第30話



暑さは過ぎ去り、肌寒い秋。

冬が間近に迫っている。

菜子と蓮弥は、菜子の家に向かっていた。



「日が短くなりましたねぇ。」



現在午後6時。

既に辺りは暗い。

沈んだ太陽が後ろに寒気を連れて、街に置き去りにしている。



「うん、しかも寒いね。冬が来るって感じ。」



「今年は寒くなるのが早い気がします。」



菜子は手をさすりながら言う。

蓮弥はその様子を見て、菜子の手を握り自身の上着のポケットに突っ込んだ。



「菜子、手冷たい。」



「れ、蓮君はあったかいです…」



「なら良かった。一生繋いどく?」



「え゛っ!?」



菜子はボッと赤面する。



「冗談。」



蓮弥はいたずらな笑顔を見せる。

菜子の手は一気に温かくなった。




そして、菜子の家に着き、しばらくゆっくりする。



「…あ。」



菜子の声が洗面所から聞こえる。



「どうしたの?」



「あ…歯磨き粉切らしてたの忘れてて…」



「そっか、じゃあ買いに行く?一緒に行くよ。」



「でも…」



もうすぐ8時になる。



「大丈夫だよ。買い物だけだし。」



「じゃあ…いいですか?」



「もちろん。」



2人は外に出た。

近くの薬局を出た頃には、8時をまわっていた。



2人は無言で歩く。

しかしそこに気まずさは無い。

菜子は車道側で、蓮弥の手を引いて歩いている。



しばらく歩くと、男女が数メートル先の歩道の端で肩を寄せ合っているのが見えた。

横を通り過ぎた時、その2人が下品な話をしているのが聞こえた。



––これは蓮君に聞こえなくて良かったな…



菜子はひとり俯き顔を赤らめながら思った。



「…菜子?」



蓮弥が菜子の異変に気付く。



「えっ、ううん!なんでも!」



菜子は笑顔で首と手を振る。

そして、少し速度を上げて歩き出した。







その時。





「キャーーーッ!!!泥棒!!」



女性の叫び声が後方から聞こえ、菜子は振り返る。

叫んだのは、先程すれ違った女性のようだ。

女性のバッグを持った男がこちらに向かって走ってくる。



「!」



菜子は咄嗟に蓮弥を安全な位置へ思い切り押す。



「わっ…!」



蓮弥はその拍子に尻もちをついた。

何が起こったのかわからないでいる。



男は物凄いスピードで菜子に迫る。



「どけっ!!!!」



男が菜子を思い切り押しのけた。



「やっ…!」



小柄な菜子は、車道まで弾き飛ばされた。











––パァーーーッ!!!






菜子に車が迫る。



そして









––ドンッ。




「キャーーーッ!!!!」

「ワァァッ!!!」






悲鳴が彼方此方から上がった。


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