第15話 婚約者じゃない!

黒い煙が消え去りホールにはダイヤモンドダストように小さな光がキラキラと輝いていた。


煙によって変貌し怪我をしたカリミナ伯爵夫人は、小さな光に包まれて怪我が綺麗に消えていった。

他の怪我をした人達も小さな光に包まれ怪我が消えていった。


その光景を目にした人達が「奇跡だ」「女神が現れた」と、騒ぎ始めた。


「大聖女大聖女オリヴィア・カールトン様、お久し振りでございます」


前から綺麗な長い金髪をサラサラと靡かせながら、真っ白な聖女の正装をした長身の美しい中年の女性が、オレンジ色の瞳を涙に潤ませながら歩いて来た。


「シルフィ?シルフィ・カーラントか?」


「はい、シルフィ・カーラントでございます。師匠は相変わらずの桁違いですね!」


「全くこの弟子は!師匠を労うって事を知らないのか?」


「ははは、何を仰りますか。労う程働いてはないじゃないですか」


「なにをー!こちとら100年引き篭もりだったんだぞ!それをロイドが!」


「やはり総長様でしたか、師匠を連れ出せて働かせるなんて、彼しか出来ませんからね」


「全く迷惑だ!まだまだ引き篭もりたかったのに!働きたくなかったのに!」


「オリヴィア様にはもっと働いてもらいたいと、帝国からもお願い出来ますかな?」


煙を吸い込み倒れ込んでいたルミタス帝国の皇帝が、立ち上がり笑いながら言った。


「おっ!チビレイ!大丈夫か?」


「ベンジャミン皇帝陛下、ご無事でしたか?」


「ああ、それより、皇后は無事か?」


「はい、わたくしがお守り致しました」


「そうか、ありがとう」


「いいえ、当然の事ですわ」


「よくやったそシルフィ!リリーの綺麗な顔に傷を付けてはならん!」


「ところで師匠、ロイド様と婚約解消されてなかった事、嬉しく思います」


「オリヴィア様とシルベスタとの婚約を継続されていて嬉しく思う。いつ結婚するのですかな?」


「ちがう!婚約者じゃない!」


「でも、今日は師匠と総長様は婚約者として、ご参加されたのですよね?」


「それに、婚約解消届は提出されてないですぞ!100年も待ってるシルベスタの愛を受け入れたのですよね?だから、その様なドレスで婚約者として、参加されたのでは?」


「そうですわ!わたくし、師匠のドレス姿を初めて見ました!流石は総長様ですわ!」


「ちっ!ちがーう!!私はもう婚約者なんかじゃなーい!!」


消えていく小さな光の変わりに、オリヴィアの悲鳴にも似た叫び声がホールに響き渡ったのだった。

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