第26話




「昨日はありがとう。夜の街歩くの、少し自信ついた。」



蓮弥は菜子の部屋で朝食を食べながら言う。



「良かったです!あ、でも1人ではダメですよ!危ないので!」



「うん。菜子と歩く。」



「うん!ぜひ!」



––今日は年に一度の大空祭り!屋台がずらりと並び、朝から多くの人が足を運んでいます!そして夜には、花火が打ち上がる予定です!大迫力の花火のステージを、ぜひご覧になってはいかがでしょうか!



テレビで花火大会の告知が流れ、2人は思わず目を向ける。



「大空祭り…大空公園ですね。」



「菜子と俺が会ったとこだ。」



「うん。懐かしいです。」



「…行ってみる?お祭り。」



「え!いいんですか?」



「うん、花火も見てみたい。」



「!行きましょう!お祭り!」



「うん。」



そして午後、大空公園にやってきた。

いつもは静かな公園が、今日は賑わっている。



「すごい人。」



「ふふ、蓮君いつも人の多さにびっくりしてますね。」



「…たしかに。」



蓮弥は辺りをキョロキョロ見回す。



「菜子、浴衣着たかった?」



「実は私、浴衣持ってないんです。だから大丈夫!」



「そっか。…今度選ぼうよ。俺買う。」



「えっ?」



「見てみたい。絶対可愛いと思う。」



「なっ…!?そ、そんなハードル上げるようなこと言わないでくださいっ!誰もが浴衣で可愛くなるとは限らないです!」



菜子は顔を真っ赤にする。



「ん?今も充分可愛いよ?」



「…!」



菜子は全身真っ赤になる。



「…ん」



蓮弥も自分の放った言葉を振り返り、時間差で赤くなった。



––れ、蓮君は天然なの…?



菜子は蓮弥がたまらなく可愛く思えた。




それから2人は屋台を見て回り、射的やヨーヨーすくいを楽しんだ。そしてたこ焼きと飲み物を購入し、会場から離れた人目の少ない花火の見える場所に座る。



「ごめん、何にもとれなくて。俺全然センスなかった。」



「全然いいですよ!楽しかったし!私なんか経験あるのにダメダメでした…」



「…まぁ、菜子よりはできたかな。」



「う゛、何も言えない。」



「花火始まる前に、たこ焼き食べよ。」



「そうですね!いただきます!」



2人はたこ焼き1パックを分けて食べる。



「熱そう…」



菜子は割り箸でたこ焼きを割り、一生懸命息を吹きかけて食べる。



「…ん、おいひい!」



「…かわいい。」



「ん?」



「なんでもない。」



蓮弥もたこ焼きを半分にして頬張る。



「あっっつ…」



蓮弥は涙目になりながら、急いで飲み物を飲む。



「火傷した!?」



「…ん、してない。」



「良かったぁ…ちゃんと冷まさないとダメですよ!」



「うん…じゃあ冷ましたやつ、ちょうだい。」



「え?」



「あ。」



蓮弥は口を開けた。

菜子は察して、半分に割ったたこ焼きを冷まして蓮弥の口に運ぶ。その手は緊張で少し震えていた。



「…うまい。」



「…へへ。」



菜子は照れ笑いをした。






そして、まもなく8時。



「花火、そろそろですね!」



「うん。」



すると蓮弥は菜子の手を握った。



「好きな人と花火見られるのが、こんなに嬉しいだなんて思ってなかった。」



「…!」



「きっともっと嬉しくて楽しいことが、まだまだたくさんあるんだろうね。…そう思えるのは、菜子のおかげ。ありがとう。」



「こっ、こちらこそ…!蓮君と、まだまだたくさん楽しい思い出作るんですから!」



「ふふ、うん。楽しみ。」



蓮弥は無邪気な笑顔を見せた。





そして、蓮弥の耳が聞こえなくなると同時に、花火が打ち上がった。



色とりどりの光が咲き誇り、追いかけるように身体にドンと響く大きな音がやってくる。



「わぁ…!」



菜子は興奮しながら花火を見る。



「…きれい…」



声を発した蓮弥を見ると、瞳が色とりどりにキラキラと輝いており、夢中で花火に見入っている。

菜子は優しい笑顔で蓮弥を見つめた。



「…好きだよ、蓮君。いつか、このずっしり響く花火の音も、私の想いも、高鳴る胸の音も…全部全部、届いてほしいよ。蓮君に。」



菜子は花火を見ながら声に出して言う。

蓮弥には届かないまま。


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