第8話



「んで?どした?」



絢香はストローでアイスティーを飲みながら、菜子に尋ねた。

現在、菜子は絢香と駿太と洸とランチに来ている。菜子が招集をかけたのだ。



「入社早々、やってしまいました。やらかしてしまったのです。私はもう会社へ行けません。」



「は?何、どしたの。」



洸が頬杖をつきながら聞く。

菜子は好きな人が職場にいたことと、金曜日の夜から翌朝にかけての出来事を話した。



「やだー!7年越しの再会!?それって運命じゃん!」



絢香は目を輝かせる。



「でも菜子の話を聞くと、脈ナシじゃね?ベロベロだったのに、ベッドに放置で襲われもしなかったんだろ?女として見られてねぇ。」



「洸!言い方!」



駿太は洸に怒る。



「女として見てない職場の女が泥酔して家に転がり込んでくるだなんて、気持ち悪いの極みですよね…よく存じておりますです…はい…」



菜子はより一層落ち込む。



「でも、帰りに菜子を送ってくれたんでしょ?気持ち悪いなら、テキトーに追い出して終わりじゃない?」



「そうだよ!アヤちゃんの言う通り!なっちゃんのこと、マイナスに思ってないんじゃないかな。」



「でも…それは、その人の優しさかも…」



「同じ職場だしな。俺なら、興味がない女でも、同じ職場なら優しくするね。悪い噂が流れるのも嫌だし。」



「洸!」



「駿太、時には正直に伝えてやるのも優しさだぜ。」



「アンタはデリカシーなさすぎ。」



絢香はフォークを洸に向けながら言う。



「…はぁぁぁ…明日から会社いけないぃぃ…」



菜子はテーブルに突っ伏す。



「まぁまぁ。まだ入社して日が浅いんだし、とりあえず今は仕事に集中してみなよ。幸い、彼とは仕事で関わり少ないんでしょ?時間が解決してくれるさ。」



絢香が言う。



「…うん、そうだよね。よし!大丈夫だ!大丈夫!気にしないでって言われたし!仕事に集中しよう!」



菜子は拳を高く上げる。

切り替えの早さに、洸は呆れて笑う。



「ふふ、頑張れなっちゃん。」



「うん!みんなありがとう!」



菜子は少し勇気をもらった。






そして、翌日。



「榛原さん!金曜日、どうだった!?」



早速、安藤が菜子に尋ねてきた。



「聞かないでください…」



菜子は机に額を押し付け、ひどく落ち込んでいる。

昨日の意気込みは何処へ行ったのか。



「ありゃ…失敗?」



「失敗も失敗、大失敗です……って、安藤さん、何か知ってるんですか!?」



「いやぁ、有賀君が途中で帰るって言うからさ、ちょうどいいと思って榛原さんを託したんだけど…まずかった?」



「なるほど…いや、とても嬉しいです、ありがとうございます…失敗は私がクズなのが原因です…」



「な、何があったの?」



「私の心が復活したらお話します…」



「り、了解。でも、もしかしたら、榛原さんが思うより失敗じゃないかもしれないよ!元気出して!」



「はい…ありがとうございます…」



そして、昼休み。

菜子はコンビニで弁当を買おうと、外へ出る。



––食欲ないな…



菜子がとぼとぼ歩いていると、後ろから声をかけられた。



「榛原さんっ。」



菜子が振り返ると、蓮弥が駆け足で近づいてくる。



「!?」



「ごめん。あの、ちょっといい?」



「は、はいっ…」



菜子は動揺と緊張で、小刻みに震えた。

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