第27話 魔法師を怨む奴なんて

ルミタス帝国皇城の敷地の奥には、人々に忘れ去られた場所がある。そこは人や動物を拒むかのように黒い茨が生い茂り、まるで世界から切り離されてるみたいだ。


黒い茨の森を抜けると、二階建ての少し小さな丸い窓しかない古びた館がある。花も草も生えていない荒れ果てた寂しい庭には、噴水があるが水は無く飛ばされてきた枯れ葉と枯れ木で埋まっていて、猫や鼠すらも寄り付かず居るのは烏くらいだ。


そんな場所に、茨の森に魔法で道を作りオリヴィアとロイドは向かっていた。そう、何故ならこの館がアンナが収容されている罪人の貴族を幽閉する館だからだ。


アンナは記憶を全て失っているようだったが、第2王子ラファエルに魅了の魔法を使った疑いがあるので、ここに収容されたのだ。しかし、地下牢に比べれば快適な生活を送れる。牢よりも数倍は広い部屋に温かい食事も食べられてお風呂にも入れる。それに、メイドまでもいるのだから。


空は明るくなり始め、夜から朝への変わりを告げている。一睡もしていないオリヴィアの顔からは疲れが見えるが、アンナの身体の状態を調べないと安心出来なかった。赤い石は消えたが、アーロンクロイツの魔力のがどれだけ残っていて、身体に影響があるのか心配だったのだ。


そんなオリヴィアを支えるように肩を抱きながら、ロイドは寄り添って歩いていた。オリヴィアの事が心配だが、言っても帰りもしないし休みもしないので、一緒にいて守る事にした。


「オリヴィア、ここにはアンナだけじゃく、魅了魔法をかけられていた、ヨシアン公子と近衛騎士団長の子息アルバーノも、もしもの為に収容しているから、2人の様子も確認するかい?」


「ああ、魅了がまだ残っているか確認したいな。それに、アーロンクロイツが2人に何かしたか気になる」


「報告によると、最初は騒いでいたが、今は落ち着いているようだ。俺の部下で副総長の娘のメアリー・ミスフィットとスカーレット・ミスフィットが、メイドして監視している」


「ディルバルト・ミスフィットか?」


「ディルバルトの息子カーライルの双子の娘だ。魔力のオーラが見える者にしか、見分けが付かない程、ソックリなんだ」


「ディルバルトの孫か、奴は生きてるのか?」


「22年前に死んだよ、不治の病でね」


「そうか…」


「気になる事に、アーリン村での病に似ている」


「アーリン村……。あれは、病じゃなく呪いじゃないのか?」


「……やっぱり、気付いていたのか?」


「禍々しくて、不気味な呪詛だぞ!気付くに決まっている!」


「アーリン村の呪詛は、人を殺すものではなかった。それに、ディルバルト以外に病になる者は、いなかった」


「ディルバルトは誰かに、呪殺されるほど、怨まれていたのか?」


「……俺達、魔法師を怨む奴なんて、数えきれないだろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る