第4話



翌日。



「安藤さんっ!」



休憩時間、菜子は喫煙所にいる安藤に勢いよく詰め寄る。



「なななななに!?どしたの!?」



安藤は菜子の勢いに驚き、焦る。



「あのっ…現場にいる、黒髪のもさっとした天パの方、何て言う方ですか!?」



「もさっと天パ…あぁ、有賀君ね。」



「有賀さん…?」



「うん。名前はー…何だっけな。帰りにタイムカード見てごらん。有賀って人は1人しかいないから。あの子がどうしたの?」



「じ、実は…」



菜子は安藤に、彼との出会いや恋心を打ち明ける。



「え!?うっそ、それって一目惚れってこと?あの見た目に?」



「そ、そうなります、かね…?」



「ほぉー…榛原さん、面白いね!…いやーでも、あの子オトすのは相当大変だと思うよ。」



「え…どういうことですか?」



「いやぁあの子ね、家が大変だとかで、会社の飲み会やイベントに一回も参加したことないし、必ず定時で帰るのよ。まぁ真面目で一生懸命頑張ってるから、とやかく言う人は少ないけどね。だから、アタックできるタイミングは日中。仕事中しか会えないってこと。」



「えぇぇ…そ、そうなんですか…。」



「ふふ、榛原さんいつも控えめだから、ちょっとびっくり。私、応援したくなっちゃった!何かあったら相談して。」



安藤は吸っていたタバコの火を消しながら、菜子に微笑む。



「あ、ありがとうございます!」



菜子は嬉しそうに頭を下げた。





そして、帰りがけにタイムカードを確認する。



有賀ありが蓮弥れんやさん…」



彼の名前がわかった。

菜子はしっかりと覚えて、会社を出る。

そして今日は夕飯を簡単に済ませようと、コンビニへ寄ることにした。



自宅から最寄りのコンビニに到着した菜子は、自動ドアから出てきた人物に驚く。



「有賀さん…!?」



菜子は思わず口に出してしまった。



「…?」



蓮弥は不審な目でチラリと菜子を見る。



「あっ…す、すいません!あの、私、同じ会社で1ヶ月前から働いてる、榛原っていいます…!」



菜子は慌てて自己紹介をする。



「…あぁ、どうも。」



「あの、あの、よ、よろしくお願いします!」



「こちらこそ。まぁでも俺の仕事は事務さんとのやり取りないから、特に関わることはないと思うけど。」



「そ、そうなんですか…」



「うん。じゃ、お疲れ様でした。」



「あっ…お疲れ様…でした…。」



蓮弥はニコリともせずに行ってしまった。



––無表情な人だとは思ってたけど…ほんとにずっと無表情…。でも…やっぱり綺麗な人だな…。



菜子はまた、彼の後ろ姿をただただ見つめていた。

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