第39話



そして、蓮弥の通院が始まった。

菜子は蓮弥について行き、待合室で待機している。

当時の担当医は既に退職していたが、資料や情報を引き継いだ矢上やがみという医師が担当になった。



「君が来るのをずっと待っていたんだよ。前の担当医の芦澤あしざわ先生は、君のことをずっと心配していてね。私も気にかけていたんだ。」



「そう…なんですか…すみません。」



「いや、謝ることはないよ。当時はまだ、中学生だったそうだね。色々大変だったろう。…やっぱり、まだ聞こえないかい?」



「…はい。」



「…そうか。でも今ここへ来たってことは、治したいって思えたきっかけがあったんだね。」



「…守りたい人がいるんです。」



「…ふふ、そうか。医療は日々進歩しているからね。今回は何か良い方法が見つかるかもしれない。一緒に頑張ろう。」



「よろしくお願いします。」



それから様々な検査が行われた。夜に矢上が家を訪問し、聞こえなくなってから診察することもあった。




数日後。検査の結果、やはり身体の異常は見つからない。前回同様、母親のストレスが1番の理由なのではないかという結論に至った。そのため、これから心理的なものを含め様々な治療法を試すことになった。



2人は病院から蓮弥の家に帰宅し、ローソファーに並んで座る。



「…治るかな、俺。」



蓮弥が不安そうに呟く。少し疲れた顔をしている。



「大丈夫です。治るって信じましょう!それにどんな結果でも、私はずっと一緒ですから!」



菜子は蓮弥の手を両手で握りながら言う。



「…ありがと。」



蓮弥はわずかに微笑んだ。



「……っ。」



菜子は蓮弥の手を強く握り、蓮弥の頬へキスをした。



「!」



蓮弥は驚いて菜子を見る。顔を真っ赤にして下を向いている。



「…げ、元気…出た…?」



恐る恐る聞く上目遣いの菜子に、蓮弥はぐっと心を掴まれた。



「…出た。めっちゃ出た。…でも、こっちのがもっと出る。」



蓮弥が自分の唇を指差す。



「!……」



菜子は鼓動を速め、全身の熱を高める。ふわふわとしながら蓮弥に顔を近付け、そっと唇に触れた。



菜子はすぐに離れようとしたが、蓮弥に頭の後ろを片手で優しく包まれて阻止された。



「…!」



蓮弥は舌で菜子の閉じられた唇の間をなぞる。そして、音を鳴らして吸うようにキスをする。菜子は唇が食べられているような感覚に陥り、ふにゃっと力が抜ける。



「…開けて。」



蓮弥は親指と人差し指で菜子の顎を摘んで、親指で少し下に引っ張る。菜子の口がわずかに開いた。そこから口内へ蓮弥の舌が侵入し、中を優しくかき乱す。

時折漏れる菜子の吐息や声が、蓮弥の心をゾクリとさせ、制御がきかなくなる。

そのまま蓮弥は菜子を押し倒し、さらに深く強いキスをした。菜子は既に身体も心も溶けそうになっていた。




1時間後、蓮弥はベッドの上で反省していた。



「ごめん…また抑えきれなかった…」



菜子は布団から少しだけ顔を出し、蓮弥を見つめる。



「…い、いいですよ…?」



その言葉を聞いて、蓮弥は菜子を見ようとすると、菜子はバッと布団に潜った。



「…ね、なんで隠れるの。」



蓮弥はわずかに顔を赤らめて布団に潜り込む。



「は、恥ずかしいので…!」



菜子は布団をぎゅっと掴んでガードするが、あっけなく蓮弥に剥がされた。蓮弥は菜子に覆い被さり、じっと見つめる。菜子は顔が真っ赤で少し汗をかいている。



「…俺、たまらなく菜子が好きみたい。」



「!」



菜子の心臓はドクンッと跳ね上がる。



「どんな菜子も愛おしい。菜子の望みはなんでも叶えてあげたくなる。」



「れ、蓮君…っ」



菜子は自分の心が甘く溶けて無くなってしまうのではないかと不安になる。



「…こんな俺になったのは、菜子のせいだよ。責任とってね。離れないで。」



蓮弥は菜子に顔を埋める。



「うん、離れないです。」



菜子は蓮弥を抱きしめた。

蓮弥も強く彼女を抱きしめる。



「…じゃあ…いつ治るかわからないし…夜桜、見に行こっか。」



「…!はいっ!」



菜子は嬉しそうに返事をした。

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