第3話 捕まった!
帝国に完治した報告が来た翌朝、帝国軍魔法部隊がアーリン村に調査に来ていた。
黒いローブを羽織った隊員達は、パンと水を一軒ずつ配りながら体調を確認して昨日の出来事の話を聞いていた。
村の広場の中心に金色で縁取りされた黒いローブを羽織り、フードを顔が隠れる程に深々と被り座り込んでいる男に隊員が駆け寄ってきた。
「総長!やはり村民達は病が完治しております。中には病に冒される前に怪我をした傷も治った者もいました」
「そうか、村民の調査が終わったら村の周辺に異常が無いか確認しろ」
「はっ!!」
隊員が調査に戻ると男は地面を手でさすると、懐かしむ様に「懐かしい聖力の残滓だ」と呟き、地面にふーっと優しく息を吹きかけた。
すると、キラキラと光の粒が細い線になって近くの店の中に伸びていった。
ー全く、昔の君だったら、こんなに残滓を残さなかったのにね。ー
男は光の線を辿って店の中に入ると、数人の男達が店の床で寝ていて、カウンターで中年の男がグラスを洗っていた。そして、線は店の中に入った所で消えていた。
「魔法師さんかい?」
「ああ、ここで寝ている者達も病を患った村人か?」
「そうだ、今は二日酔いで寝ているがな!」
「そうか、すまないが、トイレを借りれるか?」
「はは!トイレには先客がいてな!ちょっと待っててくれ」
中年の男はグラスが並んでいる棚に洗って拭いたグラスを並べると、カウンターから出て奥にある扉を叩きながら「オリバー!大丈夫か?」と、声をかけた。
その間に男はカウンターに勝手に入り長細いグラスを手にし、魔法でグラスの中に水を入れて小さな声で詠唱すると、透明な水が黄色に変わっていった。
カウンターから出て奥の扉の前に向かうと、扉が開きグレーのシャツを着た黒髪の青年が真っ白な顔をして出て来た。
「うぅ〜、マスター…、みず〜」
「お水持って来たから飲んで」
「…ありがとう」
青年は男からグラスを受け取るとグビグビと一気に飲み干してしまったのだった。「ぷっはー!」と、声を上げると、グラスを持っている右腕のシャツの袖で口を拭いた。
「懐かしいね!ロイドの回復……」
「ヴィアは二日酔いにはこれが一番効くって言ってたよね」
青年は真っ白な顔から真っ青になった顔を上げてローブ姿の男を見ると「ヤバい!」と、言うと消えて居なくなってしまった。
「もう逃げられないよ」
男も移動魔法で青年を追って消えてしまった。
――――――――――――――――――――――――
「なんでロイドがいるのよー!!」
小屋に戻ったオリヴィアは収納鞄に必要な物を詰め込んでいた。
ーヤバい!ヤバい!ヤバい!ロイドに捕まったら引きこもり生活が出来なくなっちゃう!仕事させられちゃうよー!!
まだ100年しか引きこもってないのに!もう二度と働きたくない!死ぬまでゴロゴロして過ごすって決めたんだ!ー
オリヴィアはこの山奥の小屋に100年間一人で引きこもっていた。そして、エールが飲みたくなった時にアーリン村行っていたのだった。
膨大な聖力を持ち天使に守護されているオリヴィアは、150歳になっても外見は20代前半の姿のまま美しく、ナンパされるのが面倒になり男装して酒場に行っていたのだ。
50歳の時に当時所属していた魔法部隊の隊長だったロイドに「もう働きたくない!」と、除隊を申し出たのだが許可されなかった。代わりに100年の休暇を与えられ、100年経ってもロイドに捕まるまでは休暇扱いで、捕まったら復職する約束をしていた。
だから、引きこもり生活を続けるには捕まる訳にはいかないのだ。
けれども、荷物を詰め終わって小屋から出ようとした時に、誰かに後ろから抱きつかれた。
金色に縁取られたローブにオリヴィアの身体は包み込み、深緑のサラサラと揺れる髪から覗く濃紺の瞳が、オリヴィアを愛しそうに見つめている。
「捕まえたよヴィア!」
「いやー!!離して!!仕事なんてしたくない!!」
「約束だろ、俺に捕まったら仕事するって」
「だからって、ぴったり100年経った瞬間に捕まえなくてもいいでしょ!!」
「それはヴィアがいけないんだよ。あんなに聖力使ってさ、残滓まで残してたら、俺に見つけて欲しいって言ってるのと同じだよ」
「そんな〜」
「それに、俺の魔力を込めた回復薬まで飲んで、逃げれると思った?」
「……ずるい、逃げれないじゃん…」
「さあ、俺の家に行こうか?」
「はあ?家?」
ロイドはオリヴィアを抱いたまま移動魔法で帝都にある自宅に連れて行き、直ぐにアーリン村へと戻ってしまった。自宅にはオリヴィアが逃げ出せない様に聖力封じの結界が施されていて憤慨した。
しかし、メイド達による全身エステにヘッドスパに癒されて、用意された高級食材の料理とデザートを堪能し、色んな酒に酔いしれて、ロイドが仕事から戻って来た時には酔い潰れて寝てしまっていた。
オリヴィアに用意された客室にロイドは静かに入りベッドに腰掛けると、愛おしそうにオリヴィアを見つめながら頬を撫でた。
「もう二度と離さないよ」
そう言うと、オリヴィアの唇に自分の唇を落として、軽いキスをした。
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