番外編『蓮弥の〇〇大作戦』 1話
深鈴との別れからしばらく経った、とある休日。
「うぅ…寒っ。中で待ってりゃ良かった。」
洸は鋭い北風を堪えながら言う。洸と駿太は外で菜子と絢香を待っている。今日は4人でランチをしており、会計を済ませたところである。菜子と絢香は現在化粧室に行っている。
「そうだね。……あれ?ねぇ、洸、あれって…」
駿太が道を挟んで向かいにいる人物を指差した。
「…菜子の彼氏か?」
蓮弥は、店の前で立ち止まっている。
「…何してるのかな。」
駿太は不思議そうに蓮弥を見つめる。
「…おい、待て。あの人が見てる店って…」
洸は焦った。
蓮弥が見ているのは、ジュエリーショップであった。
「…あれ、これって、なっちゃんに見られたらマズい系?」
「かもしれん。緊急事態だ。なんとかして菜子に…」
「お待たせー。」
「ぅわっ!?」
駿太と洸は、驚きながら振り向く。
後ろには、絢香がいた。
「え、ちょ…何。」
「な、菜子は!?」
「トイレひとつしかなかったから、私が先に使って、今入ったとこ。」
「ならちょうど良かった。アヤちゃん、緊急事態だよ。あれ見て。」
絢香は駿太が指差した先を見ると、瞬時に状況を把握した。
「あー、おっけ。わかった。こりゃ緊急事態ね。アンタ達、とりあえず壁になりなさい。」
2人は蓮弥が見えないよう、並んで仁王立ちした。
「お待たせ!…え、何してるの?」
目の前でドンと立ちはだかる不自然な男2人に、菜子は動揺する。
「菜子、次あっち行こ。あっち。」
絢香は菜子を蓮弥のいる位置とは反対方向へぐいぐいと押す。
「あっち?あっちって?行きたいとこあるの?」
「あるあるー。」
「なんで棒読み!?」
無理矢理な絢香の後ろを、仁王立ちの駿太と洸がついていく。
周囲の人間は思わず2度見した。
駿太はチラリと後ろを振り返り、蓮弥を見た。
「…あれ…?」
蓮弥はショップには入らず、歩いて行ってしまった。
それから4人は、ただ街をぐるぐると巡る。
「ねぇアヤ、行きたいとこって?」
「あー、えっとねぇ、ファミレス?」
「え?さっき食べたばっかじゃん。」
「の、喉が渇いた。」
「喉?あ、じゃあこの近くにレモネード専門店ができたって、会社の人に教えてもらったんだ!そこ行こうよ!」
「あ、え、あ、うん。行こう!」
「賛成ー。」
駿太と洸も手を挙げた。
「なっちゃん、全然疑わないね。」
駿太がコソッと洸に言う。
「うん。単純バカだ。」
「それは言い過ぎ!」
「2人とも、何こそこそ話してるの?」
菜子が不思議そうに聞く。
「ん?なんでもー。」
2人は謎に再び挙手をした。
そして夕方、菜子は蓮弥と外で会う約束をしていたためひと足先に抜けて、3人になった。
「有賀さん、ちゃんと選べたかなぁ。」
絢香はレモネードを飲みながら言う。
「俺、チラッと見たんだけど…お店にも入らずに行っちゃったんだ。」
「えっ、そうなの?」
「ただ見てただけで、まだ先の話なんじゃねぇの?」
「うん…そうかもしれないけど…」
駿太はしばらく考え込んだ。
「…おい、駿太。もしかして…」
「…俺、有賀さんに連絡してみる!」
「は?」
絢香と洸は同時に声を上げる。
「もしかしたら、1人で困ってるかもしれないし!」
駿太は早速席を外して蓮弥に電話をかけた。
「…出たー、お人好しの駿ちゃん…」
「こうなったらもう何言っても聞かないな…」
2人は呆れながら、レモネードを飲み干した。
しばらくして、駿太が戻ってきた。
「有賀さん、なんだって?」
「困ってることがあるなら俺らで良ければ話聞くよって言ったら、やっぱり相談したいことがあるって!」
「へぇー。」
絢香は呑気な相槌を打つ。
「は?待て。俺らって…?」
洸は嫌な予感を察知しながら、恐る恐る聞く。
「もちろん、洸とアヤちゃんだよ!」
「…へ、へぇー…」
絢香は動揺しながら相槌を打つ。
「お前…」
「だって、大事な友達の、大事なイベントだよ!応援しなきゃ!」
「だからこそ、下手に首突っ込んで失敗でもしたら、ごめんじゃ済まねぇだろ。」
「大丈夫だよ!絶対成功する!」
「…洸。こうなったら、何がなんでも成功させようじゃない。駿太が本気なんだしさ。」
「…はぁ。仕方ねぇな。駿太が暴走しない様に、保護者役でもするかな。」
「わあい!ありがとう!」
菜子と駿太に甘い、絢香と洸であった。
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