第29話
そして、菜子の家に寄った後、2人で蓮弥の家に向かう。
もうすぐ8時になる頃に到着した。
蓮弥は急いでシャワーを浴びたが、戻ってきた時には既に聞こえなくなっていた。
菜子もシャワーを浴びて、お互いの髪を乾かし、寝る支度をする。
そして、2人揃って布団に潜り込んだ。
菜子はすぐにメッセージを打つ。
––お絵描きクイズ、しませんか?
菜子はスマホのアプリを蓮弥に見せた。
与えられたお題の絵を指で描き、相手に答えさせるゲームだ。
––俺、絵心皆無だけど…
––私もです!皆無の方が絶対面白いですよ!
早速アプリをインストールし、起動させる。
まずは、菜子の番。
「…何これ…」
蓮弥は思わず声を出す。
本気で悩んでいる。
「えっ、めっちゃくちゃわかりやすくない…?」
菜子はぶつぶつ言いながら、ヒントをつけ足す。しかし付け足すほど、よくわからないものになっていく。
––ブタ?
––イタチだってば!!!
「ぷはっ!うっそ…」
蓮弥は吹き出した。
菜子は頬を膨らませる。
次に蓮弥の番。
特徴は捉えているが、得体の知れないものが画面に描かれる。
「何これ…こわ…」
菜子は一種の恐怖を覚える。
––キリン
「当たり。」
––こわすぎるよ、このキリン…
––え、そうかな?でもわかったじゃん。
––首長いからね。それだけ。
菜子はじわじわと笑いが込み上げてきた。
そして記念にスクリーンショットでキリンを保存した。
それから、レベルの低い絵クイズが繰り広げられ、気付けば涙を流しながら笑い合っていた。
––楽しかったですね!
––うん、またやろう。
––ぜひ!
––じゃあ、そろそろ寝よっか。
––はい!
2人はスマホを置いた。
そして蓮弥は菜子を抱き寄せる。
菜子も蓮弥の背中に腕を回す。
「菜子。」
「はい。」
菜子は蓮弥の背中をトンと叩く。
「好き。」
「!」
菜子は体温を高めながら、ぎゅっと蓮弥を抱きしめる。
––声が聞こえなくても、菜子の気持ちがちゃんと伝わる。それがとてつもなく嬉しい。
蓮弥はそう思いながら、強く抱きしめ返した。
しばらくすると、菜子の反応がなくなる。
寝息は聞こえないが、眠っているようだ。
––俺って、重いのかな。
蓮弥は菜子の寝顔を見つめながら思う。
––彼女のはずなのに、全然捕まえた気持ちになれない。俺のものだなんて、かっこいいこと言える性格だったら違ったのかな。
「…菜子…どうしたら、俺のものになる…?」
蓮弥はか細く囁く。
そして、眠っている菜子の額にキスをした。
しかしそれだけでは物足りず、ゆっくり菜子の顔を上げて、唇に触れる。
「……ん…」
菜子は少し意識が戻り声を出すが、蓮弥には聞こえていない。
蓮弥は何度も菜子にキスをした。
短く触れたり、長く触れたり、ついばんだりと、菜子の小さな唇を味わい、形を自身に刻むようにキスをする。
「……れ、蓮君…!」
顔を真っ赤にした菜子と目が合う。
「…あ、ごめん。」
蓮弥は声に出して謝る。
菜子は蒸発しそうなくらい、赤く熱くなっている。
蓮弥はそんな菜子を見て、もう歯止めがきかない。
「…ごめん。」
蓮弥はそう言って、さらに激しくキスをした。やがて菜子に覆いかぶさり、舌を絡ませ甘い音を奏でる。
「…ねぇ、菜子。いい…?」
余裕のない蓮弥が息を荒くしながら聞く。
菜子は目を逸らしながら頷いた。
音の聞こえない蓮弥は、いつもより菜子に顔を近付けて表情や息遣いを感じとり、自身の背中に触れた彼女の手指や腕の力の変化に敏感になった。
翌朝。
2人は一緒に出勤し、時折くすぐったい気持ちになる。
「…昨日はごめん。眠いよね。」
しばらく歩いて、蓮弥が言った。
「い、いえ!全然!元気いっぱいです!私も嬉しかったので!全然!……あれ…私恥ずかしいこと言ってる…?」
「…ふふ、ありがと。」
会社に着き、タイムカードを押す。
「おはよーっす。…あれ、2人一緒?」
後ろから須貝がやってきた。
「お、おはようございます!さっきそこで、ちょうど、ね!」
「…うん。」
「ふぅん。…昨日といい、もしかして有賀、菜子ちゃんのこと好きなんじゃねぇの?」
須貝はニヤニヤしながら蓮弥をつつく。
「…さぁ、どうだろね。」
蓮弥は爽やかな微笑みで現場へ向かった。
「…やば…俺が惚れそう…」
「…同感です…」
菜子と須貝は蓮弥の微笑みに心を撃ち抜かれていた。
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