第27話



それから、菜子は二日間実家で過ごした。

これは毎年恒例のことである。



実家で過ごす最終日の昼に、蓮弥から連絡があった。



––明日、会える?



菜子はすぐに返事をする。



––うん!会いたいです!



––良かった。連休最終日だし、どっか出かけよ。



––いいですね!どこか行きたいとこ、ありますか?

 


––海とか、川とか。暑いし、行ってみたい。



「海…!水着、は…恥ずかしいな…」



––川行きたいです!



––わかった。レンタカー借りれるか聞いてみるね。



––え、蓮君運転できるの!?



––できるけど笑



––知らなかった…



––夜以外だけどね。じゃあ、また連絡する。



––はいっ!






その後、無事にレンタカーの予約ができ、翌日を迎える。



「蓮君!」



菜子は蓮弥のもとへ駆け寄る。

蓮弥は実家の最寄り駅まで、レンタカーで菜子を迎えに来ていた。



「おはよ。荷物乗せるよ、貸して。」



「はいっ!ありがとうございます!」



菜子は蓮弥にキャリーケースを渡す。

それから2人は車に乗り込む。



「なんだか久しぶりに思える。」



「私もです!」



菜子はいつもの嬉しそうな笑顔を見せる。



「……」



蓮弥はじっと菜子を見つめた。



「…?」



菜子は首を傾げる。

すると、蓮弥は菜子の頬をふにふにと摘んだり、頭を撫でたりする。



「ん、わ、蓮君…?」



「…菜子だって思っただけ。出発するね。」



蓮弥は耳を赤くしながら、エンジンをかけた。



「?えと、はいっ…!お願いします!」






そして車を40分ほど走らせ、人気の川遊びスポットに到着した。



「わ、涼しい!」



車を降りた菜子は、瑞々しくもさらりとした空気を全身で味わう。



「ほんとだ、気持ちいいね。」



蓮弥は菜子の隣に来て、辺りの景色を眺めながら言う。



「そこの坂を下ればいいのかな?行きましょ!」



菜子は歩き出そうとしたが、蓮弥が菜子の腕を掴んで阻止した。



「菜子。俺を置いて行かないの。」



蓮弥が菜子に顔を近付けて言う。

菜子は顔が一気に熱くなり、涼しい風を感じる余裕がなくなった。



そして2人は手を繋いで、川の目の前まで来た。

川で遊ぶ子どもやカップルが多くいる。



「私たちも、入ってみましょうか!」



「うん。」



2人はズボンの裾を捲り上げ、最初の一歩を踏み出す。



「わ、冷たい!」



川の水が火照った身体を一気に冷ます。

2人は浅めの場所を歩く。



「よいしょ。」



菜子は、ぴょんと跳ねて近くの岩に腰かけた。

そして蓮弥も菜子の隣に座る。



––…蓮君、今日、なんだか距離が近い気が…



菜子は少し顔を赤らめる。

蓮弥は菜子にぴったりくっついて座っている。



「ん?」



「い、いえっ。」



「冷たくて気持ちいいね。」



「そうですね!暑さを忘れられます!」



菜子は足が地面に届いておらず、足先で水を掻き回す。



「…菜子、足浮いてるね。ちっちゃい。」



「なっ…気にしてるんですよ!」



「そうなの?かわいいのに。」



「かわっ…!?」



「うん、かわいい。」



「!」



菜子は目を逸らして黙り込んだ。




それからしばらく川遊びを堪能し、

蓮弥は菜子をアパートまで送り、キャリーケースを玄関まで運んだ。



「すみません、荷物ありがとうございます。」



「ううん。俺がもう少し一緒にいたかっただけ。」



「!」



––蓮君、やっぱり今日積極的…だよね…?



「…さ、寂しかったの?」



菜子は顔を赤らめて恐る恐る聞く。



「あ……うん。」



蓮弥は目を逸らして耳を赤くする。

菜子はその様子を見て、思わず抱きついた。



「わっ。」



「…可愛すぎです。」



「それは菜子でしょ。」



蓮弥も菜子をぎゅっと抱きしめる。



「…じゃあ、また来るね。連絡する。」



蓮弥は菜子を解放した。



「はいっ。」



菜子は笑顔で返事をする。

蓮弥はその姿をじっと見つめた後、少しかがんでキスをした。



「またね。」



蓮弥は菜子の頬を軽く摘んで部屋を後にした。



「…う゛…好き…」



菜子は頭の上から煙を吐いた。

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