第34話
1週間後の土曜日。
蓮弥は家のベッドに横たわり、無心でただ天井を眺めている。表情は無く、昔の彼に戻ってしまっていた。
「…生きる意味なんか、あんのかな。」
蓮弥はぽつりと呟く。
自分の額に手を当てると、ツーッと涙が溢れた。
そして、今夜1人で街に出ようと考える。
––今度こそ、ダメかもな。
蓮弥は力なく笑った。
––ピンポーン。
「…?」
インターホンが鳴り、通販で何か購入したか記憶を探りながら、ドアを開ける。
––ガチャ。
「…!」
蓮弥は驚きのあまり、声が出ない。
「おじゃまします。」
「ちょ…!」
声の主は断りなくそそくさと家の中に入り、蓮弥は慌てる。
「…菜子…なんで…」
「…お、おかげさまで昨日退院しました!」
菜子は緊張しながら答える。
腕のギプスが痛々しいままである。
「…そっか、良かった。」
「ありがとうございます!」
「……」
蓮弥は困惑している。
何も言葉が出てこない。
「…目…泣いてました…?」
菜子は顔を近付ける。
「…!」
蓮弥は咄嗟に顔を隠して距離をとった。
その行動に菜子は傷付き下を向く。
「…俺達、終わったでしょ。何しに来たの。」
蓮弥はぐっと心を押し殺して、冷たく言い放つ。
「…勝手に終わらせないでください。」
「…?」
「今日は文句を言いに来ました。」
「え…?」
「私、返事してないですけど。お別れを承諾した覚えはありません。」
「…」
「…何なんですか。勝手に全部自分のせいにして、勝手に関係終わらせて…私のこと、そんなに嫌いなんですか?」
「ちがっ…あっ…」
蓮弥は慌てて目を逸らす。
「…私は怒ってます。自分を否定しないって約束したのに、破って勝手に離れて…蓮君が勝手すぎるから、私も勝手に来ました。そして勝手に喋ります。」
菜子はまっすぐ蓮弥から目を逸らさず言う。
「私は有賀蓮弥が好きです。」
蓮弥の心臓がドクンと大きく脈打つ。
「どんな貴方であろうと、誰が何と言おうと、私は貴方が好き。」
「……やめて…そんなこと……言うなよ…」
蓮弥の瞳からぼろぼろと大粒の涙が溢れる。
「俺は…俺は!菜子を守れないし、助けられない!辛い思いも悲しい思いもさせる!嫌なんだよ!俺のせいで、大切な人を傷付けるのも失うのも…もう嫌なんだ……好きになってごめん……」
「…そんな酷いこと、言わないでよ。」
菜子は蓮弥の腕を掴んで力なく言う。
「私は助けてほしくて、守ってほしくて蓮君と一緒にいたわけじゃない。好きだから一緒にいたの。それに、完璧な人間なんかいないんだから、傷付け合うことだってある。…それでも、私は蓮君と一緒にいたいよ。一緒に乗り越えたい。目を背けて逃げてばっかじゃ、何も変わらないもん。」
「……」
「…蓮君は…私を好きになったこと…後悔してるの…?」
菜子は手を震わせながら聞く。
「………後悔…してないよ…後悔できれば…こんなに苦しまなくて済むのに……俺…菜子のこと諦めきれなくて……でも…怖くて…」
蓮弥は泣きながら震えている。
そんな彼を菜子は片腕で優しく抱きしめた。
「…蓮君が怖い思いをした時は、私が抱きしめるから…私が怖い思いをした時は、抱きしめてほしい。それだけでいいの。それだけで、私は充分救われるんだよ。」
菜子の抱きしめる力がわずかに強くなる。
「私、怖かったよ。蓮君が離れていくの。事故に遭った時よりも、何倍も怖かった。」
「……菜子…菜子…ごめん…本当にごめん…俺…自分のことばっかで…菜子の気持ち考えられてなかった…」
蓮弥は弱い力で菜子を抱きしめ返す。
「菜子…好きだ。好きだよ。離れたくない。菜子と一緒にいたいよ…。」
「私も、離れたくありません。」
「…こんな俺だけど、一緒にいてくれるの…?」
「もちろんです。私はそばにいます。」
「…もう、菜子が俺のこと嫌になっても離してあげられないけど、それでもいいの…?」
「うん。離さないでください。」
「…うん。うん。離さない。俺のそばにいて。菜子の隣に俺を置いて。」
菜子は頷いた。
蓮弥は菜子の頬を両手で包む。
「…菜子…ありがとう…」
蓮弥は菜子にキスをした。
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