第43話 時よ、止まれ

魔界には3人の大悪魔がいる。時間を司るヒリス大公爵、憤怒を司るベルトロール大伯爵そして、今オリヴィア達がいる館の主人である叡智を司るアトバシュ総裁だ。


アッシュグリーンの髪を前髪をフワッとさせたソフトリーゼントにして、切れ長の二重の目から輝く蠱惑的こわくてきな銀色の瞳が褐色の肌を引き立てている。彫りが深いが中性的な顔付きをしていて、漆黒色の軍服を着ていても長身で筋肉質な身体付きなのが分かる。


普通の人間は一目見ただけでその美しい姿に惑わされてしまう。オリヴィアやロイドのように力の強い者には平気だが、魔力が少ないアンナは惑わされてしまったようで、うわ言の様にアトバシュの名前を呼んでいる。

 

しかし、部屋に入って来たオリヴィアを見るなり、憎悪に満ちた目で睨んできた。アンナの精神はアトバシュに惑わされていたのに、オリヴィアへの憎悪の方が強くて正気に戻ったのだ。


「アンタが生きてるせいで、ヒロインの私がこんな目にあってるのよ!さっさと死んでさ、物語を私に返してくれないかな!」


「物語って言われてもね、私には何の事だか分からないんだよ?」


「アンタは知らなくても良いの!どうせ死ぬんだからさ!」


「なぜ私が死ななきゃならないのだ?」


「はあ?そんなの、運命だからに決まってるじゃない!アンタはモブ以下の存在なの!」


「……運命だと?」


「そうよ!頑張って逆ハー目指しても、アンタが生きてたらロイド様ルートは開かないじゃない!だから、さっさと死んでくれないかな?」


「なら、簡単じゃないか」


アトバシュがそう呟くとロイドの前に一瞬で現れた。


「コイツを、オリヴィアは死ななくても良いじゃないか」


「っ!なに、を……」


腹部に違和感を感じたロイドは下に目線を落とすと、アトバシュの腕が腹部に突き刺さっていた。

その腕を一気に引き抜かれて腹部から血が噴き出し、倒れそうになったロイドをギリギリの所で支えて、直ぐ様ハイヒールをかけて傷を治療したが、魔力が乱れていて身体の中で暴れ回っている気配をオリヴィアは感じ取った。

 

「アトバシュ。貴様…、ロイドに何をした?」


「俺の血と魔力を身体の中に入れただけだよ」


「なんだと!そんな事をしたら、ロイドの精神が!」


「ああ、だろうね。そして、傀儡ロイド・シルベスタの誕生だ!」


「っつ!させるか!」


オリヴィアは力の限り解呪・状態異常解除のディスエンチャントをロイドにかけ続けて、背後から近寄る気配に気付かなかった。


「時よ、止まれ」その声と共にオリヴィアの時間だけが止まったかのように動かなくなってしまった。


「ヒリスか」


「人形の準備は出来たか?」


「ああ、これにを入れたら、完成だ」


「では、アーロンの所に行くか」


ヒリスと呼ばれた黒い山羊の頭をして血の様に赤黒い燕尾服を着た魔物は、時間を止めたオリヴィアを大事に抱き上げるて館の奥へと歩いて行った。

 

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