第11話 おねたり

黒い煙は一瞬でホールにいた者達を包み込んでいった。オリヴィアは結界魔法を展開してラファエルとマリアンヌと皇帝の周りに結界をはった。


ロイドも結界魔法で周りにいた王侯貴族達に結界をはったが、二人だけでは誕生パーティーに来ていた全ての者を守り切れなかった。


煙に飲まれた者は奇声を発してオリヴィアとロイドに襲いかかってくる。脳に作用しているのか、帝国で淑女の鏡だと称されているカリミナ伯爵夫人が、目を見開き血眼な目でオリヴィアを睨みながら、「死ね!」「殺せ!」と、叫びながらオリヴィアの結界を破壊しようと、殴り続けている。


幼少の頃から軽い物しか待っていなかった夫人の両拳は血だらけで、指の肉が剥げた所からはうっすらと白い骨が見えていた。

それでも襲いかかって来るので、(煙は脳になんらかの影響を及ぼしているのか?なら、聖魔法で正常に戻せばいいはず)と、考えながらロイドに指示を出さした。


「ロイド!ここは私がなんとかする!ロイドはアーロンクロイツを追ってくれ!」


「駄目だ!俺ではアイツの変身を見分けられない!」


「それは大丈夫だ!私の前に来てしゃがめ」


ロイドは結界魔法を展開させたまま、オリヴィアの前に来て片膝を着いて見上げた。


「右目を閉じて」


オリヴィアはロイドの肩に両手を置いて顔を近付けると、古代語の呪文を唱えてロイドの右目の瞼に唇を落とした。


「かなり略式にしたが、君の右目と私の右目は繋がっている。ついでに私の見通す目を使える様にもしてあるから、アイツを直ぐに見つけられるはずだ!」


「……オリヴィアの目と俺の目が繋がったって事は、俺が右目で見ているのもがオリヴィアにも見えているのか?」


「ああ!だから、早く城の中から奴を探し出せ!」


「分かったよ、ここは君に任せた」


「ああ!!見つけてボコボコにして魔法塔の地下牢に放り込んでこい!」


「……頑張ったら、ご褒美くれる?」


ロイドはコテンと、首を傾けて子犬のような顔で上目遣いでオリヴィアを見つめると、オリヴィアは頬を赤らめた。


実は、この顔にオリヴィアは弱かった。それを知っているロイドは頼み事やおねだりする時にこの顔をするのだ。


「褒美なんてなんでもあげれから!早く行け!」


「10分で片付けてくる!」


移動魔法でロイドはアーロンクロイツを追いかけた。

今のオリヴィアは右目ではロイドが見ているのが見えて、左目は目の前のホールの光景が見えていて、少し気持ち悪くなっていた。


早く終わらせて帰りたい、ドレスからパジャマに着替えて寝たい。なので一気に終わらせよう。


サンプルの為に空間収納バッグからカラスビンを出して、黒い煙をビンの中に詰めて蓋をしてバッグにしまった。


「詠唱も面倒臭いから、えい!」と、両手を広げてキラキラと白金に光る聖力を溜めて、くるくるとダンスを踊る様に踊ると、ホールが白金の光に包まれていき黒い煙が消え去っていった。

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