめた。


オリヴィアは笑いを堪えているアーロンクロイツを警戒しながら、目的はなんなのか分からないので手が出せない状況にイライラしてきていた。どうしたものかと考えていると、ルミタス帝国の皇帝ベンジャミン・レイサム・アム・ルミタスがオリヴィアの前にやってきた。


「お久し振りです、大聖女オリヴィア。愚息の非礼、申し訳ない!」


「もしや、あのチビレイか?」


「はい。その呼び名も懐かしいですな」


「そうか、あのチビレイが皇帝になったのか」


「ええ、10年前に父上が亡くなり、私が皇帝に即位しました」


「……そうか、デェイドリッヒは死んだのか」


「オリヴィア様にも文をお出ししたかったが、何処におられるのが分からなかったので、お知らせ出来ませんでした」


「父上!!その不敬な女をご存知なのですか!?」


「不敬はミハイル!お前だ!」


「父上は騙されています!おの女はアンナを攻撃魔法で襲ったのですよ!」


「お前は!結界魔法と攻撃魔法の区別もつかんのか!衛兵よ!この者達を摘み出せ!」


衛兵に捕縛されて「離せ!」と、アンナやミハイル達ぎ騒ぎながらホールから連れ出されようとしていた。


「ウラル王国第三王子クリスティン・ラウル、君は残れ」


「……オリヴィア、なら僕を捕まえてごらん」


「しまっ!!」


アーロンクロイツは捕まえている衛兵を魔力で吹き飛ばすと、黒い煙が吐き出されたように勢いよくブワッ!と、オリヴィア達の方に襲いかかってきた。

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