第35話 次に会う時は

錬金術師のスキルを持つアンナは魔法塔の錬金術師として働いていた。皇太子の婚約者だから妃教育を受けなくてはいけないのだが、「ポーションを必要としてる人がいるの!」「妃教育より、人々を救う方が大事だわ!」と、言って、授業を受けなかった。


しかもここ2週間、ロイド・シルベスタの元にポーションを毎日足繁く届けに行っているのだ。

同僚達に婚約者がいるのに、他の男に会いにいくなどあり得ない事だと伝えても、聞く耳を持ち合わせていない。


「ロイド様!今日の分のポーションを、持って来ました!」


そして、今日も魔法師隊の練習場に篭にいっぱいに入ったマフィンとポーションを持って現れた。隊員達は「また来た」と、怪訝な顔をしてアンナを見ている。

ロイドと剣の稽古をしていた副総長のアーロンクロイツは、今にも斬りかかりそうな程に殺気を纏っていた。


「……アンナ嬢、私にポーションは必要無いと言ったはずだが?」


「何を言ってるんですか!ロイド様を癒すのが私の勤めです!」


「はあ、何度言えば分かってもらえるのか…。私は忙しいから、アーロンに渡してくれ」


「嫌です!彼はロイド様を苦しめた魔女の弟でしょ!信用出来ません!」


「オリヴィアは魔女ではない」


「ロイド様は魔女の魔法にかかってるんです!私のポーションで、元に戻してあげます!」


「姉様を魔女だと噂を流しているのは、貴様だろ?」


オリヴィアの事を魔女呼ばわりするのが許せなくて、ロイドは剣をアンナに向けた。「こわ〜い!」と、言ってロイドに抱きつこうとしたが、避けられてしまいバランスを崩して転んでサンドイッチとポーションが篭から投げ出されてしまった。


「いったーい!!」


短いスカートから露わになって血が滲んでいる膝を見せるように立てて座り、涙をみせるアンナをロイドは蔑むような目をして見下ろした。


「怪我したなら、ポーションはアンナ嬢が使った方がいいな」


「このポーションはロイド様にしか効かないんです!ロイド様の心の傷を癒す為のポーションなんだから!」


「……心の傷だと?」


「ええ!魔女オリヴィアに騙されて、傷付いたロイド様の心は、私にしか癒せないの!」


「貴様か、帝都で広まっている、大聖女オリヴィア様を貶めているのは」


アーロンクロイツを訪ねて練習場にやって来たガブリエルは、敬愛するオリヴィアを魔女呼ばわりするアンナの言葉を聞いて、怒りで腑が煮えくりかえりそうになった。


「ガブリエル!」


「アーロンクロイツ様、逆行魔法の魔法陣が完成しました」


ガブリエルは手に持っている魔法陣の書かれた紙を、アーロンクロイツに広げて見せた。


「ああ、やっと、完成したのか」


「はい!これで、またオリヴィア様に会えます!」


「オリヴィアに、会えるだと?どう言う事だアーロン」


「ロイドは知らなくていい。ガブ、直ぐに使えるのか?」


「はい!私の聖力を全て注ぎ込めれば展開します!」


「そうか!では今すぐ展開させろ!」


「アーロンクロイツ様、その前に、オリヴィア様を貶めるあの者に、制裁を加えてもよろしいでしょうか?」


「俺がやる、ガブは魔法陣を展開しておけ」


「御意」


ロイドが剣をアンナの首に押し当てているのを横目に、ガブリエルは隊員が集まっている場所から離れて魔法陣に持っている聖力を全て注ぎ込み始めた。


「ろ、ロイド様、た、助けて!」


「アーロン、お前は何をしようとしているんだ?」


「姉様を侮辱したお前は楽には殺さん。そうだな、火炙りにしてやる」


そう言うと、アンナから離れると火魔法でアンナの周りに炎の壁を作り閉じ込めた。炎に襲われて悲鳴を上げながらロイドに助けを求めるが、炎の高い壁に遮られて声は届かなかった。そして、ドン!っと大きな音を立てて炎の壁が崩れ落ちていった。


「アーロン!」と、叫ぶロイドを無視して移動魔法でガブリエルの元に移動した。


「魔法陣を展開します」


ガブリエルが魔法陣を展開すると2人の周りを囲うように、金色の光が天に向かって伸びていく。

ロイドが移動魔法で2人の元に来たが、ガブリエルが魔法陣に加えていた結界に阻まれ近付けない。


「待てアーロン!」


「ロイド……、次に会う時は、敵になるだろうな」


そして、2人は光に包まれて消えていった。



「アーロン!起きて!」


姉様の声が聞こえる。


「アーロン!早く起きてよ!」


「んん、姉様……?」


目を覚ますと、ベッドで寝ているアーロンクロイツを笑顔で覗き込んでいる、子供の姿をしたオリヴィアがいた。


「まったく、アーロンは寝坊助さんね!」

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